Sunday, April 07, 2019

ILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会(CEART) 勧告についての声明


                 2014年8月、アイム’89東京教育労働者組合は、ILO/ユネスコ教職員勧告適用合同専門家委員会(CEART セアート)に対して、日本政府が「教員の地位に関する勧告」を遵守していないことについて、是正勧告をおこなうよう求める申し立てをおこなった。       アイム’89の申し立ては、おもに以下3点についてである。

 1、教職員は,卒業式・入学式において「日の丸・君が代」への敬愛行為を強制され,思想良心の自由を侵害されています。

2、教員は,卒業式・入学式の実施内容に関して何ら決定権を持ちません。教員は教育の自由の権利を侵害されています。侵害は,年を追うごとに領域 が拡がり,深刻になっています。

3、教職員は,自らの思想良心,教育信念にもとづいて,卒業式・入学式において「日の丸君が代」起立斉唱命令に従わないと,懲戒処分を科され,経 済的不利益,精神的苦痛を被ります。そればかりか,考え方を改めるよう に再発防止研修という名の思想転向を強要されます。また退職時には,再 雇用職員への採用が拒否され,5年間の教育的関わりの機会が剥奪されま す。

セアートはこの申し立てを受理し調査を実施。また、日本政府へ問い合わせをおこない、アイム’89・日本政府双方に反論を述べる機会を与えたうえで、2018 10月、ジュネーブにおいて開かれた委員会において国際労働機関(ILO)と 国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対する報告・勧告を採択した。

この勧告について、2019年3月ILO理事会が承認し公表された。ユネスコにおいても、4月中に執行委員会が開かれ、ILO 同様に承認・公表される見通しとなっている。

セアート勧告は、以下6点である。

 a)愛国的な式典に関する規則に関して教員団体と対話する機会を設ける。その目的はそのような式典に関する教員の義務について合意することであり、規則は国旗掲揚や国歌斉唱に参加したくない教員にも対応できるものとす る。

 b)消極的で混乱をもたらさない不服従の行為に対する懲罰を避ける目的で、懲戒のしくみについて教員団体と対話する機会を設ける。

c)懲戒審査機関に教員の立場にある者をかかわらせることを検討する。

d)現職教員研修は、教員の専門的発達を目的とし、懲戒や懲罰の道具として利用しないよう、方針や実践を見直し改める。

e)障がいを持った子どもや教員、および障がいを持った子どもと関わる者のニーズに照らし、愛国的式典に関する要件を見直す。

f)上記勧告に関する諸努力についてそのつどセアートに通知すること



                 「教員の地位に関する勧告」は、1966年にユネスコが全会一致で採択した教員にとっての「人権宣言」とも言うべきもので、全世界の教員の自由、専門職性を認め、その地位の保護と向上を各国政府に求めたものである。

                しかしながら、日本では1989年学習指導要領に「国旗国歌を指導するものとする」との文言が加えられて以後、学校の卒業式・入学式における「日の丸」 掲揚および「君が代」演奏について調査し結果を公表したため、その実施率は 飛躍的に上がっていった。さらに1999年、政府が「起立斉唱を強制するもので はない」と公言していた国旗国歌法成立後は、その流れに拍車がかかった。

                そのようななかで東京都は、2003年「教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し、国家を斉唱する」とした「1023通達」を発した。通達では、「職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われる」としており、これまでのべ 483名が戒告、減給、停職処分を受けている(2019 年3月現在)。処分者には「再発防止研修」が懲罰的に課され、すべての処分者は定年退職後の 再雇用希望も拒否されつづけている。

                裁判所は、職務命令は合憲とし、処分も停職や減給こそ重すぎるとしたものの、戒告については裁量権の範囲内という判決を下している。また、再雇用拒否についても裁量権の範囲内との判断をしている。

                 また、通達は「舞台壇上に演台を置き、卒業証書を授与する」、「児童・生徒 が正面を向いて着席するように設営する」等、式の実施内容・方法について細かく規定しており、卒業生の作品を会場いっぱいに掲示する等の、学校独自の 創意工夫に満ちた式の実施を排除した。とくに、障がいをもった子どもたちの 学校では、試行錯誤してつくりあげてきた、車椅子の子どもが自由に動いて証 書を受け渡すことが可能な「フロア式・対面式」も否定され、1人では壇上へ動くことができず、自由と尊厳を奪われる事態までおこっている。「 君が代」斉 唱時、教員は指定された席での起立を強制されるため、障がいの重い子どもたちがケアを受けられず、生命の危険に見舞われることさえおこった。

                「日の丸・君が代」の強制は、教員の自由を侵害するだけにとどまらず、子どもたちの自由と尊厳をも奪うことである。

                セアート勧告は、アイム’89の主張をすべて認めたものと言え、教員と子どもたちの自由・尊厳を高らかに認めた画期的なものであり、全世界の教育にたずさわる人々を勇気づけるものである。

アイム’89は、この勧告の意義を深く自覚し、日本および世界中の教育にたずさわる人々と協働し、「教育の地位に関する勧告」および「セアート勧告」の実現に向けて努力することを宣言し、日本政府および各機関に以下のことを要請する。

・日本政府および文部科学省は、「日の丸・君が代」が強制されるべきものではないことを明確に示し、各地方自治体教育委員会に通達すること。

・各地方自治体および各地方自治体教育委員会は、直ちに「日の丸・君が代」を強制する条例や通達等を廃止・撤回すること。

・各地方自治体教育委員会は、「日の丸・君が代」強制による処分のすべてを取り消すこと。

 ・日本政府および文部科学省、各地方自治体教育委員会は、学校における卒業式・入学式等の実施内容・方法について、教職員団体と話し合いをする機会を設定すること。

 ・日本政府および文部科学省、各地方自治体教育委員会は、学校における卒業式・入学式等の実施内容・方法について、すべての教職員および子どもの自由と尊厳が尊重され、ニーズが満たされるものとなるように設定すること。

 ・文部科学省および各地方自治体教育委員会が設定する教員研修については、 教員の専門的発達を目的とする以外のものとしないこと。

・最高裁判所および下級裁判所は、「教員の地位に関する勧告」および「セアート勧告」に照らし、「日の丸・君が代」強制により損害・不利益を被った者の訴えに対し、正当な補償・救済をすること。



以上



アイム’89東京教育労働者組合

2019年4月6日



(資料)セアート勧告原文 (a) convene dialogue with teacher organizations concerning rules regarding patriotic ceremonies, with the aim of agreeing on teachers’ duties in respect to such ceremonies and which can accommodate teachers who do not wish to participate in the raising of the flag and singing of the national anthem; (b) convene dialogue with teacher’s organizations about disciplinary mechanisms with the aim of avoiding punishments for passive, non-disruptive acts of non-compliance; (c) consider involving peer teachers in disciplinary review bodies; (d) review and change policy and practice on in-service teacher training to ensure that its aim remains the professional development of teachers, and is not used as an instrument of discipline or punishment; (e) review requirements in respect of patriotic ceremonies in light of the needs of students and teachers with disabilities, and those working with students with disabilities; (f) keep the Joint Committee informed of efforts on the above recommendations.