Wednesday, November 09, 2022

風化を押しとどめる調査報道

日野行介『原発再稼働――葬られた過酷事故の教訓』(集英社新書)

https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721228-0

第1部 安全規制編

 第1章 密儀の中身

 第2章 規制委がアピールする「透明性」の虚構

 第3章 規制は生まれ変わったのか?

第2部 避難計画編

 第4章 不透明な策定プロセス

 第5章 避難所は本当に確保できているのか

 第6章 隠蔽と杜撰のジレンマ

 第7章 「絵に描いた餅」

 第8章 避難計画とヨウ素剤

補遺 広瀬弘忠氏インタビュー ――フクシマ後も変わらない原発行政の虚構

岸田政権は原発再稼働と新規原発建設に向けて動き出した。福島原発メルトダウンから11年半しかたっていないのに、過酷事故の教訓が生かされていない。

本書は228月出版なので、岸田政権の原発建設方針発表前に書かれたものだが、まさにタイムリーな本と言える。

日野はジャーナリスト・作家、元毎日新聞記者。『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)、『調査報道記者 国策の闇を暴く仕事』(明石書店)、『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書) 、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)等著書多数。

第1部 安全規制編では、原子力規制委員会の審議が、いかに再稼働ありきで動いているかを検証する。資料のチェックや基準の解釈を自由自在に操って、何としてでも再稼働を許す結論につなげる姿勢が顕著である。変更した姿勢を隠そうともしないといった方がよいが、通常は報道されないため、知られることがない。日野は原子力規制委員会の資料を徹底追及する。

第2部 避難計画編でも、実施できない机上の避難計画を並べて、つまりアリバイ作りに励んでいるだけの実態がある。以前から知られていることではあるが、日野は具体的に、資料に基づいて、避難計画のずさんさを暴露する。

1部・第2部ともに、大筋は良く知っていることだ。しかし、詳細は知られていない。具体的な資料に基づいた綿密な調査報道によって、風景がガラリと違って見えてくる。隠蔽、捏造、改変のごまかしを暴くのは大変根気のいる仕事だ。官僚機構が膨大な情報を隠し持っているからだ。フクシマの教訓を風化させ、闇に葬ろうとする力に抗して、日野はゆるぎなく、たゆみなく、着実に調査報道を進める。

日野はこう語る。

「国策と対峙する調査報道に必要なものは、プロフェッショナルとしての『狂気と執念』だけというのが私の持論だ。『狂気』は固定観念なく物事の本質を見抜く見識であり、『執念』は自らが確信した本質を追い求め続ける気力や体力だと考えている。」