Monday, November 23, 2020

講演レジュメ「ヘイト・スピーチをなくすために」

11月8日、日本軍「慰安婦」問題解決ひろしまネットワークの主催でヘイト・スピーチ講演会(於・広島弁護士会館)を開いてもらった。当初予定では4月開催だったのが、新型コロナのために大幅に遅延して、ようやく実現した。

 

例年だと各地からお招きいただいて、月に1度は講演会やメディアからの取材が入っていたが、今年は激減した。10月に同じ広島で開かれた、NHK広島の「ひろしまタイムライン」差別事件に抗議する集会にはオンライン参加して、少し発言させてもらった。

 

ヘイト・スピーチ問題が浮上し、社会的に議論されるようになって10年になる。京都朝鮮学校襲撃事件が2009年、徳島県教組襲撃事件が2010年だ。実際にはヘイト・クライム/スピーチ事件はずっと以前からあったし、私たちはヘイトとの闘いを続けてきたが、一般のメディアや研究者も発言するようになったのは最近のことだ。

 

こうした中、講演会でヘイト・クライム/スピーチについての基礎知識を数十回講義してきたが、最新の講義の概要として、以下に11月8日の広島での講演レジュメを張り付ける。


このレジュメをきちんと話すと4時間はかかる。大学の授業(90分)で半期15週間続けてもヘイト・スピーチ問題全体を話すには到底足りない。


講演会では、実際には90分の講演会で要点のみ取り上げた。会場からの質疑応答も含めて150分くらいか。 


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2020年11月8日

広島弁護士会館

 

ヘイト・スピーチをなくすために

公共施設の利用ガイドラインはどうあるべきか

前田 朗(東京造形大学)

 

1 はじめに――最近の動向

 

1)ヘイト・スピーチ解消法の制定

2)大阪市ヘイト・スピーチ条例

3)川崎市人権条例

4)ヘイト関連訴訟訟

      李信恵名誉毀損訴訟(一審判決)

      フジ住宅ヘイトハラスメント訴訟

地名総鑑出版差止仮処分訴訟

4)相模原津久井ヘイト・クライム事件

5)杉田水脈衆議院議員差別発言

6)関東大震災朝鮮人虐殺追悼式典妨害事件

7)NHK広島タイムライン事件

8)足立区議LGBT差別発言事件

9)差別に抗議する大坂なおみ

 

2 ヘイト・スピーチをめぐる誤解

 

1)ヘイト・スピーチは「言論」であるか

       純粋な言論イメージ

       ヘイト・クライムとしての京都朝鮮学校襲撃事件

       被害論の欠落――人間の尊厳

2)ヘイト・スピーチ現象は2007年に始まったのか

       在特会のインパクトにとらわれた認識

       歴史的なヘイト・クライム/ヘイト・スピーチの無視

       90年代の「チマ・チョゴリ事件」

       関東大震災朝鮮人虐殺

3)民主主義国家はヘイト・スピーチを刑事規制しないのか

       「民主主義とレイシズムは背反する」

4)ヘイト・スピーチ規制よりも教育を?

       不毛な二者択一論

       教育方法論の欠落――人種差別撤廃条約7条の無視

 

3 概念の整理確認――ヘイト・クライムとヘイト・スピーチ

 

1)ヘイト・クライム――欧米のヘイト・クライム法

    アメリカでは「暴力を伴うヘイト・クライム」を処罰(重罰化)

    欧州では「暴力を伴わないヘイト・スピーチ」も処罰

    日本ではヘイト・クライム重罰化もヘイト・スピーチ処罰もなし

2)ヘイト・スピーチ――条約や法律にこの言葉はない

    ➔ 「人種的憎悪の唱道」(国際自由権規約20条2項)

「人種的憎悪の流布、人種差別の煽動」(条約4条)

      ➜国連人権高等弁務官事務所「ラバト行動計画」(2012年)

       人種差別撤廃委員会・一般的勧告35「人種主義ヘイト・スピーチと闘う」

3)ヘイト・スピーチの本質を考える(定義問題)

    人種差別――個別の差別現象、構造的差別(人種差別撤廃条約1条)

      差別の煽動、暴力の煽動(人種差別撤廃条約4条)

4)ヘイト・クライム/ヘイト・スピーチの行為類型 

①   差別表明型

②   歴史否定型

③   名誉毀損型

④   脅迫型

⑤   迫害型

⑥   ジェノサイド煽動型

⑦   暴力付随型

⑧   暴力+差別型

5)暴力とは何か――ヘイト・スピーチの暴力性

①最広義の暴行

②広義の暴行

③狭義の暴行

④最狭義の暴行

⑤威力

⑥暴行によらない傷害

6)ヘイト・スピーチの被害実態――歴史的事例と現在の事例

     ➔人道に対する罪としての迫害、ジェノサイド

     ➜身体的被害、心理的被害、経済的被害――総合的被害論の必要性

 

4 日本国憲法に従ってヘイト・スピーチを処罰する

 

1)解釈の基本原理(日本国憲法とは何であり、何のためにつくられたのか)

   ➔憲法前文の平和主義、国際協調主義

2)人間の尊厳を守るためにヘイト・スピーチを処罰する(現実の被害)

   ➔憲法13条の個人の尊重、人格権、幸福追求権

3)不当な差別を許さない(差別されない権利、ヘイト・スピーチ被害を受けない権利)

   ➔憲法14条の法の下の平等

4)表現の自由の歴史的教訓(戦争宣伝と差別煽動)

   ➔憲法21条の表現の自由

      *治安維持法と特高警察による人権侵害の反省と、

       アジアに対する侵略戦争・占領・植民地支配の反省と

5)表現の自由の理論的根拠

➜民主主義論から見たヘイト・スピーチ

➜人格権から見たヘイト・スピーチ

6)表現の自由を守るために(マジョリティの表現の自由と責任)

   ➔憲法12条の濫用防止と責任

*誰の自由が侵害されているのか

*マイノリティの表現の自由の優越的地位

 

5 国際人権法に従ってヘイト・スピーチを処罰する

 

1)国際人権法におけるヘイト・スピーチ規定

2)国際人権機関による法解釈

ラバト行動計画(2012年)

人種差別撤廃委員会・一般的勧告35(2013年)

3)国際人権機関からの日本政府への勧告  

      国連人権委員会・人種差別特別報告書の勧告2006

      人種差別撤廃委員会の勧告2001、2010、2014、2018

      国連人権理事会普遍的定期審査の勧告2009、2013,2017

      社会権規約委員会の勧告2013

      自由権規約委員会の勧告2014    

 

6 民主主義国家はヘイト・スピーチを処罰する

 

1)世界120カ国にヘイト・スピーチ法がある

2)EU諸国はすべて処罰法を持っている

3)その多くは刑法典に規定(基本犯罪である)、一部は特別法

4)「アウシュヴィツの嘘」犯罪――重大人権侵害の歴史否定発言

 

7 総合的な人種差別撤廃政策を

 

1)国家レベル――包括的な人種差別禁止法の必要性   

      法の下の平等と差別禁止

教育、労働、各種行政における差別禁止

➔人種差別撤廃条約第2条、5条、7条

被害者救済

➜人種差別撤廃条約6条

2)市民レベル――市民的対抗と抑止

    対抗言論

カウンター行動

寛容、対話、共生の地域づくり

 

8 地方自治体は何ができるか、何をなすべきか

 

1) 条例制定権の範囲での刑事規制――川崎市条例

2) 条例制定権の範囲での行政規制

・ヘイト団体に公共施設を利用させてはならない

       ➔人種差別撤廃条約第2条(b)(d)

    ・自治体はヘイト団体を非難すべきである

       ➔人種差別撤廃条約第4条柱書

・ヘイト団体に資金援助してはならない

       ➔人種差別撤廃条約第4条(a)

3) 公の施設利用ガイドライン

  ・門真型

  ・大阪型

  ・川崎型

  ・京都型

4) 反差別の教育

 ・住民に反差別と反ヘイトの教育をするべきである

 ・公務員に反ヘイト教育を

 ・人権審議会委員に反ヘイト教育を

    ➔人種差別撤廃条約第7条

 ・欧州諸国の反差別教育・文化政策

5) 被害者救済のために

    ➔人種差別撤廃条約第6条

   ・欧州諸国の被害者救済

 

[資料]**********************************

 

①   日本国憲法

 

前文 日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
 日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
 われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
 日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。

第11条  国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。

第12条  この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

第13条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第14条  すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

2  華族その他の貴族の制度は、これを認めない。

3  栄誉、勲章その他の栄典の授与は、いかなる特権も伴はない。栄典の授与は、現にこれを有し、又は将来これを受ける者の一代に限り、その効力を有する。

第19条 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

第21条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 

②市民的政治的権利に関する国際規約(ICCPR)

第19条 1 すべての者は、干渉されることなく意見を持つ権利を有する。

2 すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。

3 2の権利の行使には、特別の義務及び責任を伴う。したがって、この権利の行使については、一定の制限を課すことができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。

(a) 他の者の権利又は信用の尊重

(b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護

第20条 1 戦争のためのいかなる宣伝も、法律で禁止する。

2 差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する。

③人種差別撤廃条約(ICERD)

第1条1 この条約において、「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、排除、制限又は優先であって、政治的、経済的、社会的、文化的その他のあらゆる公的生活の分野における平等の立場での人権及び基本的自由を認識し、享有し又は行使することを妨げ又は害する目的又は効果を有するものをいう。

2 この条約は、締約国が市民と市民でない者との間に設ける区別、排除、制限又は優先については、適用しない。

3 この条約のいかなる規定も、国籍、市民権又は帰化に関する締約国の法規に何ら影響を及ぼすものと解してはならない。ただし、これらに関する法規は、いかなる特定の民族に対しても差別を設けていないことを条件とする。

4 人権及び基本的自由の平等な享有又は行使を確保するため、保護を必要としている特定の人種若しくは種族の集団又は個人の適切な進歩を確保することのみを目的として、必要に応じてとられる特別措置は、人種差別とみなさない。ただし、この特別措置は、その結果として、異なる人種の集団に対して別個の権利を維持することとなってはならず、また、その目的が達成された後は継続してはならない。

第2条 1 締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する。このため、

(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する。

(b)各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する。

(c)各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は無効にするために効果的な措置をとる。

(d)各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる。

(e)各締約国は、適当なときは、人種間の融和を目的とし、かつ、複数の人種で構成される団体及び運動を支援し並びに人種間の障壁を撤廃する他の方法を奨励すること並びに人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制することを約束する。

2 締約国は、状況により正当とされる場合には、特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため、社会的、経済的、文化的その他の分野において、当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる。この措置は、いかなる場合においても、その目的が達成された後、その結果として、異なる人種の集団に対して不平等な又は別個の権利を維持することとなってはならない。

第3条  締約国は、特に、人種隔離及びアパルトヘイトを非難し、また、自国の管轄の下にある領域におけるこの種のすべての慣行を防止し、禁止し及び根絶することを約束する。

第4条  締約国は、一の人種の優越性若しくは一の皮膚の色若しくは種族的出身の人の集団の優越性の思想若しくは理論に基づくあらゆる宣伝及び団体又は人種的憎悪及び人種差別(形態のいかんを問わない。)を正当化し若しくは助長することを企てるあらゆる宣伝及び団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動又は行為を根絶することを目的とする迅速かつ積極的な措置をとることを約束する。このため、締約国は、世界人権宣言に具現された原則及び次条に明示的に定める権利に十分な考慮を払って、特に次のことを行う。

(a)人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動、いかなる人種若しくは皮膚の色若しくは種族的出身を異にする人の集団に対するものであるかを問わずすべての暴力行為又はその行為の扇動及び人種主義に基づく活動に対する資金援助を含むいかなる援助の提供も、法律で処罰すべき犯罪であることを宣言すること。

(b)人種差別を助長し及び扇動する団体及び組織的宣伝活動その他のすべての宣伝活動を違法であるとして禁止するものとし、このような団体又は活動への参加が法律で処罰すべき犯罪であることを認めること。

(c)国又は地方の公の当局又は機関が人種差別を助長し又は扇動することを認めないこと。

第5条 (略)

第6条  締約国は、自国の管轄の下にあるすべての者に対し、権限のある自国の裁判所及び他の国家機関を通じて、この条約に反して人権及び基本的自由を侵害するあらゆる人種差別の行為に対する効果的な保護及び救済措置を確保し、並びにその差別の結果として被ったあらゆる損害に対し、公正かつ適正な賠償又は救済を当該裁判所に求める権利を確保する。

第7条  締約国は、人種差別につながる偏見と戦い、諸国民の間及び人種又は種族の集団の間の理解、寛容及び友好を促進し並びに国際連合憲章、世界人権宣言、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際連合宣言及びこの条約の目的及び原則を普及させるため、特に教授、教育、文化及び情報の分野において、迅速かつ効果的な措置をとることを約束する。

④ラバト行動計画

 

反差別国際運動IMADRのサイト

ヒューライツ大阪のサイト

 

⑤人種差別撤廃委員会・一般的勧告35

 

ヘイト・スピーチ法研究文献(153)

桧垣伸次「ヘイト・スピーチ規制を考える」『法学館憲法研究所報』22号(2020年)

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『ヘイト・スピーチ規制の憲法学的考察』(法律文化社、2017)の著者である。

日本はこれまでアメリカ型に近いアプローチをとってきたが、「近年の問題状況を踏まえて、対策に乗り出している。日本のアプローチは、アメリカ型ともヨーロッパ型とも異なる『第3の道』であるとみることができる」として、日本におけるヘイト・スピーチの現状、及びヘイト・スピーチ解消法を検討している。

特に、解消法が国や地方自治体に啓発や教育活動を求めている点に着目して、「解消法が求めるこれらの政府の行為は、『政府言論』と捉えることができる。政府言論の法理は、アメリカの判例理論を通じて発展してきた法理である。同法理は、政府は、規制主体としてだけではなく、自身が表現主体となることがあり、その場合には、見解差別も許容されるとするものである。民主政のもとでは、政府が自身の見解を表明することはむしろ必要とされるため、政府はいつどのようなことを話すことも自由であるとされる」という。実質的に強制となるような啓発は許されないが、規制ではない啓発と教育活動が重要だとする。

「むすび」では、解消法によって行政がどこまで対処できるかうまだ不明確である。啓発活動の成果をはかることは難しい。ヘイト・スピーチの明確な定義がないため、規制範囲が明らかでない。歴史的・社会的背景を検討しなければならない。これらの問題を指摘して、「ヘイト・スピーチといっても、さまざまなものがあるので、一括りに考えるのではなく、害悪ごとに類型化し、それぞれ規制可能性を探る必要性がある」という。

Sunday, November 22, 2020

マルクスのエコ社会主義と<コモン>

 斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)

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新型コロナのためオンライン授業に追われて、他のことがなかなかできない。講演会はキャンセルになり、遠出も控えてきた。秋になって、参加したい市民集会が徐々に開かれるようになってきたが、まだ参加できていない。八王子で自宅と勤務先の往復にとどめている。

研究も読書もなかなか手につかない。連載原稿だけは何とかこなしてきたが、それ以上のことはできずにいる。

そうした中、話題の1冊をようやく読んだ。「気候変動、コロナ禍…。文明崩壊の危機。唯一の解決策は潤沢な脱経済成長だ。」という宣伝文句。ポイントは「潤沢な脱経済成長」だ。その意味は本書で何度も繰り返されているが、資本主義は希少性を重んじ、貧困を生み出す。使用価値と価値の対立をいかに超えていくか。晩年のマルクスにそのカギがあるという。

著者は1987年生まれの経済思想研究者で、エコロジーとマルクス主義の双方に詳しく、なおかつ晩年のマルクスの手稿を研究して、そこから得た知見を前著『大洪水の前に』で展開した。その上に立って、次のステップに挑んでいる。

冒頭から「SDGsは大衆のアヘンである!」と厳しい突っ込みだ。気候変動と帝国的生活様式の関係を暴き出し、これに対処しようとする気候ケインズ主義の限界を指摘する。成長を本質とする資本主義システムでは脱成長はできないという。そこから晩期マルクスの思想の解明に転じたうえで、「欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム」論を打ち出す。論旨は明快であり、魅力的な1冊だ。

潤沢なコミュニズムへの道が、一件ローカルに見えるコミュニティや地方自治体、社会運動のつながり、「生産の<コモン>化、ミュニシパリズム、市民議会」であり、「ワーカーズ・コープでもいい、学校ストライキでもいい、有機農業でもいい」という。地方自治体の議員、環境NGO、市民電力、労働組合、という話なので、拍子抜けしたが、3.5%の市民が本気で立ち上がれば、社会変革は可能だという。設計図はないが、いちおうの青写真は著者の頭の中にあるのかもしれない。次著も楽しみだ。

Saturday, November 21, 2020

ヘイト・クライム禁止法(187)パレスチナ

パレスチナがCERDに初めて提出した報告書(CERD/C/PSE/1-2. 16 October 2018)

パレスチナはCERD一般的勧告35号に合致して、条約第4条と表現の自由のバランスをとっている。パレスチナ独立宣言は国連の原則と目的、世界人権宣言を尊重している。国際自由権規約に留保なしに加入した。基本法19条及び1995年の印刷出版法第2条は意見と表現の自由を保障する。

刑法は人種の優越性の流布、人種・民族憎悪、憎悪の煽動、暴力の煽動を行う表現の自由を規制する。1960年のヨルダン刑法130条は、西岸に適用されるが、国民感情を貶め、人種的宗教的緊張を刺激する目的の宣伝を流布する者は3年以上15年以下の刑事施設収容とする。刑法150条は宗教的人種的緊張に油を注ぎ、コミュニティ間や国民間の紛争を扇動する目的の文書や言説を行う者は6月以上3年以下の刑事施設収容とする。

 1936年の刑法はガザ地区に適用されるが、刑法59条及び60条は、パレスチナ住民の間に不和をもたらす者、住民の異なる人々に悪意や敵意の感情を助長する者は3年の刑事施設収容とする。

 1995年の印刷出版法第47条は、国民の統合を貶め、犯罪実行を煽動し、敵意を拡散し、憎悪や不和を植え付け、コミュニティの構成員の信条主義を刺激するものは3月以下の停職とする。

 2007年の公職選挙法第108条は、性別、宗教、信仰、職業、障害を基に他の候補者を避難する宣伝、言説、広告又は図像を用いた者は6月以上の刑事施設収容、及び500ドルの罰金とする。

 2017年のサイバー犯罪法第24条は、特定の集団に対する人種差別を目的とし、人種、信条、皮膚の色、外貌又は障害に基づいて人を脅迫、侮辱、攻撃し、インターネットや情報技術を通して人種差別に油を注ぐ情報を流布・回覧するウエブサイト、アプリケーション、電子アカウントをつくった者は、一定期間の強制労働、及び5000以上10万以下ヨルダン・ディナールの罰金とする。

 サイバー犯罪法第25条は、国際法文書に示されたジェノサイドや人道に対する罪を誤解し、又は正当化し、人道に対する罪の実行を援助・煽動した者は10年以上の強制労働とする。

 パレスチナにはアルメニア人やシリア人も居住するので、人種、皮膚の色、世系、人種的民族的出身を超えた交差性原則を考慮している。

 西岸に適用される刑法第278条は、他人の宗教感情を攻撃し、宗教信仰を侮辱する印刷物、文書、図像、絵画、シンボルを配布した者、公共の場や他人に聞こえる範囲で、その人の宗教感情を攻撃、侮辱する者は3月以上の刑事施設収容又は20ディナールの罰金とする。

 ガザに適用される刑法第149条は、他人の宗教感情を攻撃し、宗教信仰を侮辱する印刷物、文書、図像、絵画、シンボルを配布した者、公共の場や他人に聞こえる範囲で、その人の宗教感情を攻撃、侮辱する者は1年の刑事施設収容とする。

 1995年尾印刷出版法第47条は、宗教や信仰を貶める記事を掲載した新聞やメディアについて3月以上の停職とする。

 2017年のサイバー犯罪法第21条は、聖なる場所、宗教信仰を害し、侮辱する意図をもって、インターネットや情報技術を通じてウエブサイトを作り、情報を流布した者は、1年以上の刑事施設収容及び/又は2000以上5000以下ディナールの罰金とする。

 西岸に適用される刑法第144条は、内戦や信仰対立を引き起こす意図をもって組織された武装集団に参加した者は修身の刑事施設収容とする。

 西岸に適用される刑法第151条は、宗教的緊張や人種的緊張を煽り、コミュニティ間の紛争を煽動するために設立された組織に参加した者は、6月以上3年以下の刑事施設収容、及び50ディナールの罰金とする。当該目的の組織は解散される。

 ガザに適用される刑法第69条は、違法組織とは、住民に不和を掻き立てる目的の行為を唱道、煽動、鼓舞する人の集団とする。第70条は、違法集団のメンバーとなった16歳以上の者、違法組織の事務局員となった者、違法組織の代表者は1年の刑事施設とする。

2012年のイスラエル政府報告書審査の結果としてCERDがイスラエルに勧告したように、イスラエル占領下でヘイト・スピーチの禁止が必要である。占領権力はヘイトの文化を改革する措置を講じていない。それどころかユダヤ系イスラエルの人種的優越性に基づく思想が公式に信奉されている。2017年、イスラエル外務省は、イスラエルは文明都市であり、アラブ人は遅れた非人間的だとする人種主義的漫画を出版した。これは人種主義と暴力を煽動・鼓舞するものである。

 2001年のダーバン会議の時に、イスラエル財務大臣が、パレスチナが参加しているからという理由で「憎悪の祭り」と決めつけた。イスラエルによる差別政策にパレスチナ人が苦しんできたことを無視している。イスラエルは人種主義的で敵対的な環境を創り出し、アラブ人やパレスチナ人の殺害を唱える過激集団を育成してきた。非常に多くの事例があるが、一部を紹介する。

ヒルトップ青年集団は、占領パレスチナの丘に違法な山猫基地を作り過激な宗教的活動をしている。パレスチナ人と財産を攻撃してきた。

「値段札」集団はヒルトップ青年集団に属するが、西岸のパレスチナ人を攻撃してきた。もっとも有名な事件は南ナブルスのドゥマ村のダワブシャ家族の家を襲撃し、夫婦と赤ん坊が焼き殺された。

レハヴァ組織は、ユダヤ人と非ユダヤ人の結婚を阻止しようとする過激な人種主義集団である、西岸の特殊キャンプで訓練を続けている。

ユダヤ人タスクフォースは、イスラエルはすべてユダヤ人のための土地であるという主張で、パレスチナ人を排除する活動をしてきた。

占領下のイェルサレムではパレスチナ人に対する煽動、暴力、ハラスメント、人種差別の環境が抑制されていない。住民を攻撃する武装集団、日々のハラスメントが続いている。某量の波はパレスチナ人の身体的統合だけでなく生命権に影響を及ぼしている。2014年7月2日、イスラエル植民者は東イェルサレムのシュファ難民キャンプの赤ん坊を誘拐し、焼き殺した。植民者はアルメニア人も攻撃して、アルメニア人地区の壁に「アラブ人とアルメニア人に死を」と落書きしている。

CERDがパレスチナに出した勧告(CERD/C/PSE/CO/1-2.20September 2019)

刑事司法における人種主義の予防に関する一般的勧告31を想起し、人種差別の申し立てと法的対応のないこと、法的救済が貧弱であることに注意を喚起し、責任者の捜査と制裁を行うよう勧告する。法執行官、検察官、裁判官その他の公務員に人種差別に関する研修を行うこと。条約の下で保障される権利について啓発キャンペーンを行うこと。捜査、訴追、判決、被害者補償に関する統計データを報告すること。

1936年刑法、1960年刑法、印刷出版法、サイバー犯罪法がヘイト・クライム/スピーチを犯罪としているが、条約第4条に完全に合致していない。規定が過度に広範であいまいなため、表現の自由に重大な制限を科し、ジャーナリストや人権活動家を犯罪化してしまう懸念がある。ハマスによるメディアやソーシャルメディア、学校教科書に、イスラエル人に対するヘイト・スピーチがあり、反ユダヤ主義に油を注いでいる。

1936年刑法、1960年刑法、印刷出版法、サイバー犯罪法を修正して、条約第4条に合致させること。ジャーナリスト、人権活動家を傷害、ハラスメント、逮捕、拘禁、訴追するほうが表現の自由を制約しているので是正すること。公的人物、政治家、メディアがインターネット上でヘイト・スピーチや暴力の煽動をしているので、これと闘い、学校教科書から偏見と憎悪のもとになる記述を削除すること。