Thursday, April 16, 2026

哲学の可能性と不可能性

ユク・ホイ『ポストヨーロッパ』(岩波書店)

https://www.iwanami.co.jp/book/b10146259.html

<世界を覆い尽くす際限のない消費主義と、各地で激化する保守主義や他者の排除――。故郷喪失の感覚と故郷回帰への欲望に囚われた時代、哲学は何を示すことができるだろうか? アジアとヨーロッパを横断する哲学者がハイデガー、スティグレール、西谷啓治らとの対話を通して描き出す、〈ヨーロッパ化〉した惑星を超え出る思考>

1920世紀世界を支配した西洋近代(欧米)の思想と技術の総体が、戦争、気候変動、ヘイトと排外主義に陥り、危機に瀕している現在、いかにしてヨーロッパを乗り越えるか。その思想をいかに編み上げることができるか。

これまでにも多くの思想家や著述家が挑みながら、失敗を積み重ねてきたこの問いに、「宇宙技芸」と「技術多様性」のユク・ホイが挑む。キーワードは、惑星的な故郷喪失を超える「思考の個体化」であるという。

香港大学でコンピュータ工学を学び、ロンドン大学で文化理論を修め、ロイファナ大学リューネブルクで技術哲学の大学教授資格を取得し、現在はエラスムス大学ロッテルダムの哲学教授である。博士論文の審査教授はベルナール・スティグレールである。ジャック・デリダ、スティグレールの継承者でもある。

デリダも「哲学はヨーロッパ」と結論付けていたと言う。乗り越えを企図したハイデガーはギリシアに回帰したにすぎない。

かつて京都学派は西欧近代を乗り越えようとして、<近代の超克>を唱えたが、戦争とファシズムへの道を開くものであった。半世紀後に、廣松渉は<近代の超克>論を打ち出したが、大東亜共栄圏への憧れを想起させた。

そして今、東洋と西洋を体現するユク・ホイが、「ポストヨーロッパの哲学」を始めようとする。戦争でもファシズムでもなく、ウクライナ戦争のプーチンでもイラン戦争のトランプでもなく、西洋近代を終わらせることで完成させ、新たな地平の中に発展させるポストヨーロッパ。

私は『希望と絶望の世界史』(三一書房)において私なりの見取り図を描いたが、未来への展望は語りえなかった。

ユク・ホイの思想が私たちをどこへ連れ出そうとしているのか、今後も注目が必要だ。