Monday, January 20, 2025

ヘイト・クライム禁止法(221)フランス

フランスが人種差別撤廃委員会CERD108会期に提出した報告書(CERD/C/FRA /22-23. 15 August 2019

前回報告書は『原論』三七四頁。

前々回報告書は『序説』六〇五頁。

フランスのヘイト・スピーチについて詳しくは、光信一宏の研究(『愛媛法学会誌』等)参照。

一八八一年七月二九日の印刷自由法の諸規定が、人々の集団の優越性を主張するイデオロギー、人々の集団を貶め、侮辱し、差別を煽動する公然たる表現は犯罪とされている。差別、憎悪、暴力の煽動。人道に対する罪の否定。戦争犯罪と人道に対する罪の美化。民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であること、又は構成員でないことに基づく公然たる中傷、及び侮辱。

二〇一五年二月一五日、国家人権諮問委員会の意見は、一八八一年法の大半が刑法に導入されていると確認した。

二〇一七年一月二七日の平等市民権法は、人種主義を、すべての刑事施設収容刑賦課犯罪についての刑罰加重事由とした。人種、民族集団、国民、宗教に基づいて被害者に行われた行為は、刑罰加重事由となる。刑法第一三二―七六条が「人種」ではなく「推定された人種」としているのは、人種が存在するという思考を回避するためである。

(*註:かつて「人種」が存在するとされたが、今日、「人種」なるものは存在しないと考えられている。このため、一部の国では「人種はないから、人種差別はない」という見解が登場している。フランス法は、人種差別を禁止しているが、「人種が存在する」という思想を後押ししているわけではない。人種を口実に差別する場合があるからである。)

平等市民権法は差別との闘いのために、人種主義挑発、侮辱、中傷を処罰する規定を有する。人道に対する罪の美化や否定の犯罪の射程を拡張した。人種主義や人道に対する罪と闘う非営利団体の役割を強化した。

一八八一年七月二九日の印刷自由法の犯罪は、インターネット上の言説にも適用される。

二〇〇四年六月二一日のデジタル・エコノミーにおける信任法は、インターネット等のプロバイダーの責任を定める。子どもポルノ、戦争犯罪と人道に対する罪の美化、人種憎悪の煽動など、違法なコンテンツの流布との闘いという義務がある。違法な書き込みがあるとの通知を受けた場合、迅速に管轄当局に通報しなければならない。この義務に違反すると、一年以下の刑事施設収容又は七万五〇〇〇ユーロの罰金である。

裁判所はウェブホストやプロバイダーに違法な書き込みへのアクセスの提供を禁止することができる。

二〇〇三年以来、司法省は、人種主義や人種主義ヘイト・スピーチと闘うための回覧や通知を二〇回ほど発してきた。司法省に報告すること、実行犯特定のために必要な措置を取ること、実行犯の刑事手続きに責任を持つこと、被害者に被害者支援団体情報を提供すること、文化宗教コミュニティ間の討論を行うこと。

パートナーシップ政策の発展は、人種主義事件の報告や裁判所による審理を担保する。差別についての司法的関心は検察や反差別局による。司法機関、人権擁護局、反差別団体、被害者支援団体と定期的協議が行われている。

二〇一七年の平等市民権法は、差別事件について刑事施設収容の代替として、市民権コースを導入した。

二〇一六年、検察官は七六六四件の人種主義事件を処理した。三四三三件(四五%)は誹謗中傷、二六九三件(三五%)は暴力・脅迫、二七五件(四%)は財産損壊である。

・メディア及び選挙で選ばれた公務員のヘイト・スピーチと闘う

二〇一五年以来、レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関が、一四〇件以上の報告を受けている。大半がインターネット上のヘイト・スピーチである。その結果、私人やブログの著者が、人種憎悪の煽動や人道に対する罪の美化・正当化の罪で、刑事施設収容や罰金を言い渡された。レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関は、公的言説における不適切な発言を取り扱っている。二〇一五年五月に、パリのパンテオンにおけるジャン・ザイ埋葬に関する国会議員発言、二〇一六年六月のロワール市長によるラマダンを行う人々に関する発言などがある。

・法執行官の研修

司法官になる者に毎年、法的サービス研修学校で差別と闘う研修を実施している。特に人種主義、反ユダヤ主義、人種差別を取り上げる。裁判官、裁判所職員、弁護士等への数日間の研修を用意している。二〇一六~一七年、四〇人の裁判官にヘイト・スピーチ研修を行った。国家警察研修所は司法省と協力して、差別・人種主義・反ユダヤ主義・排外主義と闘う実践ガイドを改定した。

・インターネット上の人種主義言説

インターネット上のサイバー犯罪と闘うため、PHAROSというプラットフォームを設置し、分析、監視、報告をシステマティックに行っている。二〇一六年、一七、三八四件の事案がPHAROSを通じて報告され、一一、九八二件が人種又は宗教憎悪の煽動であった。PHAROSは、インターネット企業に八三四件のブロック要請、一、九四九件の閲覧制限、三、一九九件の削除要請を送った。二〇一六年三月、国家サイバー犯罪予防局はブリュッセルの欧州委員会の会合に参加し、オンライン・ヘイト・スピーチの報告制度を強化している。二〇一六年一一月、レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関主催の差別防止会議で、六〇以上の団体にPHAROSについて周知した。二〇一七年一二月と二〇一八年二月、レイシズム・反ユダヤ主義と闘う省庁間機関はインターネット・プロバイダー各社とともに、ヘイト・スピーチの報告、及びインターネット・ヘイトに対する対抗言説の促進のために協議した。

内務省は二〇一六年三月、申立て報告のためのオンラインシステムを用意した。犯罪の要素に該当する事実があれば、どこからでもオンライン報告ができる。差別、差別煽動、中傷、侮辱であって人種的性質を有する場合をカバーする。

ヘイト・スピーチ予防教育

二〇一六年三月、「連帯してヘイトに反対」というキャンペーンを始め、公衆に偏見を防止するための啓蒙を行っている。三月二一日から二八日、人種主義と反ユダヤ主義に反対する教育特別週間を設定した。TV放送を利用し、人種主義と闘うための情報をインターネットにアップしている。もう一つ、「人種主義に反対するスタンディング」というキャンペーンを始め、PHAROSSOSレイシズム、人権同盟等と協力している。

人種差別撤廃委員会がフランスに出した勧告(CERD/C/FRA/CO/22-23. 14December 2022

人種差別の構造的制度的原因に優先的に対処すること。二〇二三~二六年に人種主義・反ユダヤ主義と闘う新しい国家計画を策定し、国家及び地方レベルで履行するための人的、財政的資源を投入すること。ロマ、トラベラー、アフリカ人、アフリカ出身者、アラブ出身者などの住民の完全な参加を確保すること。

人種主義ヘイトスピーチとの実効的な闘いを倍加し、公共空間、特にメディアやインターネット上の人種主義と人種に基づくヘイトを予防し、処罰すること。すべての人種主義ヘイト・スピーチを捜査、訴追、処罰し、被害者に実効的な賠償を提供すること。法執行官に研修を提供し、啓蒙活動をすること。インターネット上の人種主義ヘイト・スピーチの拡散を監視すること。

Saturday, January 18, 2025

「<共同声明>杉田水脈氏は衆議院議員にふさわしくありません」の閲覧制限(Change.org)についての声明

 「<共同声明>杉田水脈氏は衆議院議員にふさわしくありません」の閲覧制限(Change.org)についての声明

 

20251月18日

「<共同声明>杉田水脈氏は衆議院議員にふさわしくありません」呼びかけ人

 

1 はじめに

 

 私たちは2024107日にオンライン署名「<共同声明>杉田水脈氏は衆議院議員にふさわしくありません」(以下「共同声明」)を立ち上げました。その際、Change.orgのオンライン署名を利用しました。

 ところが、1010日夕刻、この署名はChange.orgによって閲覧制限の対象となり、アクセスできなくなりました。

 私たちからの問い合わせに対して、115日、Change.orgから回答がありました。

 私たちのオンライン署名・共同声明は、1010日夜に目的を達成したため、アクセス制限の影響は大きくはありませんでした。

 しかし、同様の事態が今後も生じる懸念がありますので、私たちの見解をChange.orgにお知らせするとともに、公開することにしました。

 一番のポイントは、私たちのオンライン署名は、「選挙運動」でも「落選運動」でもないことです。以下でご説明します。

 

2 Change.orgからの回答

 

 Change.orgからの115日の回答は次の通りです。

 

こんにちは

日頃より、Change.orgのオンライン署名を積極的にご活用くださり、誠にありがとうございます。

皆様が立ち上げられた署名 [https://www.change.org/p/490237922] について、社内で検討した結果についてお知らせいたします。

先日実施された衆議院議員選挙の期間中、日本の法律を遵守するため、皆様の署名を含む一部のコンテンツが一時的に制限されていました。

衆議院議員選挙が終了しましたので、弊社プラットフォームで皆様の署名を再び公開する手続きを進めさせていただきます。

皆様の署名活動が多くの方々に届くことの重要性は私たちも理解しておりますが、弊社では各国の法令を遵守するよう努めております。その旨何卒ご理解いただけますと幸いです。

ご不明な点がございましたら、ご連絡ください。

今後とも、Change.orgをよろしくお願いいたします.

 

 以上がChange.orgからの回答です。

 

3 事実経過

 

104日、ダーバン+20:反レイシズムはあたりまえキャンペーンというグループの実行委員の会議参加メンバーの話し合いで、自由民主党に杉田水脈氏を公認しないように申し入れる署名運動・共同声明を始めました。

というのも、自由民主党山口県連から杉田水脈氏を比例中国ブロック候補とする公認申請が出されたことが報道されました。

民族や性的指向などの属性を標的として差別発言と名誉毀損を繰り返してきた、レイシズムの塊のような政治家が何一つ反省することなく、選挙に出馬することを放置しておいてよいのかと考え、共同声明の取組みを始めたのです。

 

105日、共同声明文案を起草し、67日に呼びかけ人を募りました。

 

107日夜、オンライン署名(Change.org)を呼びかけました。

 

1010日までに1万筆を超える賛同を頂きました。

 

1010日午前に自由民主党本部にEメールで共同声明の申し入れをしました。

 

1010日午後に参議院議員会館会議室で共同声明をアピールする集会を開催しました。

 

1010日夕刻、共同声明が報道されました(例えば、「共同通信ウェブサイト」1010日付<「杉田水脈氏に議員の資格なし」 研究者ら、公認しないよう声明>)

 

1010日夕刻、Change.orgのサイトで、共同声明は「一時停止」の扱いとなりました。Change.orgのサイトには下記の説明が表示されました。

「このオンライン署名は審査中です。このオンライン署名はサイト上での公開が停止されています。ポリシーチームによるコミュニティガイドラインへの違反の有無が審査されています。その結果に基づきページ公開の再開または停止継続が決定されます。今しばらくお待ちください。」

 

1010日夜、自由民主党は杉田水脈氏を公認候補としないことが報道されました。

 

1015日、衆議院議員選挙が公示されました。

 

1027日、衆議院議員選挙の投開票が実施されました。

 

4 要請行動と選挙運動の相違

 

 Change.org115日付回答は「先日実施された衆議院議員選挙の期間中、日本の法律を遵守するため、皆様の署名を含む一部のコンテンツが一時的に制限されていました。」「弊社では各国の法令を遵守するよう努めております。その旨何卒ご理解いただけますと幸いです。」としています。回答は「日本の法律」とするのみで、どの法律のどの条文に違反するのかを明示していません。

 

 私たちの共同声明は、日本の法律を遵守しており、いかなる法令にも違反しません。日本の法律を遵守するため、私たちの共同声明が一時的に制限される理由はありません。

 

 衆議院議員選挙の期間中に関連する法律は公職選挙法です。衆議院議員選挙に関わる選挙運動及び落選運動は、公職選挙法に従って行われる必要があります。

 

 公職選挙法第129条は「選挙運動の期間」として「公職の候補者の届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まででなければ、することができない」と定めます。公職選挙法第130条以下は選挙事務所、地位利用による選挙運動の禁止、戸別訪問の禁止、署名運動の禁止等を定めます。

 

公職選挙法第138条の2は「署名運動の禁止」として「何人も、選挙に関し、投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人に対し署名運動をすることができない。」と定めます。

 

以上に照らすと、第1に、共同声明は、「選挙運動」に該当しません。選挙運動の期間は「公職の候補者の届出のあつた日から当該選挙の期日の前日まで」と明示されています。今回の衆議院議員選挙の公示日は1015日でした。

 

2に、共同声明は、「選挙運動」やその「署名運動」に該当しません。共同声明の主眼は、「自由民主党に杉田水脈氏を公認候補としないよう要請」することです。「投票を得若しくは得しめ又は得しめない目的をもつて選挙人に対し署名運動」ではありません。

 

3に、共同声明は、いわゆる「落選運動」としての「署名運動」にも該当しません。落選運動は、「投票を得しめない目的をもつて選挙人に対し署名運動」を意味します。共同声明は「自由民主党に杉田水脈氏を公認候補としないよう要請」するものです。

 

4に、共同声明には、「上記のような杉田水脈氏のこれまでの言動をしっかりと認識して、投票行動の判断をするよう有権者の皆さんに提言します。」という一文があります。これは選挙人に投票行動の判断を主体的に行うよう呼びかけるものであって、「投票を得しめない目的をもつて選挙人に対し署名運動」に該当しません。

 

なお、公職選挙法第138条の2が禁止しているのは「署名運動」であって、落選運動そのものは禁止されていません。仮に選挙運動の期間中であっても、落選運動は法律に違反することなく取り組むことができます。

 

5 おわりに

 

 以上のことから、私たちの共同声明は法律に違反するものではありません。選挙期間以前にオンラインでの呼びかけ・署名運動を行うことは表現の自由として憲法第21条の保障を受けます。

 

 それゆえ、特定の人物を政党の公認候補とするよう要請することや、公認候補としないよう要請することを目的としたオンライン署名運動は自由にできることです。

 

 今後、同様の署名運動、共同声明を準備・実施する際に参考にしていただけたらと考えます。

以上

Monday, January 13, 2025

ヘイト・スピーチ研究文献(227)

藤井正希「批判的人種理論の積極的活用――日本法への適用可能性について」『現代思想』五二巻一四号(二〇二四年)

  「<人種>を考える」特集号に20人ほどの論客が登場し、人種概念がいかにして歴史的社会的に構築され、それぞれの国や地域でどのように機能してきたかが分析されている。『現代思想』らしい力のこもった特集だ。

  その中で、一つだけ性格の異なる論文が藤井論文だ。人種概念の批判的分析ではなく、アメリカにおける批判的人種理論を日本法にいかにして活用できるかを論じている。

  藤井はすでに次の2論文を書いている。

「ヘイトスピーチの憲法的研究――ヘイトスピーチの規制可能性について」『群馬大学社会情報学部研究論集』二三号(二〇一六年)

「批判的人種理論の有効性――ヘイトスピーチ規制を実現するために」『群馬大学社会情報学部研究論集』二七巻(二〇二〇年)

  ヘイト・スピーチの刑事規制は国際常識である。ところが、日本憲法学では圧倒的多数説がヘイト・スピーチの刑事規制を否定し、ヘイト・スピーチは表現の自由とされてきた。差別擁護が日本憲法学の基本特徴であった。最近ようやく状況が変わり、刑事規制は可能であるという論文も登場しているが、まだ少数説である。藤井は早くからヘイト・スピーチ規制を唱えてきた異色の憲法学者である。

  上記の藤井論文について、前田朗『ヘイト・スピーチ法研究原論』二五二~二五四頁、同『ヘイト・スピーチ法研究要綱』八三~八四頁でコメントした。

  藤井は群馬の森朝鮮人追悼碑撤去事件裁判に関与し、裁判所に意見書を提出した。

著書『検証・群馬の森朝鮮人追悼碑裁判』(雄山閣、二〇二三年)

1 はじめに――本稿の目的

2 批判的人種理論とは

3 批判的人種理論の内容

4 人種的忘却性または透明性

5 日本法への適用

6 おわりに――今後への課題

  藤井は、トランプ前政権の時期に、批判的人種理論に対する反動が強まったことを確認した上で、日本におけるヘイト現象には類似性があるとして、「ヘイトスピーチに対してどう向き合うかは、民主主義社会に不可欠な表現の自由と直接に関連する問題だけに、日本社会の成熟度が試されており、今こそ、様々な観点からの幅広い議論が求められている」とする。批判的人種理論を応用して日本におけるヘイト・スピーチ規制の理論的根拠や方法論を提示することを課題とする。

  そこで藤井は批判的人種理論の基本的内容を詳しく紹介する。批判的人種理論とは、人種と法と権力のあいだの関係を改変することを目的とした根本的な法学運動であり、法を用いて人種的平等を達成しようとする。それゆえ、人種差別は個人の逸脱行動ではなく、社会の規範的秩序であり、法律や制度に組み込まれていると見る。

  藤井は、アメリカにおける批判的人種理論の位置や性格と、日本における歴史認識問題の布置に類似性を見る。

藤井はヘイト・スピーチ、ヘイト・デモを取り上げ、広い意味での「人種による差別」であるという。同時に藤井は「それは日本の朝鮮に対する植民地支配という歴史的背景を持つものであり、それゆえ、かつての支配者から被支配者に対する優越感に深く根差している」と見る。国籍問題、選挙権、公務就任問題、生活保護・社会保障の差別、かつての外国人登録法による差別、同化の強制にも言及する。

  「このような日本の法制度や社会制度の中に構造化された在日韓国朝鮮人差別は、あまりに自然で強固なものなので、在日韓国朝鮮人は逆らい難く感じてしまう。よって、結局、在日韓国朝鮮人は日本人の人種的特権を受け入れさせられ、差別を黙認してきたのである。これに対して、マジョリティである日本人は、自己の人種にもとづく社会的特権をまったく意識していない。多くの日本人は、日常生活において在日韓国朝鮮人の存在を意識することはなく、自分たちの地位を在日韓国朝鮮人との関わりのなかで考えることはない。その結果、日本人は、自分たちの生活が人種というものの影響を受けているという事実に気づかない。具体的には、日本人であるがゆえに社会から与えられている様ざまな利益に気づかないのである。」(八六頁)

 「とするならば、批判的人種理論を日本における在日韓国朝鮮人に対するヘイトスピーチ規制に活用することは十分に可能であろう。すなわち、在日韓国朝鮮人は日本人に同化するのではなく、朝鮮独自の文化を守り、発展させるべきであり、在日韓国朝鮮人と日本人がそれぞれの民族性や文化特性を保持しつつ、共存していくべきなのである。また、より多くの在日韓国朝鮮人が法学者や法律家となって、現在の日本人が主体となっている法制度、法学教育、法曹界をマイノリティたる在日韓国朝鮮人の立場から変革していくべきである。」(八六頁)

最後に藤井は次のように結論付ける。

「筆者は、つぎの三点を根拠にして、ヘイトスピーチには早急により強力な法的規制をおこなうべきであると考える。すなわち、①通常の判断能力を有する一般人が実際に日本で行われている極端なヘイトスピーチを見れば、人間の存在自体を全否定する言動に対して、不快感や嫌悪感にとどまらず、衝撃や恐怖を感じざるをえないと考えるからである。とても反論をしようなどと考えることはできず、沈黙するしかないのが通例である。自分は決して見たくない、それゆえ止めてほしい、止めさせたいという素朴な感情を持たざるをえない。それを法に期待することは、決して不当なことではないと信ずる。また、②ヘイトスピーチ規制はもはやグローバル・スタンダードで国際常識であるからである。死刑廃止が世界の潮流であるにもかかわらずそれに背を向けているのと同様に、ヘイトスピーチ規制が世界の潮流であるにもかかわらずそれに背を向けているのが現在の日本なのである。日本は、経済的には先進国だが、人権的には未だ発展途上国と言われてもやむをえない。さらに、③凄惨なジェノサイドや著しい人権侵害は、ヘイトスピーチや民族排外意識から発生することが多いからである。ナチスのホロコーストも、ユダヤ人を排斥する些細なヘイトスピーチから始まり、人びとの意識に浸透する中で、ファシズムが完成し、ジェノサイドという悲惨な結果につながっていった。日本においても、同様のことが起こらないとは限らない。その芽を早期に摘むためにも、ヘイトスピーチの蔓延を放置しないことが大切なのである。」(八六~八七頁)

  なお、藤井は、憲法学においては「現在においても規制消極説がいまだ根強い」とし、最近になって規制積極説が登場しているとして、桧垣伸次と奈須祐治の二人を上げる。

  藤井説の特徴は、第1に、ヘイト・スピーチを差別問題として位置づけていることである。憲法学の多数説は、これを認めない。多数説は「ヘイト・スピーチは表現の自由の問題であり、刑事規制は憲法第二一条に反する」と決めつけて、譲らない。最新の憲法教科書もすべてヘイト・スピーチを表現の自由問題とする。差別問題(憲法第一四条)には言及しない。この一五年間、「ヘイト・スピーチは差別であり、憲法第一四条に反するから、合理的規制が求められる」という少数説が登場しているが、多数説はこの論点に言及しない。あくまでも表現の自由問題であるとする。

 換言すると、規制消極説は「マジョリティの表現の自由を守るべきであり、マイノリティに対する差別問題を取り上げる必要はない」と判断していることになる。

 藤井は、まず差別問題であり、同時に表現の自由問題であることも踏まえて、憲法論を展開するべきだと唱えている。

 第2の特徴は、ヘイト・スピーチの現状・実態を踏まえて、被害論、保護法益論に接近している。被害論や保護法益論を詳細に展開しているわけではないが、議論の土俵は明快である。

 第3の特徴として、藤井は、ヘイト・スピーチに対する反論が非常に困難であり、被害者は沈黙するしかないと見る。憲法学多数説は、「反論すればよい」「対抗言論だ」と唱える。しかし、被差別の現場では、ヘイト・スピーチに対する反論は無意味であり、被害が悪化しかねないことは常識である。ヘイト・スピーチは、相手を対等の損z内富雄馬頭、侮辱し、排除し、存在を否定する。対話の可能性がない。藤井はこのことを認識している。

4に、ヘイト・スピーチ規制は国際常識であるとしている。国際自由権規約や人種差別撤廃条約を始め、国際人権法やEU法では規制が当然のこととされているからだ。

 第5の特徴は、ヘイト・スピーチとジェノサイド等との連関を正面から見据えている。

 第6に、もっとも重要な特徴は、藤井が「ヘイトスピーチには早急により強力な法的規制をおこなうべきであると考える」としていることである。

ヘイト・スピーチ規制積極説であっても、多くは「法的規制が可能な場合がある」とか、「特に重大な事案について、極めて限定的に規制を認めることができるのではないか」といった表現をするのが通例である。

 「早急により強力な法的規制をおこなうべきである」と主張したのは、一部の弁護士や刑事法学者にとどまる。憲法学者で「規制をおこなうべきである」とするのは藤井だけではないだろうか。

藤井が、批判的人種理論を活用して、日本国憲法のもとで、ヘイト・スピーチ規制の理論的根拠をさらに発展させることを期待したい。

Sunday, January 12, 2025

共同テーブル第14回シンポ   税金で育つ『死の商人』 武器で平和は創れない

共同テーブル第14回シンポ

「新しい戦前にさせない」連続シンポジウム

税金で育つ『死の商人』

武器で平和は創れない

日本製武器はウクライナやガザにも!

 

日本の武器生産や武器輸出が急速に進んでいることは、国会でほとんど議論にならずあまり知られていません。一昨年6月に制定された「防衛生産基盤強化法」は、税金を「死の商人」に投入して武器生産に本腰を入れていくものです。間違いなく武器輸出も増えていくことでしよう。日本製のミサイルは生産が追い付かない米国に輸出され、玉突きでウクライナ戦争にも使われます。こうした事態の行き着く先は9条改憲です。

 私たちは「武器で平和は創れない!武器は戦争を呼び込む」という現実を明らかにし、声をあげたいと思います。

 多くの皆様の御出席を、お待ちしております。

 

2月21日(金)午後6時15分~9時 

文京区民センター3A会議室

東京メトロ丸の内線・後楽園駅4b出口 5分、都営・三田線・春日駅A2出口1分会場

 

主催者挨拶:佐高信

講演:

纐纈厚(明治大学国際武器移転史研究所客員研究員)

望月衣塑子(東京新聞記者)

小野塚知二(東京大学名誉教授)

 

*資料代:1000

*多くの参加者が見込まれます。定員(300名)になり次第、申し込みを締め切りますので、大変恐縮ですが、至急、下記のメールアドレスまで、出席申込(氏名・電話番号記入)をお願いいたします。

E-mail e43k12y@yahoo.co.jp

 

共同テーブル連絡先:

藤田高景 090-8808-5000/石河康国 090-6044-5729

共同テーブル発起人

浅井基文(元広島平和研究所所長・政治学者) 安積遊歩(ピアカウンセラー) 雨宮処凛(作家・活動家) 植野妙実子(中央大学教授・憲法学) 上原公子(元国立市長) 大口昭彦(弁護士・救援連絡センター運営委員) 海渡雄一(弁護士) 鎌倉孝夫(埼玉大学名誉教授) 鎌田慧(ルポライター) 金城実(彫刻家) 纐纈厚(山口大名誉教授・歴史学者) 古今亭菊千代(落語家) 佐高信(評論家) 清水雅彦(日体大教授・憲法学) 白石孝(NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長) 杉浦ひとみ(弁護士) 竹信三恵子(和光大名誉教授・ジャーナリスト) 田中優子(前法政大学総長)鳥井一平(全統一労働組合・中小労組政策ネットワーク) 古田兼裕(弁護士) 前田朗(朝鮮大学校講師) 宮子あずさ(随筆家) 室井佑月(小説家・タレント) 山城博治(沖縄平和運動センター顧問)

Monday, December 30, 2024

ヘイト・クライム禁止法(220)ブラジル

ブラジルが人種差別撤廃委員会CERD108会期に提出した報告書(CERD/C/BRA /18-20. 15September 2020

一九八九年の法律七七一六号は、人種、皮膚の色調、民族、宗教、国籍に関連する差別と偏見に関する犯罪を定義し、一年以上五年以下の刑事施設拘禁を刑罰とする。

一九九七年の法律九四五九号は、法律七七一六号に加えて、人種主義思想の宣伝、煽動、拡散を犯罪化する。同法第二〇条一項は、ナチスを助長するためにシンボル、エンブレム、装飾、サインを製造、取引、配布、拡散、鉤十字を用いた宣伝は、二年以上五年以下の刑事施設収容並びに罰金で処罰される。ソーシャルメディアや出版によって、人種、皮膚の色調、民族、宗教又は国民的出身に関連して差別や偏見を行い、引き起こし、煽動した場合も同じ刑罰である。

同法第二〇条三項は、検察の要請に従って、警察捜査の前に、関連する証拠捜索・押収のため、ラジオ・テレビ、電子送信、出版の中止を決定することができる。

人種偏見と差別が、市民の人格にダメージを与える脅威、制限、原因となる行為に当たる場合、実行犯は民事訴訟によって被害者補償を命じられる。

一九九五年と二〇〇〇年の調査によると、人種差別被害者による警察への申告は一〇五〇件、六二%が捜査され、三七%が裁判になった。有罪は〇・四%にすぎなかった。二〇〇三年から二〇一一年の調査によると、サンパウロ高裁は八〇七件の人種差別事件を扱い。捜査が行われたのは一一九件(一四・七%)であった。最高裁が扱った事案は、人種的中傷が七三%、人種主義が一五%であった。裁判にかかった事案では、五三%が中傷、七%が人種主義であった。

ヘイト関連事件の裁判例としてエルワンガー事件が有名である。リオ・グランデ州のカンデラリア生まれのジークフリード・エルワンガー・カスタンは第二次大戦の歴史修正主義とホロコースト否定に関する著書を四冊出版した。ナチス思想と反ユダヤ主義の伝達の容疑で一九九〇年に起訴されたが、無罪となった。一九九八年、ふたたび起訴され、二度目の裁判で人種主義犯罪ゆえに二年の刑事施設収容を言い渡された。

エルワンガー事件は範例となった。しかし、本件はブラジルで一九八九年の法律七七一六号と一九九七年の法律九四五九号が適用された例外的事例であり、アフリカ系ブラジル人に対する事件が同じ取り扱いをされることがない。

二〇〇六年、NGO、連邦検察、警察、大統領府人権事務所のパートナーシップにより、サイバースペースの犯罪と人権侵害申告のオンライン・システムが始まった。人種主義、宗教的不寛容、排外主義、反ユダヤ主義のサイバー事案の監視と捜査が始まった。オンライン上でなされた犯罪の反人種主義的保護のためのホットラインである。

NGOオンライン・システムには世界各地から申立てがなされる。二〇〇六年から一七年、ポルトガル語が二五%、英語が一七%、ロシア語が二%であった。

二〇一六年まで、インターネット上の反人種主義規制法についてコンセンサスがなかった。二〇一二年の法改正及び二〇一六年の連邦法案が、法律七七一六号を修正して、サイバー人種主義の現状への対処を可能にした。表現の自由の無制限の保障を主張する見解もあるが、政府による人種主義の予防への重要な前進が図られた。

CERDがブラジルに出した勧告(CERD/C/BRA/CO/18-20. 19 December 2022

ヘイト・スピーチとヘイト・クライムが増加している。政府高官など公の当局によるヘイト・スピーチ事件が複数報告されている。条約第四条に従って人種主義ヘイト・スピーチを犯罪とする法規制があるか否かの情報が欠けている。オンライン・ヘイト・スピーチを規制する法に関する情報がない。訴追や判決の数が非常に少ない。条約第四条に定義されたヘイト・スピーチを法規制すること。サイバースペースにおいて犯罪が起きるのに確実に対処すること。政府高官など公の当局によるヘイト・スピーチを予防すること。オンラインも含むヘイト・スピーチの報告制度を用意すること。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの訴追と判決が非常に少ない原因に対処すること。差別被害者のための法律支援を強化し、警察、検察、裁判官にヘイト・スピーチとヘイト・クライムについて研修を行うこと。ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの申立て、訴追、判決の情報を収集し、次回報告すること。

人種プロファイリングの申立てについて迅速かつ公正な捜査を行い、責任を問い、被害者に補償すること。人種プロファイリングに関する法と政策を見直すこと。人種プロファイリング事件を監視する情報収集制度を設けること。

Friday, December 27, 2024

ヘイト・クライム禁止法(219)ボツワナ

ボツワナが人種差別撤廃委員会CERD108会期に提出した報告書(CERD/C/BWA /1722. 21July 2020

サイバー犯罪・コンピュータ関連犯罪法第二一条と第二二条は、コンピュータシステムを通じて人種主義的又は排外主義的データを生産、流布、いそうすること、及びコンピュータシステムを通じて送信された人種動機の中傷を犯罪とする。これらの犯罪には四万プラ以下の罰金及び/又は二年以下の刑事施設収容が課される。

刑法第九四条二項に「民族的出身及び世系」は含まれていないが、サイバー犯罪・コンピュータ関連犯罪法の「人種主義的又は排外主義的データ」の定義には「人種、皮膚の色、世系、国籍、民族的出身、種族又は宗教」が含まれている。

人種主義活動を犯罪とする法規定はない。これまで人種主義活動に財政支援した事案が発生したことはない。しかし、このための法改正が不可避であると認識している。反テロ法と財政インテリジェンス法は人種主義活動への財政支援に適用可能である。反テロ法第二条は、政治、イデオロギー、宗教的原因に言及している。

二〇一九年の財政インテリジェンス法第二五条は、政府がテロリスト集団とビジネス関係を取り結ぶことのないよう規制している。

人種動機を刑罰加重事由とする法規定はないが、裁判所は量刑に際して常に人種動機を刑罰加重事由として考慮する。

二〇〇六~一九年、人種差別関連の裁判事例はない。条約第四条が規定する行為について、警察、オンブズマンに申告された事件はなく、訴追や判決もない。観光産業において人種主義や人種差別の報告があるが、警察やオンブズマンに申告がなされていない。

人種差別被害者への補償について、実際の報告はないが、刑事訴訟法第三一六条一項は、裁判を通じての個人補償を定めている。

CERDがボツワナに出した勧告(CERD/C/BWA/CO/17-22 .14December 2022

ヘイト・スピーチ/クライムに関する法律を条約第四条に合致させること。刑法第九四条二項の人種差別の定義に「民族的出身及び世系」を組み入れて、こうした行為の配布を犯罪化すること。次回の報告書において、ヘイト・クライム/スピーチを禁止する法律の履行について詳細な情報を報告すること。

Friday, December 20, 2024

ヘイト・クライム禁止法(217)スロヴァキア

スロヴァキアが人種差別撤廃委員会CERD107会期に提出した報告書(CERD/C/SVK/1. 20 July 2020

前回報告書について、『要綱』四二二頁。

前々回報告書について、『序説』五九七頁。

二〇一七年施行の刑法第四二一条は、基本権と自由を抑圧する目的の運動を支持・助長する犯罪を定め、そうした運動や団体の設立は犯罪化された。刑法第四二二条は、基本権と自由を抑圧する目的の運動に共感を表明することを犯罪とする。刑法第四二三条は、国民、人種、信仰を誹謗中傷すること、刑法第四二四条は、国民、人種、民族憎悪の煽動を犯罪とする。

人種差別を助長・支持する団体を特定する任務は、過激主義・テロ犯罪対策の一環である。近年、人種差別や不寛容の事案が路上から言説空間に移行しつつある。多くの場合、インターネット上のソーシャル・ネットワークを通じて行われる。

刑法第一四〇条(e)は、ヘイト・クライム実行の動機について、人種、国民、国籍、民族集団、出身、皮膚の色、ジェンダー、性的指向、政治的信念又は宗教を例示する。

人種動機による犯罪は刑法第四二一条以下に規定がある。第四二一条は基本的人権と自由を抑圧する目的の運動の設立、支援、助長を犯罪とする。第四二二条は基本的人権と自由を抑圧する目的の運動に共感を表明すること、第四二三条は国民、人種、信仰の侮辱、第四二四条は国民、人種、民族憎悪の煽動、第四二四条a項は人の集団に対するアパルトヘイトと差別を定める。これらの犯罪は二〇一七年一月以後、過激主義との闘いの強化に伴って、特別検事局と特別刑事裁判所の管轄となった。

刑法第一四〇条e項は、人の集団又は個人に対するヘイト・クライム実行の動機について、人種、国民、国籍、民族集団、出身、皮膚の色、ジェンダー、性的指向、政治的信念又は宗教を掲げる。

インターネットやソーシャルネットワークの上の情報や言説の調査、監視、分析は検事局のみならず、一定の場合には安全保障部隊や外国から得られた情報分析にも及ぶ。

『人種主義・排外主義・反ユダヤ主義・不寛容予防撤廃行動計画二〇一六~一八年』の評価のさなかである。

二〇一七年一月、司法省はヘイト・クライム訴追の包括的法改正に取り組んでいる。

刑法第四二四条は国民、人種、民族憎悪の煽動を、人種、国民、国籍、民族集団、出身、皮膚の色、性的指向、宗教の構成員の個人又は集団に対する暴力と憎悪の公然たる煽動とする。公然たる煽動にはメディアやインターネット上のソーシャル・ネットワークを通じての憎悪の煽動が含まれる。

二〇一九年九月三日、われらスロヴァキア人民党の元議員ミラン・マズレクは、ラジオの生放送でロマの人々に対する侮辱発言をしたため、最高裁で有罪を言い渡された。マズレクは刑法第四二三条の国民、人種、信仰の侮辱犯罪で起訴された。一審裁判所は一万ユーロの罰金を言い渡し、最高裁はこれを支持した。当時の憲法に従って、マズレクの国会議員の職務は停止された。本件はメディアが大きく取り上げ、ロマに対するヘイト・クライムや誤情報に対するキャンペーンが行われた。

 二〇一八年五月、フィリピン人ヘンリー・アコーダがスロヴァキア市民のユライ・Hにより殺された。Hは酩酊し、薬物も使用しており、傷害の数日後にアコーダが死亡した。ブラチスラヴァ地方裁判所に対する控訴がなされ、ブラチスラヴァ地域裁判所は、二〇一九年九月一七日、Hに九年の刑事施設収容、アルコール・リハビリ計画参加、及び被害者への補償を言い渡した。人種動機の疑いが捜査されたがその証明はできなかった。

二〇一七年七月一日、文化的国内マイノリティ支援基金が発効し、新しい独立機関が設置され、政府から権限が移管された。国内マイノリティの文化価値を保護し発展させ、教育と権利の保護、文化間対話を促進する。文化省文化遺産局は、人種主義や排外主義の予防のため、教育や出版活動を行う。

二〇一九年九月一〇日、国民評議会は、二〇世紀のユダヤ人迫害と共産主義体制下のキリスト教会迫害に関する決議を行った。同年九月九日のホロコースト被害者記憶日に、ペーター・ペレグリニ首相は道義的関与を唱え、二度とこうした歴史を繰り返さないよう呼びかけた。同年二月五~六日、OSCE反ユダヤ主義と闘う国際会議がブラスチラヴァで開催された。スロヴァキアはホロコーストの悲劇の再発防止に国際協力している。

毎年八月二日、ロマ・ホロコースト記念日に政府はロマ共同体のためのソーシャル・ネットワークの「記憶のキャンドル」を組織し、誰もが参加できるようにしている。一九四四年八月二日にアウシュヴィツ強制収容所で約三〇〇〇人のロマが殺害された事件を記念したもので、ユダヤ文化博物館と協力している。

第二次大戦時の収容所があったセレドのホロコースト博物館は人種主義や排外主義を予防する教育活動に参加している。セレド・ホロコースト博物館教育センターは学校、教員、一般公衆に対する教育訓練行事に協力している。

CERDがスロヴァキアに出した勧告(CERD/C/SVK/CO/13. 16 September 2022

民族的マイノリティに対する攻撃やオンライン上の人種主義ヘイト・スピーチが見られる。過激集団が人種差別を煽動している。人種差別を煽動・助長する集団とその活動に法的措置を取ること。人種動機犯罪を捜査、訴追、処罰すること。標的とされたコミュニティと協力して、信頼の欠如に対処するため、ヘイト・クライムを通報する代替制度を作ること。ヘイト・クライムとヘイト・スピーチの捜査に十分な関心が払われるよう、適切な人的、財政的資源を投入すること。

メディアとインターネット上で、及び政治家の演説でロマや非市民などの民族マイノリティに対するヘイト・スピーチが続いている。メディアに関する法律が条約や国際人権基準に合致して、人種主義の予防、抑止に資するようにすること。ヘイト・スピーチ事件すべてが捜査、訴追、処罰されることを確保すること。ヘイト・スピーチ事件の申立て、訴追、判決に関する情報を提供すること。多様性の尊重と人種差別撤廃のため公衆に啓発キャンペーンを行うこと。

人種プロファイリングが行われているとの情報がある。法執行官による人種プロファイリングに関連する情報が政府から報告されていない。警察による実力行使と人種差別についての申立てを捜査する適切な独立監視メカニズムを設置すること。人種プロファイリングに対処する包括的措置を履行すること。