Thursday, August 03, 2017

ブラック奨学金の正体

今野晴貴『ブラック奨学金』(文春新書)
<学生をしゃぶり尽くす“高利貸し”の正体!>
給付型奨学金なるものが始まり、政権もメディアも安倍政権の成果を宣伝している。しかし、貸与型奨学金などと言う教育ローンが圧倒的に多く、偽の奨学金制度が日本では当たり前と思いこまされてきた。給付型奨学金を受けられるのは学生の3%程度に過ぎない。ほとんどは借金になるしかない。
大学進学率が50%を超え、奨学金を借りるのは100万人もの学生。平均300万円だと言う。
ところが、卒業後すぐに返還が始まるし、少し滞納するとブラックリストに載せられ、厳しい取り立てが始まる。教育目的など忘れて、一般の借金取り立てと同じである。就職先がブラック企業のため退職すると、とたんに奨学金返済に追いまくられる。病気になっても返済猶予が認められない。
返還期限猶予制度があるが、説明不足で、大半の学生が知らない。書類作成も大変面倒だ。返還猶予はほとんどない。
こんな状態なので、「延滞金地獄」に追い込まれる若者が増えている。本人が行方不明になったり、死亡しても、連帯保証人や保証人に一括返還が求められる。利息と延滞金が膨れ上がる。
こうしたブラック奨学金の実態を、『ブラック企業』『ブラックバイト』の著者が解明する。独立行政法人・日本学生支援機構JASSOという国家機関はなになのか。どのような貸与型奨学金を運営してきたのか。どこに問題があるのか。悲劇の原因は何か。諸外国で実現している教育支援が、なぜこの国ではできないのか。
ここから日本の教育政策の貧困と、経済状態の悪化が重なる中、大学で学びたい学生たちが陥る窮状が見えてくる。文字通りの借金地獄が始まるからだ。若者が陥る貧困無限ルp-プをどう回避するのか。本書は、教育政策、奨学金政策の是正という大きな政策課題と、個々の学生が身を守るための方策を提言する。
 「グローバル競争の中、国際貢献が求められる。人口減少の中で高齢の団塊世代を支え、次世代をも育まなければならない。それが、現在の10~30代に課せられた現実である。それにもかかわらず、高等教育の学費が高騰し、若者が借金を背負って社会に出て行かざるを得ない現実は、あまりに残酷ではないか。いや、『借金』という感覚的な問題だけで済めばよい。実際に、現在の制度設計のままで、日本社会は生き残れるのだろうか?
 世界中の国々が教育に力を入れ、次世代の育成こそが生き残りのカギだと考える中、日本だけが取り残されている。本来は、社会に閉塞感があればあるほど、未来に不安があればあるほど、次世代の育成に国家や社会全体が取り組んでいくべきなのに・・・。」
ちなみに、私は日本育英会時代に数百万円借りて大学院に学んだ。他にもいくつか借りて、到底返せない金額になった。しかし、当時の日本育英会の奨学金は大学院修了後5年以内に大学教員になれば返還猶予となったので、ラッキーだった。1円も返さずに済んだ。
 JASSOも、給付型奨学金の比率をもっと増やすべきだし、返還猶予制度を充実させるべきだ。貧困事情(本人や家族の病気等)は当然だし、教育目的の奨学金ならば教員になったとかその他各種の返還猶予があってもいい。