Sunday, October 03, 2021

非国民がやってきた! 003

三浦綾子『続・氷点(上下)』(角川文庫) 

大ベストセラー『氷点』(1965)の続編である。三浦綾子は、その後『ひつじが丘』『積木の箱』『塩狩峠』『道ありき』『裁きの家』を続々と送り出し、『続・氷点』(1971)に至っている。どれも読んでいない。三浦綾子の代表作をいくつか読もうと思うが、長編小説だけでも『雨はあした晴れるだろう』(1998年)まで夥しいので、ごく一部しか読めない。というわけで、『続・氷点』である。

陽子の自殺未遂で幕を閉じた前編では人間の原罪が主題だった。続編も同じ人物群が中心だ。父親啓造、母親夏枝、息子の徹、娘の陽子、医師の村井など。続編では陽子の実母である恵子、その息子・達哉らが加わる。旭川と札幌を中心に北海道という場も同じである。京都・南禅寺にも出かけるが、サロベツ原野や北海道大学キャンパスや支笏湖など、北海道という舞台を駆使する。主題は赦しである。前編と続編を通じて全体テーマは愛と罪と赦しということになる。

稚内でのエピソードとともにサハリン(樺太)が出て来る。樺太が出て来る小説は珍しいのではないだろうか。1945年まで樺太は日本領だった。千島樺太交換条約で千島が日本、樺太がロシアとなったものの、その後の歴史過程で南樺太が日本領となった。第二次大戦終了後に、ソ連軍が千島に攻め込んで、現在の北方領土問題となっているが、何処からどう見ても奇妙な話だ。千島列島全体を日本領土と主張する声はほとんどない。なぜか南千島を「北方領土」と呼び換えて領土主張をしているが、北千島や中千島と切り離す合理性がない。また樺太については領土主張をしていない。北海道でも、千島の択捉・国後出身者による「北方領土返還運動」は続くが、樺太については聞いたことがない。

私は札幌郊外の生まれ育ちだ。子どもの頃、近所に2カ所、樺太からの引揚者住宅があり、そこの子どもが遊び仲間だった。特に2人は小学校の同級生で親しかった。周囲は一戸建ての住宅地に、2カ所だけ引揚者住宅の貧しい長屋があり、真ん中には小さな広場と井戸があった。子どもの頃、樺太からの引揚者住宅とは何か、その意味を知らなかった。1か所は中学生の頃に、1970年までに、長屋がなくなった。

もう1か所がいつなくなったかはわからない。私は1974年に東京に出た。1990年に帰省した時、すでに長屋はなくなり、大きなマンションが建っていた。一戸建て住宅地に1カ所だけマンションビルになっていたのを記憶している。

『続・氷点』(1971)の頃、北海道各地に樺太からの引揚者住宅があったのだろう。樺太からの引揚者がどのくらい、どこに住んでいたのか知らない。彼らの歴史も現在も知らない。

樺太が私の視野に入ってきたのは1990年代、サハリン残留韓国人問題が浮上した時だ。1つは、残留問題だ。日韓併合で韓国人に日本国籍を押し付けて、サハリンに強制連行しておきながら、戦後、日本国籍を剥奪した。日本人だけが帰国し、韓国人を現地に棄ててきた。日本人でないからだ。もう1つは、虐殺事件だ。正確なことは知らないが、敷香などで帰国を訴える韓国人を殺して、日本人だけが逃げた話があったようだ。

近現代日本史に樺太はほとんど登場しない。これも奇妙な話だ。日本文学でも樺太は忘れられているのではないだろうか。『続・氷点』にも小さなエピソードとして少し登場するだけで、主題となっているわけではないが、三浦綾子は樺太問題を知っていたのだろう。

非国民がやってきた! 001

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非国民がやってきた! 002

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