Friday, November 04, 2022

ヘイト・スピーチ研究文献(210)法と言語2

韓娥凜「ヘイトスピーチに見られる『言葉のお守り』――排外主義団体の選挙演説の分析から」名嶋義直編『リスクコミュニケーション――排除の言説から共生の言説へ』(明石書店、2022年)

権力が発信する「リスクコミュニケーション」言説に内在する管理と排除の実践を批判する著作の第2章が選挙演説におけるヘイトスピーチの分析である。韓娥凜は京都外国語大学講師等、専門は社会言語学、批判的談話研究。

本書「おわりに」において次のように述べている。

「自分たちの立場を守るために、他者を排除し、リスク視する行為そのものが長期的には日本社会にとって本当のリスクであることを我々は忘れてはならない。この社会で共に生きる様々な構成員を『ウチ』の共同体として認め、二分化する見方に惑わされないよう心掛ける必要がある。」

1節 はじめに

2節 ヘイトスピーチをどのように分析するか

3節 選挙演説のヘイトスピーチで語られているもの

4節 「排除」と「差別」を正当化する論証構造

5節 ヘイトスピーチに向き合う「権力」の姿勢

6節 ヘイトスピーチによる「排除」にどう対抗するか

韓は、20194月の統一地方選挙の際の日本第一党の立候補者による選挙演説を分析し、「ウチ」と「ソト」の二分化、スローガンの使用、文末表現の特徴、曖昧表現等を抽出する。そのうえで、国民安全に危険・危機を与えるリスク存在化、経済・財政への負担(「在日特権論」のような)が用いられていることを確認する。

さらに、排外主義団体だけでなく、安倍晋三首相(当時)の発言を見ても、同様のレトリックが用いられているとし、政治権力と排外主義団体のコラボを指摘する。

ヘイト・スピーチは差別の一つであり、この国の差別は偶然起きる事象ではなく、構造的歴史的に形成されている。在日朝鮮人に対する差別は日本政府の政策によって推進されてきたのであって、在特会以前に、日本政府が差別の張本人である。

日本第一党の選挙演説だけを、他と切り離して分析すると、ヘイト・スピーチの実態を正しく把握できない。

韓は、日本第一党の演説を丁寧に分析するとともに、政権の姿勢がヘイト・スピーチを温存させ、悪化させていることに気付いている。

個々のヘイト・スピーチへの対処が必要なだけでなく、政権による差別をやめさせ、差別禁止法とヘイト・スピーチ処罰法を作ることによって、政府による差別と排外主義団体によるヘイトを終わらせなければならない。