Monday, November 11, 2013

スターの時代と、時代の中のスター

鴨下信一『昭和芸能史 傑物列伝』(文春新書)――美空ひばり、長谷川一夫、藤山一郎、渥美清、森繁久彌、森光子――国民栄誉賞を受賞した芸能人6人の伝記だが、著者は1958年に東京放送(TBS)に入社して以来、芸の畑を歩んできた演出家だったので、6人のうち4人は実際に演出したことがあるなど、個人的に親しかったこともあり、想い出、秘話も含めての伝記であり、同時に6人だけを描くのではなく、昭和という時代に焦点を当てている。タイトルにふさわしい本だ。著者は「不思議なことに、ここに挙げた国民的芸能人たちは、正当な評価が行われていない。エンタテインメントに関しては日本人はいつでもそうだから不思議でも何でもないのかもしれない。」と始める。そうなのだろうか。そうなのかもしれない。まず取り上げられた美空ひばりだが、「昭和の歌姫」「女王」と呼ばれながら、国民栄誉賞を受賞したのは死後のことである。「生前あげておけばよかったのに、ひばりさん申し訳なかった」という。なぜなら「これほど[イジメられた]人もいない」からだ。デビュー当時に、詩人サトウ・ハチローから「バケモノ」「不気味」と嫌われ、劇作家の飯沢匡からも批判された。大衆に支持されたが、インテリに嫌われたのはなぜか。「ひばりは下品だ」の中身を、歴史と社会の中で分析する、その追跡がとても面白い。敗戦後の日本で、「ひばりが思い出させたもの」、それをインテリは嫌ったのだ、という。たしかに、そうだ。戦争の影を見せつけられる一面があったということだ。他方で、弟の存在が暴力団を引き寄せる。芸能界と暴力団、これも現在まで続くテーマだ。もっとも、大鵬や長嶋茂雄もつい先日、受賞したばかりだ。政治家が人気取りのために気まぐれに出すのが国民栄誉賞だからだ。それはともかく、長谷川一夫以下の伝記も実に面白い。知っていることもあるが知らないエピソードが次々と出て来るし、それぞれの時代になぜ彼らがスターとして輝いたのかがよくわかり、文章も上手なので、最後まで一気に読めてしまう。もっと、ゆっくり読みたかった、と後で思わされる本でもある。子どもを産まなかった森光子が、京塚昌子や山岡久乃をさしおいて<日本のお母さん>と呼ばれるようになった秘密もよくわかる。森光子の代表作「放浪記」は林芙美子の物語であり、お母さんではないにもかかわらず。著者は他の芸能人についても山ほど思い出を持っているので、「この調子で書き継いだら、さぞ面白いだろう」と言う。ぜひぜひ早急に書いてほしいものだ。