Monday, January 20, 2025

ヘイト・クライム禁止法(221)フランス

フランスが人種差別撤廃委員会CERD108会期に提出した報告書(CERD/C/FRA /22-23. 15 August 2019

前回報告書は『原論』三七四頁。

前々回報告書は『序説』六〇五頁。

フランスのヘイト・スピーチについて詳しくは、光信一宏の研究(『愛媛法学会誌』等)参照。

一八八一年七月二九日の印刷自由法の諸規定が、人々の集団の優越性を主張するイデオロギー、人々の集団を貶め、侮辱し、差別を煽動する公然たる表現は犯罪とされている。差別、憎悪、暴力の煽動。人道に対する罪の否定。戦争犯罪と人道に対する罪の美化。民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であること、又は構成員でないことに基づく公然たる中傷、及び侮辱。

二〇一五年二月一五日、国家人権諮問委員会の意見は、一八八一年法の大半が刑法に導入されていると確認した。

二〇一七年一月二七日の平等市民権法は、人種主義を、すべての刑事施設収容刑賦課犯罪についての刑罰加重事由とした。人種、民族集団、国民、宗教に基づいて被害者に行われた行為は、刑罰加重事由となる。刑法第一三二―七六条が「人種」ではなく「推定された人種」としているのは、人種が存在するという思考を回避するためである。

(*註:かつて「人種」が存在するとされたが、今日、「人種」なるものは存在しないと考えられている。このため、一部の国では「人種はないから、人種差別はない」という見解が登場している。フランス法は、人種差別を禁止しているが、「人種が存在する」という思想を後押ししているわけではない。人種を口実に差別する場合があるからである。)

平等市民権法は差別との闘いのために、人種主義挑発、侮辱、中傷を処罰する規定を有する。人道に対する罪の美化や否定の犯罪の射程を拡張した。人種主義や人道に対する罪と闘う非営利団体の役割を強化した。

一八八一年七月二九日の印刷自由法の犯罪は、インターネット上の言説にも適用される。

二〇〇四年六月二一日のデジタル・エコノミーにおける信任法は、インターネット等のプロバイダーの責任を定める。子どもポルノ、戦争犯罪と人道に対する罪の美化、人種憎悪の煽動など、違法なコンテンツの流布との闘いという義務がある。違法な書き込みがあるとの通知を受けた場合、迅速に管轄当局に通報しなければならない。この義務に違反すると、一年以下の刑事施設収容又は七万五〇〇〇ユーロの罰金である。

裁判所はウェブホストやプロバイダーに違法な書き込みへのアクセスの提供を禁止することができる。

二〇〇三年以来、司法省は、人種主義や人種主義ヘイト・スピーチと闘うための回覧や通知を二〇回ほど発してきた。司法省に報告すること、実行犯特定のために必要な措置を取ること、実行犯の刑事手続きに責任を持つこと、被害者に被害者支援団体情報を提供すること、文化宗教コミュニティ間の討論を行うこと。

パートナーシップ政策の発展は、人種主義事件の報告や裁判所による審理を担保する。差別についての司法的関心は検察や反差別局による。司法機関、人権擁護局、反差別団体、被害者支援団体と定期的協議が行われている。

二〇一七年の平等市民権法は、差別事件について刑事施設収容の代替として、市民権コースを導入した。

二〇一六年、検察官は七六六四件の人種主義事件を処理した。三四三三件(四五%)は誹謗中傷、二六九三件(三五%)は暴力・脅迫、二七五件(四%)は財産損壊である。

・メディア及び選挙で選ばれた公務員のヘイト・スピーチと闘う

二〇一五年以来、レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関が、一四〇件以上の報告を受けている。大半がインターネット上のヘイト・スピーチである。その結果、私人やブログの著者が、人種憎悪の煽動や人道に対する罪の美化・正当化の罪で、刑事施設収容や罰金を言い渡された。レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関は、公的言説における不適切な発言を取り扱っている。二〇一五年五月に、パリのパンテオンにおけるジャン・ザイ埋葬に関する国会議員発言、二〇一六年六月のロワール市長によるラマダンを行う人々に関する発言などがある。

・法執行官の研修

司法官になる者に毎年、法的サービス研修学校で差別と闘う研修を実施している。特に人種主義、反ユダヤ主義、人種差別を取り上げる。裁判官、裁判所職員、弁護士等への数日間の研修を用意している。二〇一六~一七年、四〇人の裁判官にヘイト・スピーチ研修を行った。国家警察研修所は司法省と協力して、差別・人種主義・反ユダヤ主義・排外主義と闘う実践ガイドを改定した。

・インターネット上の人種主義言説

インターネット上のサイバー犯罪と闘うため、PHAROSというプラットフォームを設置し、分析、監視、報告をシステマティックに行っている。二〇一六年、一七、三八四件の事案がPHAROSを通じて報告され、一一、九八二件が人種又は宗教憎悪の煽動であった。PHAROSは、インターネット企業に八三四件のブロック要請、一、九四九件の閲覧制限、三、一九九件の削除要請を送った。二〇一六年三月、国家サイバー犯罪予防局はブリュッセルの欧州委員会の会合に参加し、オンライン・ヘイト・スピーチの報告制度を強化している。二〇一六年一一月、レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関主催の差別防止会議で、六〇以上の団体にPHAROSについて周知した。二〇一七年一二月と二〇一八年二月、レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関はインターネット・プロバイダー各社とともに、ヘイト・スピーチの報告、及びインターネット・ヘイトに対する対抗言説の促進のために協議した。

内務省は二〇一六年三月、申立て報告のためのオンラインシステムを用意した。犯罪の要素に該当する事実があれば、どこからでもオンライン報告ができる。差別、差別煽動、中傷、侮辱であって人種的性質を有する場合をカバーする。

ヘイト・スピーチ予防教育

二〇一六年三月、「連帯してヘイトに反対」というキャンペーンを始め、公衆に偏見を防止するための啓蒙を行っている。三月二一日から二八日、人種主義と反ユダヤ主義に反対する教育特別週間を設定した。TV放送を利用し、人種主義と闘うための情報をインターネットにアップしている。もう一つ、「人種主義に反対するスタンディング」というキャンペーンを始め、PHAROSSOSレイシズム、人権同盟等と協力している。

人種差別撤廃委員会がフランスに出した勧告(CERD/C/FRA/CO/22-23. 14December 2022

人種差別の構造的制度的原因に優先的に対処すること。二〇二三~二六年に人種主義・反ユダヤ主義と闘う新しい国家計画を策定し、国家及び地方レベルで履行するための人的、財政的資源を投入すること。ロマ、トラベラー、アフリカ人、アフリカ出身者、アラブ出身者などの住民の完全な参加を確保すること。

人種主義ヘイトスピーチとの実効的な闘いを倍加し、公共空間、特にメディアやインターネット上の人種主義と人種に基づくヘイトを予防し、処罰すること。すべての人種主義ヘイト・スピーチを捜査、訴追、処罰し、被害者に実効的な賠償を提供すること。法執行官に研修を提供し、啓蒙活動をすること。インターネット上の人種主義ヘイト・スピーチの拡散を監視すること。