ブラジルが人種差別撤廃委員会CERD第108会期に提出した報告書(CERD/C/BRA /18-20. 15September 2020)
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一九八九年の法律七七一六号は、人種、皮膚の色調、民族、宗教、国籍に関連する差別と偏見に関する犯罪を定義し、一年以上五年以下の刑事施設拘禁を刑罰とする。
一九九七年の法律九四五九号は、法律七七一六号に加えて、人種主義思想の宣伝、煽動、拡散を犯罪化する。同法第二〇条一項は、ナチスを助長するためにシンボル、エンブレム、装飾、サインを製造、取引、配布、拡散、鉤十字を用いた宣伝は、二年以上五年以下の刑事施設収容並びに罰金で処罰される。ソーシャルメディアや出版によって、人種、皮膚の色調、民族、宗教又は国民的出身に関連して差別や偏見を行い、引き起こし、煽動した場合も同じ刑罰である。
同法第二〇条三項は、検察の要請に従って、警察捜査の前に、関連する証拠捜索・押収のため、ラジオ・テレビ、電子送信、出版の中止を決定することができる。
人種偏見と差別が、市民の人格にダメージを与える脅威、制限、原因となる行為に当たる場合、実行犯は民事訴訟によって被害者補償を命じられる。
一九九五年と二〇〇〇年の調査によると、人種差別被害者による警察への申告は一〇五〇件、六二%が捜査され、三七%が裁判になった。有罪は〇・四%にすぎなかった。二〇〇三年から二〇一一年の調査によると、サンパウロ高裁は八〇七件の人種差別事件を扱い。捜査が行われたのは一一九件(一四・七%)であった。最高裁が扱った事案は、人種的中傷が七三%、人種主義が一五%であった。裁判にかかった事案では、五三%が中傷、七%が人種主義であった。
ヘイト関連事件の裁判例としてエルワンガー事件が有名である。リオ・グランデ州のカンデラリア生まれのジークフリード・エルワンガー・カスタンは第二次大戦の歴史修正主義とホロコースト否定に関する著書を四冊出版した。ナチス思想と反ユダヤ主義の伝達の容疑で一九九〇年に起訴されたが、無罪となった。一九九八年、ふたたび起訴され、二度目の裁判で人種主義犯罪ゆえに二年の刑事施設収容を言い渡された。
エルワンガー事件は範例となった。しかし、本件はブラジルで一九八九年の法律七七一六号と一九九七年の法律九四五九号が適用された例外的事例であり、アフリカ系ブラジル人に対する事件が同じ取り扱いをされることがない。
二〇〇六年、NGO、連邦検察、警察、大統領府人権事務所のパートナーシップにより、サイバースペースの犯罪と人権侵害申告のオンライン・システムが始まった。人種主義、宗教的不寛容、排外主義、反ユダヤ主義のサイバー事案の監視と捜査が始まった。オンライン上でなされた犯罪の反人種主義的保護のためのホットラインである。
NGOオンライン・システムには世界各地から申立てがなされる。二〇〇六年から一七年、ポルトガル語が二五%、英語が一七%、ロシア語が二%であった。
二〇一六年まで、インターネット上の反人種主義規制法についてコンセンサスがなかった。二〇一二年の法改正及び二〇一六年の連邦法案が、法律七七一六号を修正して、サイバー人種主義の現状への対処を可能にした。表現の自由の無制限の保障を主張する見解もあるが、政府による人種主義の予防への重要な前進が図られた。
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CERDがブラジルに出した勧告(CERD/C/BRA/CO/18-20. 19 December 2022)
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ヘイト・スピーチとヘイト・クライムが増加している。政府高官など公の当局によるヘイト・スピーチ事件が複数報告されている。条約第四条に従って人種主義ヘイト・スピーチを犯罪とする法規制があるか否かの情報が欠けている。オンライン・ヘイト・スピーチを規制する法に関する情報がない。訴追や判決の数が非常に少ない。条約第四条に定義されたヘイト・スピーチを法規制すること。サイバースペースにおいて犯罪が起きるのに確実に対処すること。政府高官など公の当局によるヘイト・スピーチを予防すること。オンラインも含むヘイト・スピーチの報告制度を用意すること。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの訴追と判決が非常に少ない原因に対処すること。差別被害者のための法律支援を強化し、警察、検察、裁判官にヘイト・スピーチとヘイト・クライムについて研修を行うこと。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの申立て、訴追、判決の情報を収集し、次回報告すること。
人種プロファイリングの申立てについて迅速かつ公正な捜査を行い、責任を問い、被害者に補償すること。人種プロファイリングに関する法と政策を見直すこと。人種プロファイリング事件を監視する情報収集制度を設けること。