Monday, December 21, 2020

「桜を見る会」を追及する法律家の会、第2次告発状

12月21日、法律家の会は東京地方検察庁に告発状を提出した。

*告発状末尾には「桜を見る会前夜祭・収支不記載の収支報告書・会費徴収額と補填額」という一覧表がついているが、ここでは省略した。

 

告  発  状

被告発人

 氏名 安倍晋三

 職業 衆議院議員・晋和会代表者

被告発人

 氏名 配川博之

 職業 安倍晋三後援会代表者・同前会計責任者

被告発人

 氏名 阿立豊彦

 職業 安倍晋三後援会会計責任者

被告発人

 氏名 西山猛

 職業 晋和会会計責任者

 

告発の趣旨

 

 1 被告発人安倍晋三、被告発人配川博之、被告発人阿立豊彦及び被告発人西山猛の後記第1の1ないし5及び第2の1ないし5の所為は、刑法60条、政治資金規正法第25条1項2号、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

2 被告発人安倍晋三の後記第3の所為は、政治資金規正法第25条2項、同条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

3 被告発人安倍晋三の後記第4の所為は、政治資金規正法第27条2項、同法25条1項、同法12条1項1号ホ及び同2号に該当する。

4 被告発人安倍晋三及び被告発人配川博之の後記第5の1および2の所為は、刑法60条、公職選挙法249条の5第1項及び同法199条の5第1項に該当する。

よって、上記の被告発人らにつき、厳重な処罰を求め、告発する。

 

告発の事実

 

第1 被告発人安倍晋三(以下、「被告発人安倍」という)は、2014(平成26)年12月14日施行の第47回衆議院議員選挙及び2017(平成29)年10月22日施行の第48回衆議院議員選挙に際して、いずれも山口県第4区から立候補し当選した衆議院議員であり、被告発人配川博之(以下、「被告発人配川」という)は、安倍晋三後援会(以下、「後援会」という)の代表者を務めると共に少なくとも2016(平成28)年5月27日までは後援会の会計責任者を務めていたものであり、被告発人阿立豊彦(以下、「被告発人阿立」という)は、遅くとも2017(平成29)年5月29日頃から現在まで後援会の会計責任者を務めている者であるが、政治資金規正法第12条1項により、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、

 

1 被告発人安倍及び被告発人配川は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、山口県下関市東大和町1丁目8番16号所在の安倍晋三後援会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」(以下、「前夜祭」又は「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約540名を乗じた推計約279万円及び被告発人安倍の資金管理団体晋和会から157万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、上記前夜祭の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約427万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

2 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」(以下、「本件宴会」などという)の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約458名を乗じた推計約229万円及び晋和会から約177万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ANAインターコンチネンタルホテル東京に対し、少なくとも推計約407万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2017(平成29)年5月29日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

3 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約482名を乗じた推計約241万円及び晋和会から約186万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約427万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2018(平成30)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

4 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約608名を乗じた推計約304万円及び晋和会から約145万の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約448万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2019(令和1)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

5 被告発人安倍、被告発人配川及び被告発人阿立は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記後援会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の費用として、参加者1人あたり5000円の参加費に参加者数約768名を乗じた推計約384万円及び晋和会から約251万円の収入が後援会にあり、かつ、後援会から、本件宴会の前後に、ホテルニューオータニ東京に対し、少なくとも推計約634万円の本件宴会代金を支出したにもかかわらず、後援会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記前夜祭に関する収入及び支出を記載せず、これを2020(令和2)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

第2 被告発人安倍は、晋和会の代表者であり、被告発人西山猛(以下、「被告発人西山」という)は晋和会の会計責任者を務めている者であるが、政治資金規正法第12条1項により、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、

 

1 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2016(平成28)年5月下旬頃、東京都千代田区永田町2丁目2番1号 衆議院第一議員会館1212号室所在の晋和会事務所において、真実は、2015(平成27)年4月17日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約157万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2015(平成27)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2016(平成28)年5月27日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

2 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2017(平成29)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2016(平成28)年4月8日、ANAインターコンチネンタルホテル東京において開催された宴会である「桜を見る会 安倍晋三後援会懇親会」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約177万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2016(平成28)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2017(平成29)年5月26日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

3 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2018(平成30)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2017(平成29)年4月14日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約186万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2017(平成29)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2018(平成30)年5月16日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

4 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2019(令和1)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約145万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2018(平成30)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2019(令和1)年5月24日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

5 被告発人安倍及び被告発人西山は、共謀の上、2020(令和2)年5月下旬頃、前記晋和会事務所において、真実は、2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」の代金として後援会が上記ホテルに支払うべき代金の補填分として、後援会に代わり、上記ホテルに対し、現金約251万円を支払うことをもって、後援会に対して支出をしたにもかかわらず、晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書に、上記補填分に関する支出及びその原資となる収入を記載せず、これを2020(令和2)年5月18日、山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出し、

 

第3 被告発人安倍は、、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、上記第2の3ないし5の所為について仮に故意がなかったとしても、、晋和会の会計責任者である被告発人西山の選任及び監督につき相当の注意を怠り、

 

第4 被告発人安倍は、、晋和会の代表者であるが、政治資金規正法第12条1項により山口県選挙管理委員会を経由して総務大臣に提出すべき後援会の収支報告書につき、仮に故意がなかったとしても、重大な過失により、上記第2の1ないし5の所為を犯し、

 

第5 被告発人安倍及び被告発人配川は、共謀の上、法定の除外事由がないのに、

 

1 2018(平成30)年4月20日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、後援会を介し、被告発人安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、飲食費の1人あたり単価が少なくとも1万1000円程度であるところ、1人あたり5000円の参加費のみを徴収し、もって1人あたり少なくとも6000円相当の酒食を無償で提供して寄附をし、

 

2 2019(平成31)年4月12日、ホテルニューオータニ東京において開催された宴会である「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」において、後援会を介し、被告発人安倍の選挙区内にある後援会員らに対し、飲食費の1人あたり単価が少なくとも1万1000円程度であるところ、1人あたり5000円の参加費のみを徴収し、もって1人あたり少なくとも6000円相当の酒食を無償で提供して寄附をし

たものである。

 

告発に至る経緯

 

1 2020(令和2)年5月21日、法律家621人が、2018(平成30)年4月20日開催された「安倍晋三後援会 桜を見る会前夜祭」に関して、被告発人安倍、被告発人阿立及び被告発人配川を政治資金規正法第25条1項2号(収支報告書不記載)の罪で、また被告発人安倍及び被告発人配川を公職選挙法249条の5第1項(寄附)の罪で東京地検に告発し、大きく報道された。その後も、同じ内容の告発は続き、告発人は現在、980人に達している(第1次告発)。

2 しかるに東京地検特捜部は、いまだに上記告発人らに対し、捜査の進捗状況を明らかにしないばかりか、再三の問合せに対しても、告発を受理したかどうかすら、「捜査に関わることはお答えできない」などとして明らかにしない。極めて不当かつ不誠実な対応であり、強く抗議する。

3 同年11月23日、読売新聞が、「『桜を見る会』の前夜祭を巡り、安倍氏らに対して政治資金規正法違反容疑などでの告発状が出されていた問題で、東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから任意で事情聴取していた」、「前夜祭の飲食代などの総額は、参加者の会費だけでは不足していた」と報道したのを皮切りに、報道機関各社が独自取材に基づき、捜査内容を報道し始めた。

  これまでの報道によれば、収支報告書不記載の罪で時効にかからない2015(平成27)年4月から2019(平成31)年4月まで5回開催された前夜祭において、参加者らから徴収する1人5000円の参加費ではホテルへの支払額に足りず、差額分を被告発人安倍の政治資金団体晋和会がホテルに対し現金で支払っていたとのことであり、毎年の参加費及び補填額も明らかにされている。ホテルからは晋和会宛ての領収証が発行されていたが、被告発人安倍側はこれら領収証を廃棄していたということである。

  また、ホテル側はつねに前夜祭の明細書を作成し、後援会に渡していたということである。

被告発人安倍は、国会において、「会費はホテル側が設定した。安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」、「後援会に収入支出は一切なく、政治資金規正法への記載は必要ない」、「ホテルからの明細書も見積書もない」と再三答弁してきたが、こうした答弁が客観的に虚偽だったことが明白になった。

4 現在、報道によれば、検察は、公設第1秘書及び事務担当者の収支報告書不記載につき政治資金規正法違反により略式起訴をして罰金刑とし、被告発人安倍については「事情聴取」の上、年内に不起訴処分とする予定であるとされている。

  しかし、本件は、7年8か月にわたり内閣総理大臣の地位にあった被告発人安倍の後援会や資金管理団体が犯し続けてきた犯罪であり、しかも国会で虚偽答弁を重ね続けたこと、国会での追及後である2020(令和2)年5月に提出した2019(令和1)年分の収支報告書にもあえて収支を不記載としたことなど、悪質かつ重大な犯罪であり、決して秘書だけの処罰、略式請求により犯罪の全容が国民に公開されない処理で済ませるべき事案ではない。

また、捜査の過程で、後援会だけでなく、被告発人安倍が代表者となっている政治資金団体晋和会から資金が拠出されたことが明白になったにもかかわらず、晋和会の収支不記載についての被疑事実がいっこうに報道されないこと、第一次告発で指摘した後援会員らに対する寄附行為についても捜査が及んでいる様子がうかがわれないことも、不可解であり、問題である。

 5 私たちは、12月1日、東京地検特捜部に対し、徹底した捜査と真相解明を尽くし、略式起訴で終わらせず正式起訴をせよとの要請書を提出し、同月8日には東京地検特捜部に対し再度の要請書を提出するとともに、東京簡易裁判所裁判官に対し、仮に略式請求がなされても事案の重大性に鑑み正式裁判をせよとの要請書を提出したが、東京地検特捜部はこれらの要請を受け止めることなく、年内に捜査の幕を引くことを公言している。

 6 そこで、私たちは、安易な事件終結を許さないため、このたび改めて、2015(平成27)年4月から2019(平成31)年4月まで5回開催された前夜祭に関する2016(平成28)年5月から2020(令和2)年5月まで5回提出された、後援会及び晋和会の収支報告書の不記載による政治資金規正法違反の犯罪と、2018(平成30)年4月および2019(平成31)年4月の前夜祭における後援会員らに対する寄附による公職選挙法違反の犯罪について、被告発人安倍らを告発するものである。

   告発対象を過去5年内ないし3年内の行為に限定したのは、公訴時効の関係であって、これら犯罪は2013(平成25)年4月の第1回目の前夜祭から7年7回にわたって行われてきたことを重く受け止めるべきである。

 

告発事実のポイント

 

Ⅰ 政治資金規正法違反(収支報告書不記載)について

1 告発事実第1(後援会)

告発事実第1は、後援会の5年間の収支報告書に、前夜祭の費用にかかる収支を一切記載しなかった行為の処罰を求めるものである。

第一次告発状で詳細に指摘したとおり、前夜祭のホテルとの契約主体は、あくまでも後援会である。

従って、参加者から徴収した参加費も後援会の収入であり、これを契約主体である後援会がホテルに支払うものである。

また、ホテルが晋和会に補填分の領収証を発行したことが明らかになっているが、ホテルとの契約の主体が後援会である以上、代金支払債務を負うのは後援会であるから、これも後援会からホテルに対する支出として扱われなければならず、従って、その収入は晋和会から入金されたものとして記載されなければならない。

以上により、後援会は、参加者から徴収した参加費及び晋和会から入金された補填金をそれぞれ収支報告書の収入として記載し、上記の合計額をホテルへの支出として記載しなければならないにもかかわらず、これらを一切記載しなかったことが犯罪となる。

なお、それぞれの金額は、11月25日付朝日新聞の報道によるものである。

 

 2 告発事実第2(晋和会)

告発事実第2は、晋和会の5年間の収支報告書に、前夜祭の費用にかかる収支を一切記載しなかった行為の処罰を求めるものである。

前述のとおり、晋和会がホテルに渡し晋和会宛ての領収証の発行を受けた前夜祭の補填金は、事実上後援会の支払義務を肩代わりしたものであり、法的には後援会に対して支出したものと評価されるべきである。

また、後援会に対し、5年間で900万円以上の支出をしたのであれば、その原資について収入もなければおかしいが、晋和会の収支報告書にはその収入の記載もない。

以上により、晋和会は、後援会への支出とその原資の収入を、それぞれ収支報告書に記載しなければならないにもかかわらず、これらを一切記載しなかったことが犯罪となる。

それぞれの金額は、第1と同様、11月25日付朝日新聞の報道によるものである。

 

 3 補填分の原資を公開することは必須である

被告発人安倍が必死で隠し、「ない」と言い続けてきた、5年間で900万円以上と言われる補填分が実際は「あった」ということについて、その原資をどこから得たのか、国民の関心は極めて高い。

政治資金規正法は、決して「形式犯」ではない。同法の立法趣旨は、政治資金の収支・流れを国民にガラス張りにすることによって、政治活動の公明、公正を確保し、健全な民主政治を実現しようとするものである。「どこから流れてきたのかわからない金」が政治資金として使われることは、「金で政治を買う」ことにつながり、民主主義を傷つけるものであり、あってはならないのである。

補填分の原資については、年間11億円と言われ、領収証不要とされる内閣官房機密費ではないかとの推測が、政治資金規正法を専門とする学者などから出されている。

  こうした疑問に応えるためにも、略式請求や不起訴で捜査を終結するのではなく、強制捜査を行い、被告発人らに対しては被疑者として取調べを行って真相を解明し、正式裁判請求の上、公開の法廷で真実を明らかにすべきである。

 

4 被告発人安倍の悪質性

―少なくとも2019(令和1)年分の収支報告書不記載には「故意」がある

前述のとおり、被告発人安倍は、国会において、「会費はホテル側が設定した。安倍事務所の職員が会場入り口で会費を受け取り、その場でホテル側に現金を渡した」、「後援会に収入支出は一切なく、政治資金規正法への記載は必要ない」、「ホテルからの明細書も見積書もない」などと再三答弁してきたが、こうした答弁が客観的に虚偽だったことが明白になった。

  被告発人安倍は、国会においても、また補填が明らかになった現在に至っても、「自分は知らなかった」、「秘書が自分に隠していた」として、秘書に責任を押し付け、自らに故意はなかったと供述して逃げ切ろうとしているようである。

  しかしながら、そもそも「安倍事務所」の実質的代表者である被告発人安倍が、自らの政治団体の金の流れや収支報告書の内容について、「知らない」ことはあり得ない。

2013(平成25)年4月に初めて開催した前夜祭については、同年5月10日、晋和会が補填分82万9394円を株式会社パノラマ・ホテルズ・ワン(ANAインターコンチネンタルホテルの運用会社)宛てに支払い、2014(平成26)年5月に提出された晋和会の収支報告書には、上記支出を「会合費」として記載している。あえて契約主体である後援会ではなく晋和会が支出し、しかもわかりにくい「会合費」として記載したこと自体、補填を隠す意図が明白である。ところが、翌2015(平成27)年5月に提出した収支報告書以降は、支出を記載すること自体をやめている。これは、小渕優子衆議院議員の関連政治団体の収支報告書不記載が発覚し、同議員が閣僚辞任に追い込まれたことの影響ではないかと報道されている。こうした「安倍事務所」ぐるみの隠蔽工作について、被告発人安倍が全く知らなかったことがあり得るとは思われない。

少なくとも、「桜を見る会」や「前夜祭」が国会で厳しく追及された2019(令和1)年11月以降、被告発人安倍が、真実はどうなのかと改めて真剣に把握しないはずがない。被告発人安倍は、その上で、意図的に虚偽答弁を重ねて追及から逃げ切ろうとしてきたのであり、極めて悪質である。

  確実に言えることは、2019(令和1)年分の収支報告書を作成提出した時期は、2020(令和2)年5月、つまり上記の国会での厳しい追及の後だったということである。新たに2019(令和1)年分の収支報告書を作成するにあたり、被告発人安倍は、収支の不記載が犯罪となることを明確に認識しており、2019(平成31)年4月の前夜祭での参加者から徴収した会費額やホテルの請求額を確認することは容易にできたにもかかわらず、あえて収支を記載しなかったのであって、このことは、被告発人安倍に明確な犯罪の「故意」があったことに他ならない。

  そこには、「国会であれだけ嘘を言い切った以上、今さら真実の収支を記載することなどできるわけがない」、「首相である自分が捜査を受けたり立件されることなどあり得ないだろう」といった傲慢さが伺え、悪質極まりない。

  少なくとも2020(令和2)年5月27日に提出した後援会及び晋和会の2019(令和1)年分の収支報告書不記載は、被告発人安倍に故意があったことは明白である。

 

5 告発事実第3(会計責任者の選任監督につき相当の注意を怠った)

  この罪は、第一次告発の対象とはしなかったものであるが、政治資金規正法第25条2項は、政治団体の会計責任者が収支報告書に収支を記載しなかった(同条1項)場合、「政治団体の代表者が当該政治団体の会計責任者の選任及び監督について相当の注意を怠ったときは、50万円以下の罰金に処する」と定めている。

  被告発人安倍は、晋和会の代表者である。

  万一、被告発人安倍に晋和会の収支報告書の不記載につき故意が認められなかった場合でも、政治資金団体である晋和会の会計責任者である被告発人西山の「選任及び監督について相当の注意を怠った」と言えるであろう。

  晋和会の事務所は衆議院第1議員会館の被告発人安倍の事務所1212号室にあり、報道によれば、ホテル側は上記事務所に集金に行き、その部屋にある金庫から被告発人西山が補填分を現金で出金し、ホテル側に手渡して領収証を受領したということである。被告発人安倍の本拠地である議員事務所に常駐する秘書が、政治資金を後援会の宴会の補填費用として出金し、通常であれば口座に記録を残すところを、あえて現金払いにして隠蔽工作を行っていたのである。百歩譲って、安倍が収支報告書不記載について「知らなかった」としても、このようなことをする人物を会計担当者として選任し、なおかつ監督を怠ったことにつき、被告発人安倍は責任を免れることはできない。

  ちなみに被告発人西山は、2020(令和2)年2月4日、首相官邸付近の路上で、くわえ煙草で放尿し、麹町警察署に連行され始末書処分を受けている。

 

6 告発事実第4(重大な過失による不記載)

  この罪も、第一次告発の対象とはしなかったが、政治資金規正法第27条2項は、「重大な過失により、…第25条1項(収支報告書不記載)の罪を犯した者も、これを処罰するものとする。」と定めている。

  被告発人安倍は、後援会についても晋和会についても、収支報告書不記載については共同正犯が成立するものであるが、万一、被告発人安倍に故意が認められないとしても、過失犯についても共同正犯は成立し、重大な過失とは、結果の予見が極めて容易な場合や、著しい注意義務違反のため結果を予見回避しなかった場合をいうところ、上述の経緯に照らし、被告発人安倍には故意と同視できるほどの重大な過失があったというべきである。

 

Ⅱ 公職選挙法違反(寄附)について

告発事実第5は、後援会が、2018(平成30)年4月および2019(平成31)年4月(寄附の罪の公訴時効は3年である)開催した前夜祭において、参加者1人5000円の会費分を上回る酒食を後援会員らに提供した行為について、違法な寄附行為に該当するとして処罰を求めるものである。

捜査により明らかになった補填額が、参加者らに対する寄附行為に該当することは明白である。

しかし、第一次告発で詳細に指摘したとおり、ホテルニューオータニ東京やANAインターコンチネンタルホテルにおけるパーティ費用が最低でも1人あたり1万1000円であることは、上記両ホテルの支配人や広報担当者の証言、国会議員らの調査、報道機関各社の取材などによって裏付けられている。証拠として提出した同じホテルでの同規模のパーティの見積書では、1人あたりの単価は1万5000円以上である。

今回、報道によれば、後援会が5年間で補填した額は900万円以上と言われており、前記の告発事実第1~4に関しては、各年の会費収入、補填額、費用総額につき、朝日新聞で報道されている数字を使った。しかし、これは明らかになっている最低限の金額である。例えば、2019(平成31)年4月12日の前夜祭では、費用総額634万円を参加人数768人(会費÷5000円)で割ると、1人あたりの単価は8255円となり、ホテル側が最低の数字としている1人1万1000円とは3000円近い開きがある。

上記の差額について、後援会がさらに補填したのか、あるいはホテル側が後援会側との何らかの交渉によって値引きをしたのかは定かではないが、第一次告発状に記載したとおり、仮にホテル側の値引きによるものであるとしても、これは後援会による参加者への寄附に該当するというべきである。上記未解明の差額は過去の2回分だけでも200万円以上に上るのであり、軽視できるものではない。こうした問題についても、さらに捜査し、解明を進めるべきである。

後援会による寄附の禁止は、公職の候補者等による寄附の脱法行為を取り締まる趣旨であり、金額の多寡を問わず「金や物で票を買う」ことに繋がる行為を処罰するものであるから、厳正な捜査が必要である。

 

最  後  に

 

 被告発人安倍は、7年8か月にわたって内閣総理大臣の地位に就き、森友学園問題、加計学園問題、そして公的行事である「桜を見る会」に自分の後援会員約800名を山口県から招待し続けてきたことに典型的に見られるとおり、政治権力を私物化してきた。

「桜を見る会」及びその「前夜祭」については、法律家から刑事告発がなされるや、検察庁法の解釈を違法に変更して官邸の守護神と言われた黒川弘務東京高検検事長の定年を延長し、検察庁法改正案まで提出して同人を検事総長に長く就けることにより自らの刑事処罰を免れようと画策した。しかし、その意図を鋭く見抜いた多数の市民の怒りと抗議により、検察庁法改正案は廃案になり、黒川氏も辞任した。

 市民は、検察当局に対し、たとえ被疑者が政治権力者であろうとも、遠慮や忖度をすることなく、公正な捜査により事案の真相を解明し、適正に訴追権限を行使することを、心から期待している。1000人近い法律家(その中には元最高裁判事や多くの著明な学者も含まれている)が第一次告発を行ったのも、法律家として市民の切なる願いを受け止めてのことである。市民は、本件捜査の進捗を固唾を飲んで見守っている。

 検察庁が、このような市民の期待と信頼に応え、このたびの告発(第二次告発)を真摯に受け止め、徹底した捜査と正式裁判請求をすることを求める。

 

 また、第一次告発がなければ、東京地検特捜部の捜査は開始されることもなかったであろう。検察庁は、そのことを認め、第一次告発を受理したことを正式に認めるとともに、第二次告発についても、直ちに受理していただきたい。

以上