Sunday, December 28, 2025

深沢潮を読む(10)家庭における女性差別の諸相

深沢潮『乳房のくにで』(双葉社、2020年)

 

新潮社が週刊新潮誌上でおわび掲載へ コラムへの校閲指摘、修正せず

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20251224004214.html?oai=ASTDS3GBLTDSUCVL01TM&ref=msn_kijinaka

 「週刊新潮118日号」によると、「人権デューデリジェンスの新たな取り組みについて」と題して2ページの社告を掲載。731日号に掲載された元産経新聞記者高山正之氏のコラム「変見自在」には、外国ルーツの人の人権への配慮を欠いた内容が含まれていたとし、深沢さんらの実名を挙げて日本名の使用に言及した部分に厳しい批判を受けたことについて「重く受け止めております」と記した。校了前には、校閲部員が指摘したにもかかわらず、社内の担当者と筆者が注意深く検討しないまま校了し、修正されずに掲載されたという経緯を明らかにした。

 そのうえで、コラムは差別的で人権侵害といった指摘を受けたとして、編集長名で深沢さんらへのおわびをつづった。連載は2002年から1千回超にわたって続いていたが、8月に終了した。編集長は「(筆者の)意向を過度に尊重するあまり、人権への配慮やチェック意識を充分に働かせることができなかったことが原因であると、反省しております」とも記している。

『乳房のくにで』は深沢の第10作である。

恋愛、お見合い、結婚、夫婦生活、妊娠・出産、育児など女性の人生を主題にすることの多かった深沢が、本作では「乳母」の人生を描いている。

冒頭、乳飲み子を抱えたシングルマザーの苦労話から始まる。母乳の少ない母親に代わって、赤ん坊に授乳する仕事をまかされた福美が、政治家の徳田家の乳母になる。やがて、授乳にとどまらず、長男の光を育てる役割を引き受ける。その間の、出来事が描かれる。自分の娘と徳田の光。徳田の姑の千代と長男の妻の奈江。小学校の度急性だった福美と奈江。千代が奈江を徳田家から追い出したのちに後妻となった咲子。子育ての苦労と喜びが錯綜する。背景には少子化問題があり、男女雇用機会均等法問題があり、さらには世襲政治家問題がある。物語の大半は徳田家を舞台とするが、最後には選挙における女性の地位問題へと発展していく。