Sunday, December 27, 2020

ヘイト・スピーチ研究文献(160)川崎ヘイト葉書事件

瀧大知「『ふれあい館』への虐殺宣言と法務大臣による非難メッセージまでの経緯」『コリアNGOセンターNews Letter』53号(2020年)

川崎市桜本にある「ふれあい館」に、在日韓国朝鮮人の抹殺を唱える年賀状が届いた(神奈川新聞2020年1月4日)。同月27日にはふれあい館に対する爆破予告ハガキが届いた。2月にはくぁさきくの小中学校に爆破予告の脅迫文が置かれた。3月6日にはふれあい館のごみ集積場に模造刀や木刀が立てかけられていた。これらの相互関係が明確になっているわけではないが、被害者側に深刻な危機感を抱かせたことは言うまでもない。6月2日、爆破予告をした元市職員の男性が逮捕された。

著者の瀧大知は外国人人権法連絡会事務局次長として、本件に取り組んできた立場から、経緯を報告している。同連絡会は1月20日、2月9日に声明を発し、オンライン署名を開始。2月6日には署名・賛同団体リストを法務省人権擁護局に提出した。3月11日追加提出。

ようやく3月24日、森雅子法務大臣が法務委員会でヘイト・クライムを非難する発言をした。内容は不十分ながら、これまで「個別案件へのコメントは差し控える」と無責任を決め込んできた法務省の姿勢転換と言えなくもない。瀧は「小さいながらも重要な出来事であった」という。被害者を始め、ヘイトに反対し外国人の人権を擁護する多くの人々が声をあげた成果である。

瀧は、避難や犯人逮捕だけで自体が解決したとは言えないとし、ヘイト・スピーチを許容してきた日本社会の在り方そのものを問う必要を指摘する。2019年12月12日の川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例が制定されたが、瀧は「差別の循環」から抜け出るため、川崎モデルを全国に広め、国レベルで人種差別禁止法を制定する課題を指摘する。

*なお、12月3日、横浜地裁川崎支部は、川崎市の多文化交流施設「川崎市ふれあい館」に在日コリアン殺害や施設爆破を予告したり、学校などに9通の脅迫状を送ったとして、威力業務妨害罪に問われた川崎市の元職員の男性被告人に懲役1年(求刑懲役2年)の実刑判決を言い渡した。