Sunday, November 20, 2022

崩壊を加速させる日本解体論

白井聡・望月衣塑子『日本解体論』(朝日新書)

https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=23726

<政治状況も、国民生活も悪化の一途をたどり、日本を蝕む閉塞感に打開の一手はあるのか。政治学者と新聞記者が、政治・社会・メディアの問題点、将来に絶望しながら現状を是認し続ける「日本人の病」に迫る。さらに戦後の歴史、国民意識の現在地を踏まえながら、縮小するこの国の、向かうべき道筋を示す。>

1章 77年目の分岐点

2章 「政治的無知」がもたらす惨状

3章 壊れていくメディアと学問

4章 癒着するメディアと権力

5章 劣化する日本社会

6章 国家による侵攻の衝撃

「永続敗戦論」「国体論」の政治学者と、映画『新聞記者』のモデルによる対談だ。

1章・第2章では主に日本政治の病理を鋭く批判し、第3章・第4章ではメディアと学問の劣化・衰退を論じる。第5章は、日本政治・メディア・学問の劣化を必然化させる日本社会の劣化を分析する。

随所で、うん、うん、そうだ、そうだ、その通りと頷きながら読める本であり、ほとんどすべて、私たちがこれまで言ってきたことと同じだ。

与党の横暴と混迷、官僚の腐敗、財界の悲惨さ、ジャーナリズムの消失、御用学者の跋扈――何も新しいことがないと言ってよいほど、この国の愚劣さと恥辱をあますところなく論じている。残念ながら、すべて賛成と言ってよいほどだ。だから、面白いと言えばおもしろいが、おもしろくないと言えばおもしろくない。

天皇制からアメリカ支配に代わった「国体」の寿命が尽きようとしており、日本はあらゆる領域で腐敗しており、腐臭を放つばかりだという。政治外交的に属国であり、内政も外政も自分では決められない。経済的にも衰退の一途を辿っており、放っておけば崩壊するだけの日本を、白井と望月はさらに「解体」しようとする。

政治経済のみならず、メディアや学問も含めて腐朽が進行する一方だが、この国を支えてきた「国民主権」の虚妄は、「国民」の一員たる白井や望月も責任の一端を負う。それゆえ、この国の解体に最後までつきあう姿勢であろう。

白井は、日本は崩壊するしかない、早く崩壊した方が、まだ救いが生まれるかもしれないと考えているようだ。もっとも、その先に何が待っているかには言及がない。おみくじ占いではないので、やむを得ない。

6章はロシア・ウクライナ戦争を取り上げているが、レーニン研究者の白井はロシア留学経験があるので、この章だけは、知らなかったことが語られている。別の意味でおもしろい。

戦争については、白井の実感として、ロシアは戦争をやめないだろうと悲観論を唱えている。残念なことに白井の実感には根拠がありそうだ。困ったことだ。