Friday, July 11, 2025

赤根智子『戦争犯罪と闘う――国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書)

赤根智子『戦争犯罪と闘う――国際刑事裁判所は屈しない』(文春新書)

https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166614967

 

プーチン大統領の逮捕状を出したために、ロシアから犯罪者として指名手配され、ネタニヤフに逮捕状を出したため、トランプから制裁を課せられているICCの所長です。世界に法の支配を広め、力による支配に逆戻りさせないために闘い、「私たちは決して諦めない」という決意表明。お薦めの本です。

 

赤根所長は、日本の検察官出身、アメリカ留学経験があったので法務総合研究所教官や、国連アジア極東犯罪防止研修所教官になり、ついにはICC判事になりました。ご本人の経歴と、ICCの歴史と、最近のICCの闘いがまとめられています。本文180ページくらいで、すぐに読める本です。

 

初めて知ったこととして、アフガニスタン問題があります。検察官がアフガンの戦争犯罪の捜査要請をした時に、予審部が却下したため捜査できなくなりました。却下したのは赤根判事たち。検察官が控訴して、控訴部が許可を出したので、捜査が行われました。そしてついに今週、逮捕状発付に至ったのです。

Statement of the ICC Office of the Prosecutor on the issuance of arrest warrants in the Situation in Afghanistan

https://www.icc-cpi.int/news/statement-icc-office-prosecutor-issuance-arrest-warrants-situation-afghanistan

 

この本の他の箇所では、「ICCは法と事実に基づいて判断する。国際政治に左右されることはない」と繰り返しています。プーチンの圧力をはねのけ、トランプの圧力に抵抗しているICC所長です。懸命に「法の支配」を守る闘いのさなかです。本当に頭の下がる、凄い仕事です。

 

ただ、赤根判事がアフガニスタンの捜査を却下したのは、文字通り政治的理由です。「捜査に協力してくれる国や団体がほとんどなく」、捜査が進展する見込みがないと主張し、「限られたリソースを見込みのない捜査につぎ込むのは実務感覚からも好ましくなかった」と言っています。100%政治的理由です。アフガンにおける戦争犯罪について「法と事実に基づいて判断」していません。

 

他の箇所では「法と事実」と何度も繰り返しながら、アフガンだけ別扱いなのは、自己矛盾です。控訴部が赤根判事の判断を否定して、捜査を認めたために、ようやく逮捕状に至りました。とはいえ、赤根所長が言う通り、協力する国が少ないと、本当に裁判を開けるかどうかはわかりませんが。

 

赤根所長は、今後、日本にICC事務所を置きたい、ICC規程締約国を増やしたい等々、先のことも考えて、国際的な法の支配の確立に力を注いでいます。