Monday, January 07, 2019

愉快な希望のアナキズム


栗原康『アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ』(岩波新書)


『はたらかないで、たらふく食べたい』『大杉栄伝』『村に火をつけ、白痴になれ』の著者の最新刊。これまでの著書で繰り返してきたアナキズムの主張を手際よくまとめた入門書である。いつもの栗原節が炸裂する。暴走する。

「自然とは暴動である」「ファック・ザ・ワールド」「やられなくてもやりかえせ」「われわれは圧倒的にまちがえる」「あらゆる相互扶助は犯罪である」。

正しさをぶち壊し、あらゆる支配を拒否し、自由の名による自由の抑圧に抗し、アナーキーな精神を歌い、叫び、笑い、理論武装し、実践する。生きる。とにかくおもしろい。笑える。柱はしっかりしているから、筋を間違えることなく一直線。

制度としてのアナキズムではなく、生き様としてのアナキズムに焦点を当てているので、パリ・コミューンや、2018年のパリや、エマ・ゴールドマンなどの史実に詳しく言及するが、圧倒的な暴力の事実の紹介と、それへの共感の表明はあるが、暴力や破壊を直接呼びかけるわけではない。まして組織化することは否定する。

それゆえ、現実を変革することではなく、解釈を変革することに力点が置かれる。意識を変革すれば現実を変革したように思うこともできないわけじゃない、というわけだ。社会変革の理論と実践の大いなる失敗の歴史を踏まえて、著者は、永遠のマスターベーションとしてのアナキズムを構築する。

「ユートピアだ。コミュニズムとは絶対的孤独である。それは現にある秩序をはみだしていこうとすることだ。かぎりなくはみだしていこうとすることだ。あらゆる相互扶助は犯罪である。アナーキーをまきちらせ。コミュニズムを生きてゆきたい。」

最後の一文に厳密に表明されているように、「現にある秩序をはみだす」ことではなく「はみだしていこうとすること」が目標とされる。「かぎりなくはみだす」ことは慎重にしっかり回避し、「はみだしていこうとすること」だけが語られる。永遠のマスターベーションこそ希望のアナキズムなのだろう。