Tuesday, November 19, 2024

ヘイト・クライム禁止法(213)サンマリノ

サンマリノが人種差別撤廃委員会CERD112会期に提出した報告書(CERD/C/SMR/1.19 December 2019

今回が初めての報告書。

刑法第一七九条は次の通り。

「人種的又は民族的優越性又は憎悪に基づく思想をいかなる手段であれ流布し、又は、人種、民族、国籍、宗教又は性的指向及びジェンダー・アイデンティティに基づいて差別行為を行うことを人に奨励し、又は差別行為を行い、又は、人種、民族、国籍、宗教又は性的指向及びジェンダー・アイデンティティに基づいて暴力を行うことを人に奨励し、又は暴力を又は暴力教唆行為をした者は、第二級の刑事施設収容とする。

刑法第九〇条一項一号に示されたように、人種、民族、国籍、宗教又は性的指向及びジェンダーに基づいて差別に加重された犯罪は、いずれも例外なく訴追されるべきである。」

報告書対象期間の刑法第一七九条の事件は、七件ある。五件は捜査段階で終了した。二〇一八年の訴追事件では、二〇二一年一二月二二日に最終判決が言い渡された。日額六〇〇ユーロの罰金刑が言い渡された。もう一件は捜査進行中である。

CERDがサンマリノに出した勧告(CERD/C/SMR/CO/1. 24 May 2024

二〇二四年三月二ク日、サンマリノがサイバーいじめ(ネットいじめ)に関する法律を採択したことを歓迎する。ヘイト・スピーチ対策やサイバー犯罪対策を進めていることに留意する。しかし、移住者、アフリカ出身者、東欧出身者に対してヘイト・スピーチがなされているとの報告がある。統計情報がないため、ヘイト・スピーチの規模を測定できない。ヘイト・スピーチの申立て、捜査、訴追、判決に関する統計もない。刑法第一七九条及び九〇条があるが、条約第四条の要請に十分に合致していない。

インターネットやソーシャルメディアのヘイト・スピーチの拡散を止めるため、インターネット・プロバイダー・やソーシャルメディア・プラットフォームと協力すること。人種差別の危険にさらされている集団に対するヘイト・スピーチを防止、非難、闘うための措置を講じること。ヘイト・スピーチに関する信頼できる総合的統計を取ること。移住者、難民申請者、アフリカ系住民に関する偏見や誤情報と闘うキャンペーンを行うこと。人種憎悪を煽動するスピーチ全事件を実効的に捜査し、必要ならば訴追し処罰すること。国会議員行動綱領に、ヘイト・スピーチをした公務員について責任と規律を盛り込むこと。

人種プロファイリングに関する人種差別撤廃委員会一般的勧告第三六号を想起し、国境管理官や法執行官に人種プロファイリングに関する研修を行うこと。警察官その他の法執行官が職務質問や法執行に際して人種プロファイリングをしないようにガイダンスを確保すること。人種プロファイリング、人種差別、虐待の申立て事件すべてを効果的に捜査すること。法律に人種プロファイリング絶対禁止を盛り込むこと。

Wednesday, November 13, 2024

ヘイト・クライム禁止法(212)モルドヴァ

ヘイト・クライム禁止法(212)モルドヴァ

 

モルドヴァが人種差別撤廃委員会CERD112会期に提出した報告書(CERD/C/MDA/12-14. 29 September 2020

前回報告書について『原論』三九一頁

前々回報告書について『序説』五七三頁及び六一三頁

内務大臣は、憎悪と偏見を動機とする犯罪を防止するため、刑法第三四六条改正案を作成した。刑法第三四六条(民族、人種、宗教憎悪の煽動を目的とする意図的行為)は、「偏見に基づく暴力煽動行為」を処罰し、すべての刑事法における「民族、人種、宗教憎悪」を「偏見」という用語に修正する。刑法第一三四条一項で、偏見概念を「現実の、又は想像上の、人種、皮膚の色、民族又は社会的出身、市民権、性別、ジェンダー、言語、宗教又は宗教的信念、政治的見解、障害、性的指向、ジェンダー・アイデンティティ、健康、年齢又は家族の地位に基づいて、犯行者が抱いた意見」と定義する。その行為が、保護された属性に合致する人に向けられたか、財産等に向けられたかを問わない。偏見動機による行為の実行は、刑事犯罪の刑罰加重事由である。

刑法改正は、二〇一六年一二月八日、国会の第一読会で採択された。司法大臣は、改正刑法が国際基準に適合するかを確認するため、OSCE民主制度・人権事務局による専門的チェックを要請した。二〇一九年四月二六日、同事務局は、刑法改正は諸勧告に基づいて行われたと確認した。

平等委員会の見解によると、刑法第三四六条第二項により、平穏な抗議行動、学術教育の文脈で行われた行為には法適用がなされないと言う。

二〇一九年九月二四日、司法大臣は改正案を国会の人権委員会及び法務委員会に提出し、同年一〇月二ニ日、両委員会が法案を審議した。審議の結果、刑法第三四六条第二項の削除勧告がなされた。理由は、主要規定の適用範囲を狭めるうえ、解釈に曖昧さをもたらし、偏見動機による行為の規制が不可能となってっしまうからである。もう一つの提案として、政治的権利、労働権、その他の憲法上の権利の侵害に関連して、犯罪に該当しない項目を新設することが勧告された。しかし、国会は刑法改正の採択に至らなかった(*報告書提出後の二〇二ニ年に刑法改正が実現した)。

二〇一九年一〇月一五日から一一月一六日まで、平等委員会は、民衆擁護局とともに、ソーシャルメディアで「ステレオタイプや偏見から自由なモルドヴァ」「ヘイト・スピーチから自由なモルドヴァ」というスローガンコンテストを行った。

民衆擁護局、民族間関係局、平等委員会は、一連のリーフレットを、各言語で出版した。老人の基本権、健康権、社会保障権に関するリーフレットはルーマニア語、ロシア語、ガゴーズ語、民族マイノリティの権利促進保護リーフレットをルーマニア語、ウクライナ語、ガゴーズ語、ロシア語、ブルガリア語。

報告書の対象期間に検察庁はヘイト・クライム事案を捜査していない。捜査当局は捜査を実施した場合、申立人や関係機関に通知しなければならない。犯罪の要素を満たしていれば、ヘイト・クライムでない場合も、刑事手続きを進め、捜査を行わなければならない。捜査に着手した場合、検察はすべての刑事事件を記録しなければならない。

検察庁は二〇一七年一〇月一二日、被害者や当事者に刑事手続きに関する権利や義務を通知するため、通達第一五・一を出した。刑事訴訟法や犯罪被害者リハビリテーション法にも続いて文書で通知する。

二〇一九年九月から一〇月、テレヴィラジオ委員会は選挙運動中のメディア調査を行った。憎悪や差別煽動事案は確認されなかった。

人種差別撤廃委員会はモルドヴァに次のように勧告した(CERD/C/MDA/CO/12-14. 23 May 2024)。

*

二〇二ニ年四月二一日の刑法及び軽犯罪法改正を歓迎する。刑法第三四六条のもとでヘイト・スピーチ、人種差別の煽動、ヘイト・クライムの禁止、軽犯罪法第七〇一条のもとで人種差別の煽動の禁止、及び人種主義動機の刑罰加重事由化が実現した。

しかし、立法の枠組みには、人種的優越性に基づく思想の流布や、差別の煽動のような、

条約第四条に合致した人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの明白な犯罪化規定が含まれていない。また、条約第一条の差別の理由のすべてを含んでいない。人種差別、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムが広がっているとの報告がある。人種差別やヘイト・スピーチを適切に認知し、捜査を行っているという報告が十分でない。二〇二ニ年と二〇二さん円の間に裁判で有罪とされたヘイト動機犯罪は一一件にすぎない。地方において政治家が人種主義ヘイト・スピーチを行っている。メディアやインターネット上でヘイト・スピーチが拡散しているのに監視する手段が欠けている。人種差別やヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムの申立て、捜査、訴追、実行犯に課された制裁についての統計情報がない。

人種差別に対する申立てが少ないのは、適切な法律がなく、法的救済が貧弱であり、司法システムへの信頼がなく、報復の恐怖があるためである。刑法を含む法律の枠組みを見直して、条約第四条に沿って人種主義ヘイト・スピーチを犯罪化すること。民族マイノリティを標的とする人種差別、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムとの闘いを強化すること。ヘイト・スピーチを非難し、政治家によるヘイト・スピーチを抑止し、捜査と制裁を行うこと。インターネット企業やソーシャルメディア・プラットフォームと協力して、メディアやインターネット上のヘイト・スピーチを監視すること。警察官、検察官、その他の法執行官にヘイト・スピーチやヘイト・クライムを認知する体系的で特別な研修を行うこと。人種差別、ヘイト・スピーチ、ヘイト・クライムを報告し、申立てを記録する制度を採用すること。

人種差別撤廃委員会一般的勧告第三六号を想起し、警察署など警察業務の中で、法執行官による人種プロファイリングを禁止・防止する法規制を採用すること。人種プロファイリングや人種主義警察暴力の申立てを受理する独立の監視機関を設置し、公正な捜査を行うこと。人種プロファイリングや人種主義警察暴力の申立てや捜査に関する情報を次回報告すること。

Tuesday, November 12, 2024

ワークショップ無防備地域(戦争不参加宣言)をいま、改めて考える

ワークショップ無防備地域(戦争不参加宣言)をいま、改めて考える

 

台湾有事が叫ばれて日本の軍事化が進んでいるけど、何が起こっているのか理解できない。今の日本の平和をどのように作っていってよいのか分からない。このままいったら日本が戦争への道を進んで、平和な生活が脅かされるのではないのか。…と不安に感じている皆さん、いま改めて無防備地域(戦争不参加宣言)を学び、考えてみませんか?

 

日時:2024年12月15日()13:4016:30 (開場1320

会場: 東京しごとセンター飯田橋 地下2階講堂  

資料代:1.000

 

<基調講演>

「戦争放棄から無防備地域へ」

講師:澤野義一氏(大阪経済法科大学名誉教授)

<特別報告>

前田朗氏(東京造形大学名誉教授)

上原公子氏(元東京都国立市長)

斉藤けい子氏(苫小牧非核条例を考える会)

大濵長照氏(前沖縄県石垣市長)

藤井幸子氏(平和憲法を守る八重山連絡協議会)

 

主催 「無防備地域をいま、改めて考える」実行委員会

共催 非核条例を考える全国の集い

問い合わせ先

E-mail: yhwh100000@yahoo.co.jp (浜)

E-mail: cdi02510@par.odn.ne.jp (矢野)

Tuesday, November 05, 2024

ヘイト・クライム禁止法(211)カタール

カタールが人種差別撤廃委員会CERD112会期に提出した報告書(CERD/C/QAT/2223. 16 February 2022

前回報告書について『ヘイト・スピーチ法研究要綱』455頁。

前々回報告書について『ヘイト・スピーチ法研究序説』633頁。

以前、国内法には人種差別や憎悪を煽動する思想や行動を禁止・犯罪化する法律はなかったが、現在のカタール法には人種差別や憎悪を煽動する思想や行動を禁止し、ヘイト団体設立を禁止。犯罪化する法律がある。例えばサイバー法及び印刷出版法である。

201765日と202115日の間、カタールは周辺四か国による共栄措置と封鎖を受けた。カタール市民を国籍に基づいて差別し、各国から排除し、y入国させない措置であった。各国で学んでいたカタール学生は排除され、学ぶ権利を否定された。財産を押収されたカタール市民もいる。カタールはこれラン措置を除去するため、人種差別撤廃委員会及び国際司法裁判所に訴えた。最近、これらの措置は中止となった。

人種差別撤廃委員会はカタールに次のように勧告した(CERD/C/QAT/CO/22-23. 23 May 2024)。

カタールから提供されたサイバー法及び印刷出版法に留意するが、これらは条約第四条に規定するすべての行為を犯罪としていない。人種主義動機が犯罪の刑罰加重事由となっているか、人種主義ヘイト・クライムと人種主義ヘイト・スピーチの予防のために措置が取られているかどうかの情報が報告されていない。委員会は、条約第四条が規定するすべての行為を禁止・犯罪化するよう促す。刑法で犯罪とされるすべての行為について人種主義動機を刑罰加重事由とすること。インターネット上も含み、人種差別に晒される集団に向けられた人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムを防止すること。人種主義ヘイト・スピーチとヘイト・クライムの事件を報告し、犯行者が効果的に訴追・処罰され、被害者が保障を受けられるようにすること。

Friday, November 01, 2024

ヘイト・クライム禁止法(210)メキシコ

メキシコが人種差別撤廃委員会CERD112会期に提出した報告書(CERD/C/MEX/2224. 8 June 2022

前回報告書について『ヘイト・スピーチ法研究要綱』461462頁。

前々回報告書について『ヘイト・スピーチ法研究序説』625627頁。

欧州の「ノー・ヘイト・スピーチ運動」に学んで、差別されている集団に対するヘイト・スピーチに対抗するイニシアティヴを採択した。この枠組みで二〇一七~一八年、公衆や青年にヘイト・スピーチと闘うための情報を提供する取り組みをした。欧州評議会のマニュアル『We CAN――ヘイト・スピーチに対抗する措置』をスペイン語に翻訳し、人権、民主主義、差異の尊重、自由、平等という価値に基づく戦略とキャンペーンを発展させた。

移住者に関連するヘイト・スピーチを防止するため、差別予防国内委員会は排外主義から自由な情報のための公共計画を発展させた。メディアやソーシャルネットワークにおける移住者に関して、排外主義を確認し、撤廃する知識と手段を提供している。

メキシコ市差別防止委員会は、「先住民族に対する差別反対」「移住者の権利」「レイシズムを抑止する」「排外主義とレイシズム」「メキシコ市・反差別キャンペーン」「差異を超えて団結を」といったヘイト・スピーチと闘うキャンペーンを実施してきた。

二〇一九年一月三〇日の最高裁判決に従って、刑法第一四九条改正案を議会に提出しており、人種差別撤廃条約第四条に規定された差別行為を犯罪化しようとしている。

人種差別撤廃委員会はメキシコに次のように勧告した(CERD/C/MEX/CO/22-24. 25 June 2024)。

委員会からの度重なる勧告と、二〇一九年の最高裁判決にもかかわらず、まだ条約第四条に合致した刑法改正が行われていない。先住民族やアフリカ系住民に対する差別文書が流布され、公的人物による人種憎悪発言が起きている。条約第四条は義務的性格を有するので、人種主義と人種差別を抑止する措置を取るべきである。刑法第一四九条改正案を採択して、努力を強化すること。刑法を条約第四条に合致するよう改正して、差別を防止し処罰する実効的措置を取ること。人種差別撤廃委員会の人種的ヘイト・スピーチと闘う一般的勧告三五号を考慮すること。

共同テーブル第13回シンポ 「国の安全保障」から「命の安全保障」へ 戦禍の世界のなかの平和憲法を考える

「新しい戦前にさせない」連続シンポジウム

共同テーブル第13回シンポ

石破政権に抗して 「国の安全保障」から「命の安全保障」へ

戦禍の世界のなかの平和憲法を考える

 

 ウクライナ、パレスチナ「戦争」は終わらず、米中対立でアジアの緊張も激化しています。「安保・防衛」重点の石破政権に対抗する野党の明快な反戦・平和の政策が求められています。そこで、あらためて平和憲法の役割を考え合いましょう。

 20世紀は「戦争の世紀」と言われながらも、「戦争の違法化」が進められてました。第1次世界大戦後の国際連盟規約(1919年)で侵略戦争の制限を、不戦条約(1928年)で侵略戦争の放棄を試みました。しかし、「自衛」の名の下に侵略戦争が行われたので、第2次世界大戦後に国連憲章(1945年)によって「自衛戦争」をも制限しました。にもかかわらず、再び戦禍と軍事緊張が広がっています。

 このような時、憲法の平和主義の役割は何か。91項で「自衛戦争」をも放棄し、2項で軍隊の保持を認めていません。「非戦・非武装」のはずです。「非武装」は不安かもしれませんが、世界には26の「軍隊のない国家」があり、他国から攻められていません。

 そこで、今こそ平和憲法の実現に向けてどうするか、検討していきましょう。

 私たちは、今回に続き、②武器移転など「死の商人国家」化、③非武装中立を求める運動をテーマに、3回の連続シンポジウムを開催します。

 

日時 1214日(土)1330分~1630分(13時開場)

会場 文京区民センター・2階・2A会議室

   東京メトロ・丸の内線・後楽園駅・「4b」出口徒歩5

   都営・三田線・春日駅・「A2」出口徒歩1

資料代 1000

プログラム

1 開会

2 挨拶 発起人を代表して 佐高 信

3 報告 清水雅彦(日本体育大学教授)「日本の与野党の9条・安全保障論」

          木戸衛一(大阪大学大学院招へい教授)「ドイツ・欧州から見た〈平和〉と〈安全〉」

     南基正(ソウル大学日本研究所所長)「朝鮮半島の平和と韓国の軍事状況」

4 シンポジウム

    コーディネーター 杉浦ひとみ(弁護士)

  パネリスト 清水、木戸、南

5 参加者からの質疑

6 まとめと閉会挨拶

申込先 定員(250名)になり次第、申込を締め切りますので、大変恐縮ですが、なるべく早めに下記のアドレスまで、参加申込をお願いいたします。

E-mail: e43k12y@yahoo.co.jp

共同テーブル連絡先:

藤田高景 090-8808-5000/石河康国 090-6044-5729

Sunday, October 27, 2024

ヘイト・クライム禁止法(209)アルバニア

長年にわたってヘイト・クライム/スピーチ禁止法の世界的動向を紹介してきた。10数年前には「ヘイト・スピーチは表現の自由の保障が及ぶから、ヘイト・スピーチ禁止法は世界に存在しない」と言い募る無知な憲法学者たちがいた。私が「30カ国に法律がある」と言っても、信じてもらえなかった。そこで、彼彼女らを黙らせるために、世界100カ国にヘイト・スピーチ禁止法があると紹介し始めた。いまでは120か国以上に何らかの法律があると主張している。

50か国ほど紹介した頃から、もう一つの問題関心を持つようになった。日本の比較法学は、その名称にもかかわらず、単なる外国法研究であって、比較の方法論が不十分である。また、比較法と言いながら、大半はアメリカ、イギリス、フランス、ドイツの受け売りにとどまる。彼彼女らの世界は欧米諸国だけでできている。脱亜入欧から一歩も出ていない。

だから現実を無視した奇怪な研究が横行する。多くの論者が「ヘイト・スピーチ対策法を考えるために、先進国の欧米に学ぶ」と言う。欧米諸国をヘイト対策先進国と見るのはあまりにも倒錯している。

植民地主義と人種主義の母国で、ヘイト・スピーチを生み出し、輸出してきたのが欧米諸国だ。ジェノサイドの母国でもある。この単純な事実を無視して、欧米諸国に学ぶのは不適切だ。ヘイト常習国である欧米諸国の問題点を解明することこそ研究課題でなければならない。

1990年代から国連人権理事会(旧人権委員会)、国際自由権委員会、人種差別撤廃委員会に通ってきたので、ヘイト・クライム/スピーチについて、国際人権領域の情報を紹介してきた。特に、人種差別撤廃委員会の資料を紹介してきた。この紹介作業を通じて、日本の比較法学研究の欠落がよく見えてきた。

筆者自身の新しい比較法学研究方法論を提示できたわけではないが、例えばアメリカにおけるヘイト・スピーチ対策についても、憲法学がご都合主義的に紹介してきた内容とは違う情報を紹介してきた。

その意味で、人種差別撤廃委員会におけるヘイト・クライム/スピーチ情報の紹介は続けたい。この1年ほど多忙のため中断していたが、今後も紹介作業を続けることにした。

アルバニアが人種差別撤廃委員会CERD112会期に提出した報告書(CERD/C/ALB/13-14. 14 February 2022

前回報告書について『ヘイト・スピーチ法研究要綱』430431頁。

アルバニア刑法第50条(j)は、人種差別動機で犯罪が実行された場合、量刑に際して負責の証拠となるとする。

刑法第84条(a)は、コンピュータ・システムを通じた、民族、国籍、人種又は宗教ゆえの、重大な殺人や傷害の脅迫は、罰金又は三年以下の刑事施設収容とする。

刑法第119条(a)は、コンピュータ・システムを通じた、人種主義や外国人嫌悪のコンテンツの公然提示や配布は、罰金又は二年以下の刑事施設収容とする。

刑法第119条(b)は、コンピュータ・システムを通じた、民族、国籍、人種又は宗教ゆえの、公然たる人の侮辱は、刑事不法行為を構成し、罰金又は二年以下の刑事施設収容とする。

刑法第253条は市民の平等侵害で、国家機能や公共サービスの職務についている者による差別が、その権限行使や職務執行中になされて、その差別が出身、性別、性的指向又はジェンダー・アイデンティティ、健康状態、宗教又は政治的信念、労働組合活動家のため、又は特別の民族集団、国民、人種又は宗教に属するがゆえに行われ、不公平な特権をつくりだし、法に由来する権利を拒否した場合、罰金又は五年以下の刑事施設収容とする。

刑法第265条は、憎悪又は紛争の煽動である。「人種、民族、宗教又は性的指向に基づいて、憎悪又は紛争を煽動すること、並びに、いかなる手段や形式であれ、そうした著作物を故意に準備、配布、又は配布目的で所持することは、二年以上一〇年以下の刑事施設収容とする。」

刑法第266条は国民憎悪の呼びかけである。「住民の他の部分を中傷又は侮辱し、彼らに実力行使や恣意的行為を要請することによって、国民憎悪を呼びかけて、公共の平穏を危険にさらすことは、二年以上八年以下の刑事施設収容とする。」

二〇二〇年の法改正によって、二〇一〇年の「差別からの保護に関する法律」は、ヘイト・スピーチによる差別を発見した差別防止コミッショナーの権限を強化した。公衆の注意を喚起するために、メディア運営者は、ヘイト・スピーチに関する差別防止コミッショナーの決定を報道する義務を負う。公の当局は、差別を予防するために平等を促進する義務を負う。

差別防止コミッショナーの決定は実際に履行されており、ヘイト・スピーチと闘う措置、警察官による侮辱を予防する措置を通じて、ロマやエジプト人を含む国内マイノリティを保護する措置が取られている。

二〇一九年一二月、ティラナで差別防止コミッショナー、メディア当局、アルバニアメディア委員会等の協力でヘイト・スピーチと闘う「ノー・ヘイト連合」が設立された。①多様性と表現の自由を促進するコミュニケーションの発展、②文部省やインターネット・プロバイダー、ジャーナリスト団体、市民社会団体と協力して差別と闘う戦略的パートナーシップ、③ヘイト・スピーチに対処する欧州の最善の実行メカニズムとの協働、④情報共有とスタッフの訓練のためのメカニズムの発展。

人種差別撤廃委員会はアルバニアに次のように勧告した(CERD/C/ALB/CO/13-14 .23 May 2024)。

政府の努力にもかかわらずメディアやインターネットの人種主義ヘイト・スピーチが続いている。特にロマやエジプト人に対するヘイト・スピーチを行う政治家がいる。ヘイト・スピーチと闘う実効的措置を取るために、ヘイト・スピーチ法を制定し、予防、処罰、抑止を実効的にすること。すべてのヘイト・スピーチ事件を捜査・訴追し、実行犯をその地位に関わらず処罰し、ヘイト・スピーチ事件・訴追数・有罪数を報告すること。一般公衆に啓発キャンペーンを行い、人種差別を撤廃すること。高位の公務員など公の当局がヘイト・スピーチを行わないようにし、ヘイト・スピーチを非難すること。

アルバニアには条約第4条(b)の人種主義団体と団体参加を犯罪化する法律がない。人種差別を助長・煽動する団体を禁止し、団体参加を刑事犯罪とすること。条約第4条のすべての条項には拘束力がある。