Saturday, August 03, 2013

「アラブの春」とは何だったのか

重信メイ『「アラブの春」の正体――欧米とメディアに踊らされた民主化革命』(角川ONEテーマ21)                                                                    *                                                                                   チュニジアのジャスミン革命に始まった「アラブの春」をメディア戦争という観点で再検討した1冊。                                                                                                  チュニジア、やエジプトについては民衆の不満が噴出して民主化革命が起きたという理解にさしたる疑問がないとしても、リビア、バーレーン、イエメン、オマーン、サウジアラビア、ヨルダン、モロッコ、シリア、レバノン、カタールと続く事態を全体としてみると、一方には非暴力の民衆による闘いがあり、他方に内戦や外国軍の介入があり、実に多様である。「アラブの春」という言葉では到底表現しきれない。とりわけ、リビアやシリアへの外国軍の干渉は、民衆による民主化運動への支援ではなく、むしろあからさまな利権目当ての軍事介入である。                                                                                                 本書は、アラブ各国の状況を、各国の歴史と国家形成の差異、民衆の不満と要求のあり方、メディア、とりわけインターネットとアルジャジーラの影響に着目して、それぞれの特徴を描き出している。平易な語り口で、わかりやすい。国際政治経済の分析は弱いが、「アラブの春」の全体像を新書1冊で上手にまとめている。一般読者向けの解説としてかなりよくできている。                                                                                                          著者は、1973年、ベイルート生まれの中東問題専門家、というより日本赤軍の重信房子の娘として知られる。