Monday, August 24, 2026

歴史否定・歪曲との闘い02

歴史否定・歪曲との闘い02

・欧州の歴史否定犯罪法について

前田朗『ヘイト・スピーチ法研究序説』(三一書房、二〇一五年)第10章「ヘイト・スピーチ法の類型論」第5節「歴史否定犯罪(アウシュヴィツの嘘)」

前田朗『ヘイト・スピーチ法研究要綱』(三一書房、二〇二一年)第11章「ホロコースト否定犯罪を考える」第3節「「法と記憶」をめぐる論争」

・韓国の「慰安婦」否定犯罪法について

前田朗「日本軍『慰安婦』否定発言規制法」『月刊社会民主』八五四号(二〇二六年)

・新書本では下記が重要。

武田彩佳『歴史修正主義』(中公新書、二〇二一年)

 

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国連人権理事会第63会期に提出された、バーナード・デュハイメ「真実・正義・補償・再発防止特別報告者」報告書(A/HRC/63/25. 6 July 2026)の紹介。

目次

Ⅰ 序文

Ⅱ 特別報告者の活動

Ⅲ 一般的検討

Ⅳ 国際基準の遵守

Ⅴ 否定主義の古典的形態と現代的形態及びその影響

Ⅵ 否定主義に対処する:鍵となる検討

Ⅶ 結論

Ⅴ 否定主義の古典的形態と現代的形態及びその影響

 

A 権威ある説明の信用毀損、過去の侵害の賛美及びその他の逆行的措置

B 否定の手段としての移行期の正義の模倣

C 否定主義denialismと記憶の法の改竄

D 技術を用いた誤情報

E 否定主義、不処罰、和解

F 否定主義、分極化、文化戦争

G 否定主義と周縁化

A 公権的説明の信用毀損、過去の侵害の賛美及びその他の逆行的措置

 1980年代から1990年代初頭、移行期の正義の議論が始まったが、その後、過去の事実についての認識が徐々に変化してきた。記憶と言うものは必ずしも直線的ではなく、往還したり変容したりする。このためdenialismも、移行期の一時点ではなく、長期的なサイクルの中にある。

 移行期の正義は、裁判所の判決や真実委員会の報告書によって終わらない。時を超え、世代を超えて継続する。長期に及ぶプロセスのため、初期の段階の真実追及や解明が、そのまま維持されるとは限らない。記憶が政治化される。否定主義者が採用する逆行的手段には多様なものが含まれる。①過去の人権人道法違反についての確立した真実や司法による認定を否認する、②実行犯を賛美し、過去の犯罪を消し去る、③記憶のシンボルや施設を撤去する、④関連する記憶計画の予算を停止する、⑤教育内容や歴史記憶を逆転させる、⑥事実上の障害や法的障害を持ち込み、被害者認定を妨げる、⑦被害者や人権擁護者に烙印を押し、迫害する、⑧移行期の正義機関を解体する、⑨再発防止を弱体化させるような法改正を行う。

 否定主義者の努力が、移行期の正義過程の耐久性に脅威となり、暴力の再発のリスクをつくりだす。国際人権法によって提供されたように、国家は逆行的な措置や政策を取らないようにしなければならない。

 アルゼンチンでは、1976年から1983年の軍事独裁期の人道に対する罪について、現政権が新しい立場にシフトしてきた。強制失踪委員会及び国際人権機関の報告書の影響として確立していた立場に変化が見られる。人道に対する罪の刑事訴追を促進する国家の役割を縮減するもので、行方不明者を捜索する移行期の正義機関を解体し、被害者補償・支援メカニズムを弱体化させている。否定主義が助長され、過去の侵害を美化ししている。

 ブラジル政府は、2018年から2022年、軍事独裁について確定した記憶を書き替える試みがなされた。政府と政治家が否定主義言説を助長し、国家機関による拷問をほめたたえている。軍事クーデタを記念し、国家真実委員会の正当性に疑問を挟もうとしている。

 ペルーでは、1980年から2000年の間の内戦における国家による人権侵害に関する真実和解委員会の認定を覆す試みがなされている。名誉毀損、破壊行為、暴力煽動が、これらの犯罪の記憶を損ねている。否定主義者の努力が、恩赦法や時効という手段に結びついている。

 デュハイメの前任者はセルビア、クロアチア、ボスニアヘルツェゴヴィナを訪問し、戦争犯罪の賛美、残虐犯罪の否認に警鐘を鳴らした。

 ガンビアでは、政治家や前政権担当者たちが、真実和解補償員会の勧告に抵抗している。独裁政権下の残虐行為を小さく見せ、国家の擁護のためだったと特徴づけようとしている。

 インドネシアでは、国家公務員による否定主義言説が登場し、重大人権侵害を惹き起こしたスハルトの支配を賛美し、「国家英雄」にしようとしている。

Wednesday, August 19, 2026

教育を禁じられたアフガニスタン 少女たちの心の叫び 絵画展in 東京

  教育を禁じられたアフガニスタン

少女たちの心の叫び 絵画展 in 東京

    ~ ジェンダーアパルトヘイトと私たち ~

102日(金)~4日(日) 

北とぴあ 地下展示ホール 

https://www.hokutopia.jp/access/

王子駅(京浜東北/南北線5番出口/都電荒川線)すぐ

参加費無料

<子どもたちの絵画を通じ、誰もが人として認められる社会について、

  いっしょに考えましょう>


 

◎☝今回、特別企画として、トークタイムを持ちます。

・私たちの友人の在留アフガン難民・ライリーさん:本国で暮らすアフガン女性としてだけでなく、日本で生活しているアフガン女性としても語ってもらいます。

憲法学者の清末愛砂さん:アフガニスタンの人々特に女性や子どもたちに真剣に向き合ってきた“人”として、話してもらいます。 

トーク以外の時間も交流できればと思っています。

貴重な機会ですので、ぜひお越しください。

 <スケジュール>

・102()…→13:0020:00(予定)

14時~清末愛砂さん(憲法学者・RAWAと連帯する会共同代表)トーク

 103()…→10:3019:30(予定)

★①11:30②15時~ライリーさん(在日アフガン難民女性)トーク

・104()…→10:3014:50(予定)

14:00~清末愛砂さん&ライリーさんトーク

 

<共催>

平和力フォーラム

RAWAと連帯する会

室蘭工業大学大学院工学研究科清末愛砂研究室

後援:東京都北区

<連絡先平和力フォーラム

akira.maeda@jcom.zaq.ne.jp

 090-8212-0524(前田)

Sunday, August 16, 2026

歴史否定・歪曲との闘い01

国連人権理事会第63会期に、バーナード・デュハイメ「真実・正義・補償・再発防止特別報告者」報告書(A/HRC/63/25. 6 July 2026)が提出された。

デュハイメは20245月から特別報告者。カナダのケベック大学教授、コロンビア・ロースクール人権研究所研究員、国連強制失踪作業部会メンバー。

目次

Ⅰ 序文

Ⅱ 特別報告者の活動

Ⅲ 一般的検討

Ⅳ 国際基準の遵守

Ⅴ 否定主義の古典的形態と現代的形態及びその影響

Ⅵ 否定主義に対処する:鍵となる検討

Ⅶ 結論

中心となるのはⅤであり、古典的形態と現代的形態という2つの形態に分けて否定主義を見ている点で興味深い。

以下、ごく簡潔に紹介する。

Ⅲ 一般的検討

特別報告者は基本的立場を提示する。特別報告者は、移行期の正義の文脈で、人権人道法の重大侵害についての否定主義・修正主義denialism, negationism, revisionismに直面している重大な挑戦を検討する。否定主義者が持ち出す複合的問題についての視点を提供し、この現象をいかに予想し、予防し、効果的に対応するか、移行期の正義過程と再発防止の期待に対する有害な影響をいかに減じるか。

denialism, negationism, revisionismの観念は密接に関連し、当局、専門家、研究者等によって互換的に用いられる。

人権人道法の重大侵害のdenialismには一連の形態がある。文字通りの事実の否定。事実があったと認めつつ、人権人道法の侵害についての解釈を争う。苦痛を与えたことを認めつつ、その意味合いを否定する黙示的否定もある。

negationismも同様である。もともとニュルンベルク裁判で認定されたホロコーストの事実を否定しようという政治的動機に結びついていたが、ルワンダや旧ユーゴスラヴィアのジェノサイドの否定といった多様な否定主義に結びついた。

Revisionismは、前任の特別報告者が言及したように、文化的権利分野で定義されたが、過去の事実について、証拠を曖昧化し、捏造し、文脈を変えてしまうことで、過去のイメージを意図的に、偏向させ、政治的に変更するものである。Revisionismは、新たな情報を探求し、新たな資料や証言に基づいて過去の理解を更新する正当な努力とは異なる。逆に、裁判所や真実委員会によって法的に認定された過去の侵害の包括的説明を無意味にする試みである。

本報告書では、それらの現象をdenialismという用語で表現する。移行期の正義の分野の国際基準に従えば、真実は、正確な、包括的な、記録された過去の説明・解釈への被害者、その家族、社会の権利である。その状況、原因、類型、帰結、関与者の責任、被害者の運命も関連する。

重大侵害のdenialismは、過去の侵害についての正確な情報を隠蔽することから、重大な不正義、犯罪を正当化、合理化、相対化、矮小化、陳腐化するなど、多様な形態がある。侵害の組織的否定は、抑圧的体制の特徴であり、移行期の正義メカニズムはこうした否定に直面してきた。強制失踪は抑圧的体制の犯罪の否定のサンプルである。

最近、denialismは国家当局、政治家、不寛容な集団によって助長されてきた。もっとも有名な形態は、「ポスト真実ポピュリズム」である。ポスト真実ポピュリズムは、過去について、政治的に利用し、単純化し、狭隘な語りに繋げる。ポスト真実ポピュリズムは、最近の技術的、文化的、社会的発展、ソーシャルメディア、デジタル技術、AIの台頭に依拠し、陰謀論にもかかわる。

Ⅳ 国際基準の遵守

国際法基準から見ると、移行期の正義は、①真実、②正義、③補償、④記憶化、⑤再発防止の5つの視点が重要である。国家にはこれらを保障する義務があり、非差別、ジェンダー視点、被害者中心アプローチを採用すべきである。

しかし、各国の文脈を越えて、現代的形態のdenialismが、移行期の正義過程に脅威となり、5つの視点の努力を弱め、長期的な持続性を弱体化させている。

1に、denialismは、被害者と社会が過去の侵害について真実を知る権利の妨げとなり、虚偽を広めることにつながる。歴史の事実を抑圧し、既存の資料や証拠についての情報を歪め、真実を追求する努力の正当性を奪い、被害者の語りを解除する。

2に、denialismは、被害者の正義への権利を制約し、刑事司法の正当性を貶めて説明責任を妨げ、裁判の適切な機能を損ない、国内法廷や国際法廷が認定した責任を否定し、被害者の合法的地位をも否定し、捜査・訴追・制裁する国家の義務を侵害し、被害者が効果的な補償を受ける権利も侵害する。

3に、denialismは、過去の被害を矮小化して賠償の権利を損ない、被害者の尊厳を侮辱し、現行の補償制度を無意味にし、過去の犯罪についての謝罪や認定発言を取りさげ、国家が賠償、補償、リハビリテーションを提供する義務を台無しにする。

4に、denialismは、記憶化の領域における義務に違反し、過去の人権侵害の事実を将来の世代に保持し、伝達する義務を損なう。保管された証拠や資料へのアクセスを妨害し、被害者の証言や記憶化の努力の正当性を奪い、教育、文化、メディアに悪影響を与える。

5に、denialismは、憎悪スピーチや差別スピーチを助長し、分断するレトリックを宣伝し、過去の犯罪についての情報を隠蔽することによって、再発防止の保障を無意味にする。民主的原則や法の支配を阻害し、国家機関の社会的信用を浸食し、平和の文化、共存、相互理解を妨げる。

法律や政策によって、過去の人権侵害についての議論を制約することでdenialismと闘う試みがあるが、表現、教育、情報の自由の権利にぶつかっている。国際自由権委員会は「歴史の事実についての意見の表明を処罰する法律は、意見表現の自由を尊重すると言う国際自由権規約の義務に抵触する。過去の出来事についての誤った解釈といえども、一般的に禁止することは許されていない」としている。

denialism抑止のための法律、行政命令、手続きの適用の困難性は表現の自由を不当に侵害するかもしれない。真実への権利は知る権利、情報への自由として特徴づけられるので、真実への権利は情報にアクセスする権利に結びついている。国家は、国際法の下で、公共の利害に関する政府情報を公共圏に提示する義務がある。

だが、表現の自由、文化的権利、科学知識にアクセスする権利、教育権は、すべて、denialismと闘うための重要な方法である。国際自由権規約第20条によれば、国家は戦争宣伝や、差別、敵意又は暴力の扇動となる国民的、人種的又は宗教的憎悪の唱道は、法律で禁止する義務がある。人種差別撤廃条約第4条によれば、人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、人種差別の扇動を禁止しなければならない。ジェノサイド条約第3条によれば、集団殺害を犯すことの直接且つ公然の教唆を禁止しなければならない。この点で、ラバト行動計画の6要件に注意を喚起する。

*ラバト行動計画の6要件について、前田朗『ヘイト・スピーチ法研究序説』543頁参照。

Saturday, August 15, 2026

自分の声すら聴こうとしない社会で

宮沢剛『他者の声を聴く 在日朝鮮人文学への応答』(三一書房)

https://31shobo.com/2026/04/26003/

 

もともと志賀直哉など日本文学研究者だった宮沢だが、大学院博士後期課程のころから、在日朝鮮人文学に向き合うようになったと言う。

<「当事者」が非「当事者」とは異なる〈現実〉を生き、異なる〈現実〉を見ているのなら、「当事者」が〝自らの〟文学を研究することには「必然性」がある>

在日朝鮮人による在日文学研究である。

<一方で、同じ権力構造の中をマジョリティ(非「当事者」)として生きる者がマイノリティ文学を如何に読み、如何に論じるのかという問いを折り込みながら行う研究にも意義があると思う。>

宮沢は、あえて素朴な問題意識を披歴することから始める。この社会では、ここから始めること自体が稀有のことだからだ。

在日朝鮮人文学〝論〟ではなく「在日朝鮮人文学への応答」としての宮沢の文学研究は、長く緩やかなカーブを描きながら、自己形成とその修正を辿り続けて、ここに結晶した。

金史良、李恢成、梁石日、金時鐘、黄英治、李龍徳、宗秋月、李良枝、温又柔らの声にひたすら聞き入り、聴き直し、応答しながら、この国と社会の文学のありようを顧みる試みは、つねに破綻の危機を呼び込みながら、自らを問い直す試みである。

宮沢の闘いが孤独に佇まざるを得ないのは、この社会の流儀に反するからだ。この社会では、他者を見出すことさえ難しい。他者に向き合うことは忌避される。他者の声を聞くことは、自己の存立を危うくする冒険だからだ。

それどころか、この社会では、誰も自分の声すら聴こうとしない。上からの声に命じられ、押し流されることが穏当な作法と見なされているからだ。

日本文学と文学研究が差別や排除や迫害に抗するためには、いくつもの学びと自省が必要だが、その用意はできていない。文学だけではない。政治学も法学も社会学も、同様に内向きの心地よい空間で輪舞を繰り返してきた。

空しいメビウスの輪から抜け出して、次の一歩を踏み出すこと。ここから宮沢の次の闘いが始まる。

Thursday, August 06, 2026

マイノリティ女性の権利 ――脱植民地フェミニズムに学ぶ

反差別連続講座・第9回 

 

マイノリティ女性の権利

――脱植民地フェミニズムに学ぶ

講師:前田朗

 

920日(日)1400―1630、開場1330

浦和コミュニティセンター第14会議室 

浦和パルコ上10F(浦和駅東口すぐ)

参加費:800円、学生・障がい者500

近年、「部落フェミニズム」や「在日フェミニズム」が注目を集めています。部落差別と女性差別の二重の被害を受ける女性。朝鮮人差別と女性差別の交差性。世界的に見ても、主流フェミニズムは西欧白人女性の利害を反映していました。ブラック・フェミニズムや先住民フェミニズムは白人中産階級フェミニズムへの異議申し立てです。

最前線の潮流が脱植民地フェミニズムです。脱植民地フェミニズムの知見を基に日本のマイノリティ女性の闘いを見直すことにしましょう。

女性差別は「男性問題」ですから、フェミニズムに学ぶべきは男性です。

・当日配布資料

    前田朗「脱植民地フェミニズムの動向と日本の課題」『女性・戦争・人権』24号(2025年、「女性・戦争・人権」学会)

    前田朗「脱植民地フェミニズムに学ぶ」『人権と生活』58号(20245月)

 

主催:外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク埼玉

協賛: ヘイトスピーチ禁止条例を求める埼玉の会、子どもの人権埼玉ネット、在日本朝鮮民主女性同盟埼玉県本部、朝鮮・韓国の女性と連帯する埼玉の会

問合せ:08012453553(斎藤)