Friday, December 20, 2024

ヘイト・クライム禁止法(217)スロヴァキア

スロヴァキアが人種差別撤廃委員会CERD107会期に提出した報告書(CERD/C/SVK/1. 20 July 2020

前回報告書について、『要綱』四二二頁。

前々回報告書について、『序説』五九七頁。

二〇一七年施行の刑法第四二一条は、基本権と自由を抑圧する目的の運動を支持・助長する犯罪を定め、そうした運動や団体の設立は犯罪化された。刑法第四二二条は、基本権と自由を抑圧する目的の運動に共感を表明することを犯罪とする。刑法第四二三条は、国民、人種、信仰を誹謗中傷すること、刑法第四二四条は、国民、人種、民族憎悪の煽動を犯罪とする。

人種差別を助長・支持する団体を特定する任務は、過激主義・テロ犯罪対策の一環である。近年、人種差別や不寛容の事案が路上から言説空間に移行しつつある。多くの場合、インターネット上のソーシャル・ネットワークを通じて行われる。

刑法第一四〇条(e)は、ヘイト・クライム実行の動機について、人種、国民、国籍、民族集団、出身、皮膚の色、ジェンダー、性的指向、政治的信念又は宗教を例示する。

人種動機による犯罪は刑法第四二一条以下に規定がある。第四二一条は基本的人権と自由を抑圧する目的の運動の設立、支援、助長を犯罪とする。第四二二条は基本的人権と自由を抑圧する目的の運動に共感を表明すること、第四二三条は国民、人種、信仰の侮辱、第四二四条は国民、人種、民族憎悪の煽動、第四二四条a項は人の集団に対するアパルトヘイトと差別を定める。これらの犯罪は二〇一七年一月以後、過激主義との闘いの強化に伴って、特別検事局と特別刑事裁判所の管轄となった。

刑法第一四〇条e項は、人の集団又は個人に対するヘイト・クライム実行の動機について、人種、国民、国籍、民族集団、出身、皮膚の色、ジェンダー、性的指向、政治的信念又は宗教を掲げる。

インターネットやソーシャルネットワークの上の情報や言説の調査、監視、分析は検事局のみならず、一定の場合には安全保障部隊や外国から得られた情報分析にも及ぶ。

『人種主義・排外主義・反ユダヤ主義・不寛容予防撤廃行動計画二〇一六~一八年』の評価のさなかである。

二〇一七年一月、司法省はヘイト・クライム訴追の包括的法改正に取り組んでいる。

刑法第四二四条は国民、人種、民族憎悪の煽動を、人種、国民、国籍、民族集団、出身、皮膚の色、性的指向、宗教の構成員の個人又は集団に対する暴力と憎悪の公然たる煽動とする。公然たる煽動にはメディアやインターネット上のソーシャル・ネットワークを通じての憎悪の煽動が含まれる。

二〇一九年九月三日、われらスロヴァキア人民党の元議員ミラン・マズレクは、ラジオの生放送でロマの人々に対する侮辱発言をしたため、最高裁で有罪を言い渡された。マズレクは刑法第四二三条の国民、人種、信仰の侮辱犯罪で起訴された。一審裁判所は一万ユーロの罰金を言い渡し、最高裁はこれを支持した。当時の憲法に従って、マズレクの国会議員の職務は停止された。本件はメディアが大きく取り上げ、ロマに対するヘイト・クライムや誤情報に対するキャンペーンが行われた。

 二〇一八年五月、フィリピン人ヘンリー・アコーダがスロヴァキア市民のユライ・Hにより殺された。Hは酩酊し、薬物も使用しており、傷害の数日後にアコーダが死亡した。ブラチスラヴァ地方裁判所に対する控訴がなされ、ブラチスラヴァ地域裁判所は、二〇一九年九月一七日、Hに九年の刑事施設収容、アルコール・リハビリ計画参加、及び被害者への補償を言い渡した。人種動機の疑いが捜査されたがその証明はできなかった。

二〇一七年七月一日、文化的国内マイノリティ支援基金が発効し、新しい独立機関が設置され、政府から権限が移管された。国内マイノリティの文化価値を保護し発展させ、教育と権利の保護、文化間対話を促進する。文化省文化遺産局は、人種主義や排外主義の予防のため、教育や出版活動を行う。

二〇一九年九月一〇日、国民評議会は、二〇世紀のユダヤ人迫害と共産主義体制下のキリスト教会迫害に関する決議を行った。同年九月九日のホロコースト被害者記憶日に、ペーター・ペレグリニ首相は道義的関与を唱え、二度とこうした歴史を繰り返さないよう呼びかけた。同年二月五~六日、OSCE反ユダヤ主義と闘う国際会議がブラスチラヴァで開催された。スロヴァキアはホロコーストの悲劇の再発防止に国際協力している。

毎年八月二日、ロマ・ホロコースト記念日に政府はロマ共同体のためのソーシャル・ネットワークの「記憶のキャンドル」を組織し、誰もが参加できるようにしている。一九四四年八月二日にアウシュヴィツ強制収容所で約三〇〇〇人のロマが殺害された事件を記念したもので、ユダヤ文化博物館と協力している。

第二次大戦時の収容所があったセレドのホロコースト博物館は人種主義や排外主義を予防する教育活動に参加している。セレド・ホロコースト博物館教育センターは学校、教員、一般公衆に対する教育訓練行事に協力している。

CERDがスロヴァキアに出した勧告(CERD/C/SVK/CO/13. 16 September 2022

民族的マイノリティに対する攻撃やオンライン上の人種主義ヘイト・スピーチが見られる。過激集団が人種差別を煽動している。人種差別を煽動・助長する集団とその活動に法的措置を取ること。人種動機犯罪を捜査、訴追、処罰すること。標的とされたコミュニティと協力して、信頼の欠如に対処するため、ヘイト・クライムを通報する代替制度を作ること。ヘイト・クライムとヘイト・スピーチの捜査に十分な関心が払われるよう、適切な人的、財政的資源を投入すること。

メディアとインターネット上で、及び政治家の演説でロマや非市民などの民族マイノリティに対するヘイト・スピーチが続いている。メディアに関する法律が条約や国際人権基準に合致して、人種主義の予防、抑止に資するようにすること。ヘイト・スピーチ事件すべてが捜査、訴追、処罰されることを確保すること。ヘイト・スピーチ事件の申立て、訴追、判決に関する情報を提供すること。多様性の尊重と人種差別撤廃のため公衆に啓発キャンペーンを行うこと。

人種プロファイリングが行われているとの情報がある。法執行官による人種プロファイリングに関連する情報が政府から報告されていない。警察による実力行使と人種差別についての申立てを捜査する適切な独立監視メカニズムを設置すること。人種プロファイリングに対処する包括的措置を履行すること。