Thursday, September 28, 2023

コリアン・ジェノサイドとしての関東大震災朝鮮人虐殺

1999年と2000年の国連人権委員会(現・国連人権理事会)で「関東大震災朝鮮人

虐殺はジェノサイドである」と発言して20数年になる。

その後も時折、同じ主張を著書や論文に書いてきたが、今年は虐殺100年の節目に当たる。この夏、10回ほど機会をいただいて、コリアン・ジェノサイドについて講演してきた。

101日にヒロシマ講座で同じテーマの報告をさせてもらうので、私のコリアン・ジェノサイド論を一応まとめたい。

国際法の議論としてはまだまだ不十分で、理論的に詰め切れていないが、101日の講演のレジュメを下記に貼り付ける。

https://maeda-akira.blogspot.com/2023/09/blog-post.html

「コリアンジェノサイド」としての関東大震災朝鮮人虐殺

10 1 () 13:3016:30

会場:新宿区男女共同参画推進センター

 

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2023年10月1日

ヒロシマ講座

新宿区男女共同参画推進センター

 

コリアン・ジェノサイド

関東大震災朝鮮人虐殺

前田朗(朝鮮大学校講師)

 

 

写真①ほうせんかの家と追悼碑

荒川土手、四つ木橋

 

 

<報告の趣旨>

    関東大震災朝鮮人虐殺をジェノサイドの視点から考える。

    関東地方における一つの事件としてだけではなく、日本による朝鮮植民地支配全体の中に位置付ける。

    世界史における出来事として位置づけ、近現代におけるジェノサイドと比較する。

    朝鮮植民地支配と虐殺事件を国際法のレンズを通して見直す。

    生物学的物理的ジェノサイドだけでなく、文化ジェノサイド概念を参考に、近現代日朝関係史及び在日朝鮮人史を再検証するための視座を設定する。

    ジェノサイド状況を認定するだけでなく、ジェノサイド犯罪の成立について検討する。

 

写真②横網町公園、慰霊堂

朝鮮人犠牲者追悼碑

石原町遭難者碑

 

一 はじめに

 

1 人種差別撤廃委員会 1995年、日本が人種差別撤廃条約批准

            1997年、人種差別撤廃委員会を傍聴

            ヘイト・スピーチという言葉に出会う

            1998年秋「テポドン騒動」でヘイト・クライムと表現

2 国連人権委員会   19982000年、国連人権委員会に報告

            Armenian GenocideJews Genocide

            Kanto Genocide in 1923

                     Korean Genocide in Kanto at 1923

3 国連国際法委員会  199195年の植民地支配犯罪論

            1996年・人類の平和と安全に対する罪の法典草案

            1998年・国際刑事裁判所規程

4 ダーバン会議    2001年の獲得目標:植民地支配は人道に対する罪

            宣言:植民地支配下の奴隷制は人道に対する罪

5 最近の研究     加藤直樹『九月、東京の路上で――1923年関東大震災

ジェノサイドの残響』(ころから)

            康成銀『康ソンセンニムと学ぶ 朝鮮と日本の2000年』

(スペース伽耶)

『記録集・関東大震災95周年朝鮮人虐殺犠牲者追悼シ

ンポジウム――関東大震災時の朝鮮人虐殺と植民地支

配責任』(朝鮮大学校朝鮮問題研究センター)

佐藤冬樹『関東大震災と民衆犯罪』(筑摩書房)

――エスノサイド

6 植民地化過程の研究 井上勝生『明治日本の植民地支配』(岩波書店)

            ・東学農民戦争における川上操六参謀次長兼兵站総監

            ・飛鳥井少佐の問い合せと仁川兵站監部の回答

            ・島田為三郎軍曹の手紙(『徳島日日新聞』)

            ・町田盛四郎軍曹の手紙(『宇和島新聞』)

            ・南小四郎大隊長・講和記録

 

写真③中国人虐殺現場、大島町大島文化センター前

 

二 ジェノサイドとは何か

 

1 ラファエル・レムキン

・アルメニアの虐殺を犯罪化する刑法

1944年著作でジェノサイドを提案

・「国民集団の文化や、言語、国民感情、宗教、経済の存在を解体したり、その集団に属する個人の人身の安全、自由、健康、尊厳や生命を破壊することである。ジェノサイドは、統一体としての国民集団に向けられ、その行為が個人に向けられるのは、その個人の特性によるのではなく、その国民集団の一員であることによる。」

 

2 ジェノサイド条約

1948年国連総会、ジェノサイド条約

・第2条「この条約において、ジェノサイドとは、国民的、人種的、民族的又は宗教的な集団の全部又は一部に対し、その集団自体を破壊する意図をもって行う次のいずれかの行為をいう。

a      当該集団の構成員を殺害すること。

b      当該集団の構成員の身体又は精神に重大な害を与えること。

c      当該集団の全部又は一部に対し、身体的破壊をもたらすことを意図した生活条件を故意に課すること。

d      当該集団内部の出生を妨げることを意図する措置をとること。

e      当該集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。」

・要素(1)集団の全部又は一部

・要素(2)集団を破壊する意図

・要素(3)実行行為(a)~(e

 

3 国際刑事裁判所規程

1994年ルワンダ国際刑事法廷規程

1998年国際刑事裁判所規程

2002年ハーグ(オランダ)に国際刑事裁判所

 

4 国際裁判判決

・国際刑事法廷初のジェノサイド事件:1998年ルワンダ法廷アカイェス事件

・カンバンダ事件、ムセマ事件、カイシェマ事件、セルシャゴ事件

・現在は国際刑事裁判所でジェノサイド判決

 

写真④王希天虐殺現場、逆井橋

大島町7丁目・サンロード中の橋

大島緑道公園

 

三 ジェノサイドの現代史

 

・歴史学、国際政治学におけるジェノサイド

・ジョージ・アンドレプーロス編著『ジェノサイド』

 

1 ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺

 

2 アルメニア・ジェノサイド

 

3 クルド・ジェノサイド

 

4 カンボジア・ジェノサイド

 

5 東ティモール文化ジェノサイド

 

写真⑤正樹院/具学永

浄願寺

 

四 コリアン・ジェノサイドを考える

 

1 植民地ジェノサイド

・植民地支配犯罪の一環としての植民地ジェノサイド

1894年、甲午農民戦争

1896年、第1次義兵運動

1919年、3・1独立運動

・愼蒼宇「『朝鮮植民地戦争』の視点から見た武断政治と三・一独立運動」

『朝鮮史研究会論文集』第58集(2020年)

・井上勝生『明治日本の植民地支配』(岩波書店、2013年)

2 関東大震災ジェノサイド

・鄭永寿「関東大震災朝鮮人虐殺に対する植民地期在日朝鮮人運動と一〇〇

年目の課題」『人権と生活』56(2023年)

3 コリアン文化ジェノサイド

・「同化主義」「皇民化政策」

・「文化統治」朝鮮語使用の禁止、日本語使用の強制

・略奪文化財問題

・在日朝鮮人に対する差別的な在留管理・外国人登録体制

・奪われた民族性回復のための民族学校に対する差別と弾圧

4 ジェノサイド否定:歴史の事実を否定・歪曲するホロコースト否定

・ドイツの「アウシュヴィツの嘘犯罪」

・欧州など30カ国に刑法

・韓国で立法提案(成立せず)

・「慰安婦はなかった」

・「関東大震災朝鮮人虐殺はなかった」

・「朝鮮植民地支配はよいところもあった」といった歴史修正主義発言

・鄭栄桓「192393日の「体験」とは何であったか――ドーティー/

ジョンストン日記を読む」『人権と生活』56(2023年)

 

 

写真⑥安盛寺、長峰墓地

 

五 ジェノサイド犯罪の成立について

 

   ・日本はジェノサイド条約を批准していないが

   ・批准した場合を仮定して検討すると

 

1 ジェノサイド状況

 

2 個人の犯罪としてのジェノサイド(被告人A

   ・当時の裁判で殺人罪で訴追された実行犯

   ・殺人罪ではなく、ジェノサイドの罪の成否の検討(条約第2(a)

・要素(1)集団の全部又は一部

・要素(2)集団を破壊する意図

・要素(3)実行行為(a)~(e

   ・破壊する意図の証明

 

3 ジェノサイドの煽動(被告人B

   ・92日の戒厳令

   ・9月3日の内務省警保局長の打電

   ・警察官による煽動行為

   ・震災直後数日の新聞報道

   ・自警団の組織化

   ・実行犯による殺人行為

   ・ジェノサイド条約第3条(b)ジェノサイド実行の共謀

   ・ジェノサイド条約第3条(c)ジェノサイド実行の直接公然たる煽動

 

4 上官の責任

   ・国際刑法上の責任観念(山下事件判決)

   ・国際刑事裁判所規程第28条(指揮官その他の上官の責任)

   ・部下の犯罪を知っていた or知っているべきであった

   ・防止又は抑止のため必要かつ合理的な措置を取らなかった

 

5 国家の法的責任

 

写真⑦熊谷寺

   常泉寺/姜大興

 

六 おわりに

 

・多面的多角的な研究の必要性

・総合的研究の必要性

      国際法、国際刑法、歴史学、政治学……

・国際的なジェノサイド研究との連接

      特に国連ジェノサイド防止事務所

 

 

 

 

 

<参考文献>

前田朗「コリアン・ジェノサイドを考える――関東大震災朝鮮人虐殺100年を契機に」『人権と生活』56(2023年)

前田朗「日本植民地主義をいかに把握するか(11)関東大震災朝鮮人虐殺を国際法から再考する」『さようなら!福沢諭吉』第15(2023)

前田朗「日本植民地主義をいかに把握するか(6)文化ジェノサイドを考える」『さようなら!福沢諭吉』第10(2020)

前田朗「日本植民地主義をいかに把握するか(7)コリアン文化ジェノサイド再論」『さようなら!福沢諭吉』第11号(2021年)

前田朗『戦争犯罪論』(青木書店、2000年)

前田朗『ジェノサイド論』(青木書店、2002年)

前田朗『人道に対する罪』(青木書店、2009年)

前田朗『増補新版ヘイト・クライム』(三一書房、2013年)

前田朗『ヘイト・スピーチ法研究要綱』(三一書房、2021年)