Thursday, August 16, 2012

9条世界会議が拓いた地平

法の廃墟(23)



『無罪!』2008年6月号







9条世界宣言



 「日本国憲法9条は、戦争を放棄し、国際紛争解決の手段として武力による威嚇や武力の行使をしないことを定めるとともに、軍隊や戦力の保持を禁止している。このような9条は、単なる日本だけの法規ではない。それは、国際平和メカニズムとして機能し、世界の平和を保つために他の国々にも取り入れることができるものである。9条世界会議は、戦争の廃絶をめざして、9条を人類の共有財産として支持する国際運動をつくりあげ、武力によらない平和を地球規模で呼びかける。」

 五月四日~六日、千葉・幕張メッセにおいて開催された9条世界会議は「戦争を廃絶するための9条世界宣言」を採択して、盛況のうちに終了した。

 9条世界会議は「二一世紀の平和と正義のためのハーグ・アジェンダ」(一九九九年)、GPPACの世界および地域提言(二〇〇五年)、「バンクーバー平和アピール」(二〇〇六年)、「暴力のない世界に向けたノーベル平和賞憲章」(二〇〇七年)など、地球市民社会が作製してきた平和文書・提言を受けて、9条の世界史的意義に光を当て、世界の平和運動とともに、9条の普遍性を再確認し、世界に広げるために開催された。

 二一世紀の現在、平和運動の願いにもかかわらず、アフガニスタン戦争、イラク戦争、イスラエル・レバノン戦争をはじめ、世界各地で武力紛争が絶えない。しかも、国際法が予定した諸原則を公然と踏みにじって戦争が推進されている。「テロとの戦い」という掛け声さえ唱えれば何をやっても構わないかのような風潮がつくられ、「現代国際法の危機」が現出している。法を扼殺する時代の流れからいかに脱出するのか。憲法9条こそ、その思想と手立てを指し示していたのではないか。

 9条世界会議実行委員会(共同代表:池田香代子、新倉修、吉岡達也)は、世界各地の平和運動家や研究者に協力を要請し、四〇カ国・地域から一五〇人以上のゲストを招請して、会議を準備した。

 五月四日の全体会では、ノーベル平和賞受賞のマイレッド・マグワイア(北アイルランド)やコーラ・ワイス(ハーグ平和アピール代表)の挨拶やシンポジウム、夜には公演「9アライブ」が行われた。

 五日の分科会・パネル討論会では「世界の紛争と非暴力」「アジアのなかの9条」「平和を創る女性パワー」「環境と平和をつなぐ」「核時代と9条」「9条の危機と未来」「グローバリゼーションと戦争」「軍隊のない世界へ」などが開かれた。

 六日の最終会議では「9条世界会議宣言」などの文書が採択された。9条世界会議宣言は、各国政府に対して次のような勧告を出している。

 ①国連憲章、ミレニアム開発目標、国際人権法、核不拡散条約をはじめとする軍縮条約など、すべての国際的誓約の実行。②あらゆる人権を促進・擁護、平和的生存権を認め公式化すること。人権侵害に対する責任・補償メカニズムの強化。③平和的手段による紛争予防、平和構築、人間の安全保障のための取り組みの支持、資金投入。④ 軍事費削減、その資金を保健、教育、持続可能な社会開発に振り向けること。⑤平和省設置。教育担当省庁が平和教育をすべての教育段階において体系化および必修化すること。⑥平和主体として女性が果たす重要な役割認識。国連安保理決議一三二五を実行して、意思決定と政策策定の場に女性の参加を相当数保証すること。⑦良心的兵役拒否の権利の承認、軍隊による犯罪に対する責任・司法システムの強化。それには侵略の罪を国際刑事裁判所に訴追する可能性も含まれる。



世界は9条を選び始めた



 9条世界会議宣言は続く。

 ⑧包括的で効果的な武器貿易条約。大量破壊兵器から小型武器まで、あらゆる兵器の検証可能で不可逆的な軍縮をすすめる第一歩として、非武装地帯設置。⑨一九九六年の国際司法裁判所の勧告的意見、二〇〇〇年の核不拡散条約再検討会議最終文書における「明確な約束」にしたがって、核兵器廃絶のための誠実な交渉の開始・妥結。⑩ 核兵器廃絶のための段階的措置として、非核兵器地帯設置。⑪地球規模の気候変動への対処、戦争と軍事のもたらす環境への負の影響を転換すること。「国際持続可能エネルギー機関」設立。⑫ 平和と安全を維持するための多国間の民主的機関としてもっとも相応しい国連をさらに民主的に改革(拒否権廃止、総会の役割再活性化)。⑫憲法9条やコスタリカ憲法12条のような平和条項を憲法に盛り込むことなどを通じて、戦争および、国際紛争解決のための武力による威嚇と武力の行使を放棄すること。

 実行委員会が掲げたキャッチフレーズは「世界は9条を選び始めた。」であった。これが日本の平和運動の独りよがりな発想ではなく、まさに世界が9条を必要としていることは、連日の数々の発言に明らかであった。

 9条世界会議宣言は、政府に対する勧告だけでなく、地球市民社会の課題も掲げる。

9条の主要な原則の維持・拡大を地球規模で促進していくことに真剣に取り組み、

平和の文化を普及していく。②政治的、市民的、経済的、文化的なあらゆる人権の普遍性と不可分性を認め、あらゆる人権が実現するための必須条件として、平和的生存権を公式に認めるよう求める。③ 平和、人権、人道援助、軍縮、環境、持続可能な開発といった異なるセクター間の協力を強めることで能力を高め、効果的なネットワークを築く。地元、地域、世界レベルでの市民社会の参加をより拡大するために、政府、国家機関、国際機関との定期的な連絡チャンネルを設置する。④ 南アフリカの真実和解委員会の経験に学び、過去から学び、紛争予防としての和解の取り組みをすすめる。⑤ 調停、合意形成、非暴力的社会変革といった平和創造の技術を身につけることができるよう、平和教育システムを支持する。⑥ 不公平を生み環境を破壊し紛争を助長するようなグローバル経済の力の集中に対抗して、平和、開発、環境に投資し、公正で非軍事的な経済をつくり出す。⑦兵器生産・貿易の監視、企業の社会的責任の責任規範のなかに平和を位置づけるよう呼びかける。⑧9条世界会議の成果を発展させつつ、「戦争廃絶のためのグローバル9条キャンペーン」によるフォローアップ・メカニズムを創設する。

 9条世界会議は、9条を擁護し広めるために日本の平和運動にはまだまだやるべき課題がたくさんあることを具体的に指し示した。9条の歴史的意義を真に光り輝かせるのはこれからの運動の責務である。