Friday, August 24, 2018

陰謀論を批判する陰謀論にならないか


福田直子『デジタル・ポピュリズム――操作される世論と民主主義』(集英社新書)




2016年のアメリカ大統領選挙におけるトランプ勝利の背景として、あるいはトランプ大統領のツイッターによって、ポスト・トルース、フェイク・ニュースなどが流行語とのなり、偽情報、攪乱情報、世論操作の問題が指摘された。すでに多くの著作が出されているが、いずれも一面を明らかにしたに過ぎない。オンラインでのプロパガンダという現象の裏側を読み解くには、多角的多面的な兆さっと分析を要する。というか、真相は「闇」に包まれたまま、ということになるだろう。

それでも、インターネット時代の猛烈に飛び交う情報、急速に進展する技術、それらの間を疾駆しながら解析する研究をどんどん増やしていかないといけない。本書もその一つだ。

「アメリカの大統領選挙やイギリスEU離脱の国民投票では、私たちが無意識のうちに提供している多くの個人情報が選挙キャンペーンや世論形成に利用された。嘘を混ぜたプロパガンダや個人の不安に直接訴える「マイクロ宣伝」といった、巧妙なサイバー戦略は、近い将来行われるであろう日本の国民投票でも使われるのは間違いない。これらによって醸成されたポピュリズムに私たちはどう抗うのか。欧米での徹底的な取材からデジタル時代の民主主義を考える。」

「捏造され誘導され分断される現代」という帯の文句にあるように、ポピュリズムの蔓延によって民主主義がゆがめられる現状を、いかに克服するのか、課題はつきない。

類書の中には、中国や朝鮮を非難する例が多いが、著者は欧米での取材が中心で、素材も欧米に限定される。

ただ、アメリカ大統領選挙もフランス大統領選挙もスコットランド独立・住民投票もスペイン・カタロニア問題も、すべて背後にロシアの影・・・というストーリー。欧米が常に被害者側という「視点」にはいささか困った感。ロシアの陰謀を語る前に米軍とFBICIAの現実を語ることが必要だろう。