Tuesday, March 18, 2014

ヴィンタトゥール美術館散歩(3)

ヴィンタトゥール駅前通りを歩いてすぐに市立公園の美術館に出る。古い街並みの旧市街の一歩外側に、美術館、自然博物館、市立劇場などが並ぶ。もともと産業都市のヴィンタトゥールだが、今や素敵な文化都市でもある。                                                                                            オスカー・ラインハルト財団の美術館は、地元スイスを中心に、オーストリアや南ドイツの美術をテーマにしている。(1)ヴィンタトゥール美術館が近代西洋美術の教科書美術館、(2)レーマーホルツがラインハルトの審美眼に基づく特定美術館だとすると、(3)市立公園の美術館はスイス周辺地域美術の専門美術館だ。カタログは『カスパー・ダヴィド・フリードリヒからフェルディナンド・ホドラーまで:ロマンティックな伝統――オスカー・ラインハルト財団の19世紀絵画作品』である。                                                                                                                                   美術館での展示と、カタログの順番は同じではないが、ありがたいことに素人でもすぐに頭の中で再構成できるように、わかりやすくなっている。                                                                                                                                                     リオタール「トルコ服の自画像」、カスパー・ヴォルフ「ラウターブルンネンの滝」などは18世紀末だが、肖像画、静物、風景いずれも古典的だ。                                                                                                                                                                            フュスリ「嫉妬」の激しさはカタログではわからない。やはり実物だ。テプファー「祭り」「春」、アガセ「白馬」「ウェストミンスター橋」「花売り娘」の物語性。カスパー・ダヴィド・フリードリヒ「リューゲンの氷河渓谷」は表紙にもなっている。まじかで見ていると渓谷に落ちる。32歳で亡くなったエルンスト・フリース「マサ・ディ・カラーラ」もいい。コベル「テゲルゼーの乗馬」2点は笑える。メンゼル「月夜の駅舎」や女性像、カラーメ「ジュネーヴのプチサコネ」(1834年)はいつも歩いている場所だけに、あまりの違いを痛感する。日本でも最近カラーメ展。                                                                                                                                                                そしてスイスのロマンティックと言えば、誰よりもアルベルト・アンカー。数年前にベルン美術館でやったアンカー展は涙が出るほど素晴らしかった。「画家の娘ルイーズ」は肖像画の傑作の一つ。アンカーの重たいカタログは研究室に置いてある。                                                                                                                                                          ベックリンもある。亡くなった美術評論家・宮下誠がクレーとともに徹底的にこだわっていたのが、ベックリンだったようだ。バーゼル大学に留学したからだろうか。「ニンフの水浴」「トリトンとネライデ」「パオロとフランチェスカ」。宮下の本は熱心に読んだが、会ったことがないのは残念。授業の「総合講座パウル・クレー」に出講を頼もうと思っていた矢先に亡くなった。美術評論の天才に一番近い秀才だったのではないか。リーバーマン「エダムの通学路」。                                                                                                                                             ホドラーはたくさんあった。スイスの美術館にはホドラーがたくさんあってあたりまえ。ホドラーは実に多作だが、実に多彩で、肖像、静物、風景、空想、妄想、神話すべてあり、写実、印象派、キュビズムにも対応、聖書や創造の世界にも及ぶスケールだ。自画像、少女像、婦人像。「驚愕の嵐」「エヴォルデへの道」。                                                                                                                                 セガンティーニもある。「アルプスの水飲み少女」はつい先年日本に来た。ジョヴァンニ・ジャコメティの風景画と肖像画。                                                                                                                ヴィンタトゥールは「疲れる」町だ。こんなに美術品があって、一部を見るだけでも大変だから。ここに1週間滞在すれば、人間の「質」が良くなることは間違いない。