Thursday, December 26, 2013

ヘイト・スピーチと闘うために

師岡康子『ヘイト・スピーチとは何か』(岩波新書)――――ヘイト・スピーチを流行語にした仕掛け人によるコンパクトな概説書である。ヘイト・スピーチに関する数々の誤解に的確に応答し、正しい理解をしたうえで、いかなる対処が必要かを論じている。「ヘイト・スピーチは汚い言葉である」などと素朴な誤解を平気で並べ立てる評論家がいるが、著者は、マイノリティに対する人種的動機、人種差別による表現行為であることを明確に指摘して、「ヘイト・スピーチとは、広義では、人種、民族、国籍、性などの属性を有するマイノリティの集団もしくは個人に対し、その属性を理由とする差別的表現であり、その中核にある本質的な部分は、マイノリティに対する『差別、敵意又は暴力の煽動』、『差別のあらゆる煽動』であり、表現による暴力、攻撃、迫害である」とまとめている。著者はヘイト・スピーチの本質、被害の深刻さをきちんと論じたうえで、イギリス、ドイツ、カナダ、オーストラリアの法状況を紹介し、国連人権高等弁務官事務所主導によるラバト行動計画や、人種差別撤廃委員会の一般的勧告35など国際人権法の水準も確認し、法規制慎重論に一つひとつ反論し、最後に「規制か表現の自由かではなく」として包括的な制度構築(調査、差別禁止法、救済制度)を提言している。ヘイト・スピーチと闘うための必読書である。著者は、2003~07年日本弁護士連合会人権擁護委員会委嘱委員、東京弁護士会外国人の人権に関する委員会委員、枝川朝鮮学校取壊し裁判弁護団。07年ニューヨーク大学ロースクール、08年英キール大学大学院、10年キングズカレッジ・ロースクール留学。大阪経済法科大学アジア太平洋研究センター客員研究員、国際人権法学会所属。外国人人権法連絡会運営委員。共著書に『なぜ、いまヘイト・スピーチなのか』(前田朗編著、三一書房)、『今、問われる日本の人種差別撤廃 国連審査とNGOの取り組み』(反差別国際運動日本委員会編集・発行)、『外国人・民族的マイノリティ人権白書2010』(外国人人権法連絡会編、明石書店)ほか。