Wednesday, April 30, 2025

軍国主義はお花畑 ――軍隊のない国家で考える

 共同テーブル「新しい戦前にさせない」連続シンポジウム

15回「非武装中立のリアリズム」

2025年4月24


軍国主義はお花畑

――軍隊のない国家で考える

前田朗(朝鮮大学校講師)

 

 

0 法学者はなぜ戦場に行くのか

    アフガニスタン調査ツアー

    RAWA(アフガニスタン女性革命協会)と連帯する会

Ⅰ シンポジウムの趣旨

Ⅱ いま石橋政嗣の『非武装中立論』をどう読むか

Ⅲ 軍隊の基本4原則

Ⅳ 軍隊のない国家で考える

非暴力・非武装・無防備、平和外交、平和教育

Ⅴ 4つの非武装憲法

Ⅵ 平和的生存権を実現するために

権利としての平和

平和への権利宣言運動

 

 

 

 

Ⅰ シンポジウムの趣旨

 

 

・自公政権下の軍国主義路線(集団的自衛権、安保3文書、軍事費増強など質量両面での軍拡、南西諸島シフトにおける戦争体制構築と戦争煽動、国民の平和意識の揺らぎ・変容等)の現実に抗して、戦争にストップをかけ、流れを押しとどめる運動。

 

・憲法前文の国際協調主義と平和的生存権、憲法9条の戦争放棄と軍隊不保持の思想を再活性化し、平和運動を再構築する運動。

 

・個人レベルでは非暴力と市民的不服従。

 

・自治体レベルでは戦争不協力(ピースゾーン/平和都市宣言、平和港湾宣言、非核都市宣言、無防備地域宣言等)。

 

・特に琉球/沖縄における反基地闘争(米軍及び自衛隊)。

 

・自衛隊基地増強、戦争挑発政策に対して、住民保護の軍民分離論。

 

・国家レベルでは9条擁護(憲法改悪反対、安保法制違憲訴訟、武力によらない安全保障論等々)

 

・地域レベルでは東アジの平和運動(日韓・日朝・日中連帯運動、東アジア共同体論、東北アジア非核地帯運動等)。

 

・国際レベルでは反核反戦の思想と運動(国連平和への権利宣言、核兵器禁止条約、ガザをめぐる国際司法裁判所・国際刑事裁判所の動き等)

 

・以上の全体を射程に入れつつ、日本における非武装中立論の現在的意義を再検討し、運動論を構築する。

 

 

  

 

Ⅱ いま石橋政嗣の『非武装中立論』をどう読むか

 

 

*石橋政嗣『非武装中立論』(日本社会党中央本部機関紙局、1980年)

*石橋政嗣『非武装中立論』(解説・大塚英志、明石書店、2006年)

 

 

はしがき

第一章 平和憲法と非武装中立

 新たな「戦前」への動き/強まる制服組の発言力/日米共同作戦と海外派兵/憲法の空洞化と歪曲の歴史/「交戦権」認めた法制局長官/ねらいは憲法改悪と軍事大国

第二章 非武装中立と自衛隊

 自己増殖を続ける軍事力/アメリカの軍備増強の押しつけ/軍事費増と死の商人/仮想敵国ソ連と「日米共同防衛」/「非武装中立」の条件/「愛国心」の意味/「非武装中立」へのプロセス

第三章 非武装中立と日米安保条約

 アメリカの世界戦略の変化/軍事同盟と共同責任/日米政府それぞれのねらい/共同作戦計画と対ソ包囲/高級軍人の本音とは/死の商人の論理/恐怖の均衡か平和友好の拡大か

第四章 平和憲法と有事立法

 形骸化したシビリアン・コントロール/栗栖発言と防衛庁統一見解/“非常時”立法と機密保護法/有事立法の三つのケース/「三矢計画」の中身/有事立法とわれわれの闘い

第五章 八〇年代と非武装中立

 強まるファッショ化の危険性/憲法感覚の変化と自衛隊のひとり歩き/行政権力の強化と教育・マスコミの変化/革新退潮の要因/改憲への突破口と安全保障の道/「極東の平和と安全」とは/軍国主義の芽と核戦争の可能性/いまこそ「憲法改正」阻止の闘いを

 

*復刊によせて(大塚英志)

 可能性としての「非武装中立」――何故「ことばの力」に安全保障を託すべきなのか

*解説(大塚英志)

 「虚勢」ではない安全保障論をいかに語るか

 

 

  

Ⅲ 軍隊の基本4原則 (by前田)

 

   軍隊は国民を守らない

・軍隊は国家を守る

・軍隊の本務は交戦であり、害敵行為、つまり戦闘

・軍隊の活動・訓練・装備は本務中心

・軍隊の第2の本務は治安維持(ex戒厳令)

  ・災害救助は副次的任務

 

   軍隊は国民を守れない

・国民保護は行政(地方自治体)の任務

・軍隊の活動は本務優先

・活動・訓練・装備は国民保護を目的としない

・本務のない時、本務に反しない限度で副次的任務

 

   軍隊は国民を巻き込む

・軍隊の本務遂行に際して国民を巻き込む(死傷させる)

・軍事行動は軍事目標中心であるが、徹底することは不可能

・現代国家では軍民分離が不可能

・軍隊自身を守るために国民を巻き込む

 

   軍隊は国民を殺す

・軍隊は敵軍や敵国民だけでなく、自国民を殺す

・軍隊は反軍的又は非協力的な国民を殺す

・軍隊は国民的マイノリティを殺す

・軍隊は「非国民」を殺す

・軍隊は自国軍人を殺す

 

 *「自国民を殺したことのない軍隊はあるか?」

  ・日本、韓国、中国、台湾、フィリピン、ヴェトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー(ビルマ)、インド、パキスタン、アフガニスタン、イラン、イラク、シリア、イスラエル、エジプト、リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、スペイン、フランス、イギリス、と太平洋から大西洋へ、どの軍隊も国民を殺した

  ・敵国民を殺さず、自国民しか殺したことのない軍隊がいくつもある

 

  

Ⅳ 軍隊のない国家で考える

*前田朗『軍隊のない国家』(日本評論社、2008年)

はしがき――軍隊のない世界へようこそ

序章 なぜ軍隊のない国家か

第一章   隣国には軍隊がない ミクロネシア

1 史上初の非核憲法       ミクロネシア連邦

2 親日で知られるパラオ     パラオ共和国

3 ビキニ水爆実験の島      マーシャル諸島共和国

4 リン鉱石の島         ナウル

5 最初に夜が明ける国      キリバス共和国

第二章   非核の南太平洋を ポリネシア

6 非核条約をつくる       クック諸島

7 太平洋の岩          ニウエ

8 伝統と豊かな自然       サモア独立国

9 国が海に沈んでいく      トゥヴァル

第三章   戦争の記憶をめぐって メラネシア

10 日本兵餓死の島       ソロモン諸島共和国

11 女性がつくった憲法     ヴァヌアツ共和国

第四章   軍隊のないイスラム国  インド洋

12 百%イスラム教       モルディヴ共和国

13 豊かな虹の国        モーリシャス共和国(*国境警備隊の権限・装備が軍隊化?)

第五章   大国の狭間で生きる  ヨーロッパ

14 七百年の平和の旅      アンドラ公国

15 城塞に囲まれた共和国    サンマリノ

16 地中海の宝石        モナコ公国

17 君主が軍隊を廃止      リヒテンシュタイン侯国

18 世界最小の教皇国家     ヴァチカン市国

19 白夜の国から米軍撤退    アイスランド共和国

20 欧州統合の牽引車      ルクセンブルク公国(*自国軍はないが、NATO加盟)

第六章   自由と独立を求めて 中米・カリブ海

21 ハミングバードの聖地    ドミニカ国

22 二つの革命の記憶      グレナダ

23 奴隷解放の闘い       セントルシア

24 希望としての光の季節    セントヴィンセント・グレナディンズ

25 分離独立運動に揺れる    セントクリストファー・ネヴィス

26 運河に翻弄された国     パナマ共和国

27 平和・教育・自然保護    コスタリカ共和国

終章 憲法第九条を活用するために

Ⅴ 4つの非武装憲法

 

1 軍隊のない国家の特徴

 ・第1に、もともと(長い間)軍隊を持たない国(アンドラ、サンマリノ、モナコ等)

 ・第2に、軍隊が国民を殺害したために廃止した国(コスタリカ、ドミニカ)

 ・第3に、外国軍によって占領されて軍隊が解体された国(グレナダ、パナマ)

 ・第4に、集団安全保障体制を結んだ国(カリブ諸国)

 ・第5に、外国との自由連合協定下にある国(クック諸島、ニウエ等)

    *

 ・第6に、非武装永世中立の国(コスタリカ)

 ・第7に、非核憲法をもつ国(ミクロネシア、パラオ)

 

2 本物の非武装憲法 (byクリストフ・バーベイ)

1921年リヒテンシュタイン侯国憲法第44

1949年コスタリカ共和国憲法第12

1979年キリバス共和国憲法第126

1994年パナマ共和国憲法第305条(現310条)

 

3 国家に軍隊は不可欠か?――「常備軍の神話」

 ・第1に、国連加盟国193カ国のうち24カ国が軍隊を持たない

 ・第2に、軍隊のない国家が増えてきた

 ・第3に、歴史、外交政策、教育、市民社会のあり方

非暴力・非武装・無防備

平和外交

平和教育

         若者が殺人訓練をしていない国

 ・第4に、憲法第9条の「影響」はあるか?

         まったくない

         なぜか?

         日本政府は第9条を守らず、敵視

         日本政府は第9条を国際的に宣伝普及しなかった

         日本国民も第9条を十分活用しなかった

         「日本列島には世界最強の軍隊」(斎藤貴男)

 

 

 Ⅵ 平和的生存権を実現するために

                  *前田朗『旅する平和学』(彩流社、2017年)

                  *前田朗『憲法9条再入門』(三一書房、2023年)

1 人民・民衆には戦う理由がない

  ・人類史に戦争はつきものではない

  ・人民・民衆の日常は戦争と無縁

  ・殺すことも殺されることもない権利

  ・ピースゾーンをつくる権利

  ・つくられたナショナリズム、つくられたミリタリズム

  ・軍需産業問題

  ・軍事科学技術問題

2 権利としての平和

――平和に生きる権利right to live in peace

by ダヴィド・フェルナンデス・プヤナ)

  ・平和は「戦争のない状態」ではない

  ・日本国憲法前文第2段落第2

われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

  ・ブルンジ憲法14

すべてのブルンジ国民は平和と安全のうちに生存する権利を有する。すべてのブルンジ国民は、人間の尊厳を尊重し、差異に寛容であり、調和のうちに生きなければならない。

・ボリビア憲法109「ボリビアは平和国家であり、平和の文化と平和の権利を促進する」

・カメルーン憲法23「すべての人民は国内及び国際の平和への権利を有する」

・コンゴ共和国憲法52「すべてのコンゴ国民は、国内レベルでも国際レベルでも平和と安全への権利を有する」

・ギニアビサウ憲法5条「国民の尊厳、並びに自由、前進、平和への人民の権利」

・ペルー憲法2・22「すべての個人は、平和、平穏、余暇の享受、休養への権利、並びに、その生活のために均衡のとれた適切な環境への権利を有する」

3 国連平和への権利宣言(2016年)right to peace

1条 すべての人は、すべての人権が促進され保護され、かつ発展が十分に実現するような平和を享受する権利を有する。

2条 国家は、社会内及び社会相互間の平和を構築する手段として、平等及び無差別、正義、並びに法の支配を尊重し、実施し、促進し、かつ恐怖及び欠乏からの自由を保障しなければならない。