Monday, April 06, 2015

差別の日本通史への挑戦

黒川みどり・藤野豊『差別の日本近現代史――包摂と排除のはざまで』(岩波書店、2015年)
「被差別部落,女性,ハンセン病回復者,障害者,アイヌ民族,在日韓国・朝鮮人,沖縄……なぜ日本には今なおさまざまな差別が存在するのだろうか.差別の根源に,多種多様な人びとを近代的な価値観へ囲い込み,そこからはみ出す者を排除する社会の枠組みが存在することを,具体的な差別のあり方の変遷を辿りながら描きだす.」
部落研究に始まり、差別論の研究を続けてきた2人の著者が協力して、近現代日本における差別の通史に挑戦した。キーワードは排除、包摂、国民国家、天皇制、帝国、植民地、アジア太平洋戦争、動員、非国民、優生思想、棄民、格差、「単一民族論」、ジェンダー・・・
近現代日本の差別の総体を270頁ほどの本に詰め込むという離れ業に本書は挑み、おおむね成功している。さまざまな動機による差別があり、差別の現象形態も実に多様であり、差別を克服する闘いも多種多様であるから、1冊の本にまとめるのはとても大変だ。著者の力量は凄いと思う。本書は、大学における近代日本史の授業でも使えるし、人権論の授業でも使えるテキストだ。学生にはレベルが高すぎるかもしれないが、大学院生なら本書を手掛かりに研究テーマを絞れば、次々と楽しめることになるだろう。
現象形態は実に多様でありながら、差別には共通性があり、排除と包摂という観点で整理するとこの様になると言うことがよく理解できる。
ここから次の課題は、多様な差別の類型化だろうか。人種・民族差別、先住民族差別、部落差別、ジェンダー差別、障害者差別をはじめとする差別の全てに共通性を見ることも重要な観点ではあるが、差異を見失う訳にもいかない。本書では共通性に着目して、全体の通史を描き出すことに力がそそがれているので、類型的な差異を浮立たせることにはなっていない。著者がさまざまな差別の差異を無視しているということではないが。
はじめに
第1章 国民国家の成立と差別の再編
1 開化と復古――身分制の解体/再編
2 「国民」の境界
3 近代天皇制と「家」の桎梏
第2章 帝国のなかの差別と「平等」
1 植民地の領有
2 新しい女/農村の女性
3 隔離と囲い込み
4 立ち上がるマイノリティ
第3章 アジア・太平洋戦争と動員される差別――「国民」と「非国民」
1 アジア・太平洋戦争の開始と棄民
2 優生思想による排除
3 「皇民」をつくる
4 戦場への動員
5 棄民と「捨て石」
第4章 引き直される境界――帝国の解体
1 日本国憲法と平等権
2 境界の引き直しと人流
3 残存する封建制
4 売られゆく子どもと女性
5 基地と女性――占領下の沖縄
6 存続する優生思想
第5章 「市民」への包摂と排除
1 引かれる境界――格差の告発
2 高度経済成長下の女性
3 「被爆者」という問題
4 「発見」された公害
第6章 「人権」の時代
1 復帰か独立か――沖縄差別論
2 差別の徴表と「誇り」――被差別部落
3 ウーマン・リブとフェミニズム
4 命を見つめて
5 「単一民族論」という幻想
第7章 冷戦後――国民国家の問い直しのなかで
1 裁かれた隔離
2 ジェンダーからの問い
3 「誇り」と「身の素性」

おわりに――〈今〉を見つめて