Tuesday, August 07, 2018

これからの軍事史研究のあり方


吉田裕『日本軍兵士――アジア・太平洋戦争の現実』(中公新書)


『昭和天皇の終戦史』『日本人の戦争観』『兵士たちの戦後史』『現代歴史学と軍事史研究』と続く現代軍事史研究の第一人者による日本軍兵士の実態分析である。

アジア太平戦争を4つの時期に区分した上で、最後の「絶望的抗戦期」を中心に、「死にゆく兵士たち」「身体から見た戦争」「無残な死、その歴史的背景」「深く刻まれた『戦争の傷跡』」を論述する。

餓死、病死、海没死、自殺、処置という名の軍隊内殺人――日本軍兵士の死に方の異様さは、藤原彰の研究などでもある程度知られていたが、本書はそれらを総合的に提示する。新書という限られた分量だが、最重要な事例や統計データも活用しつつ、死の現場へ接近する。背後にある膨大な研究の蓄積が想像できる。

方法論的には戦争の全景からではなく、まずは兵士の目線、兵士の立場から実情を明らかにし、死んでゆく兵士の眼前に何があったのか、周囲の状況はどうだったのかを明らかにした上で、全体像に向かってゆく。日本軍の異様さを、一つ一つの事例を積み上げていく中で浮き彫りにしていく。帰納に始まり演繹を介してふたたび帰納へと往還する。

マラリアと栄養失調、圧抵傷と水中爆発、自殺と自傷、兵士の虫歯、結核と私的制裁、ヒロポン、軍靴の履き心地、無鉄軍靴など、思いがけない論点を次々と提示しながら、日本軍兵士が置かれた状況を総合的に認識、想像できるようにしている。

戦争を知らない世代の歴史研究者として、軍事史研究のあり方を問い続けてきた著者の到達点である。さすが吉田裕、というしかない。