Wednesday, August 08, 2012

大道寺将司『棺一基』を読み始める


大道寺将司『棺一基』を読み始める



グランサコネ通信120809

Grand-Saconnex News. 120809



7日、国連欧州本部での人権理事会諮問委員会AC第9会期は、「テロリストによる人質問題」の審議だった。紛争地における人質問題が重大人権侵害問題であり、現代世界の重要問題であることは言うまでもない。ただ、かつて人権委員会人権促進保護小委員会で議論した時は「テロリズムと反テロリズムにおける人権」というテーマであった。この場合には、反テロリズムにおける人権問題――反テロ戦争や、アメリカの愛国者法の問題も取り上げることができたし、現に取り上げていた。しかし、アメリカをはじめとする各国政府にとってはおもしろくない話だ。現在のACは、人権理事会から諮問を受けた事項を議論するので、「テロリストによる人質問題」の議論しかできない。ここには「国家テロ」は含まれていない。



7日、人権高等弁務官事務所で、人種差別撤廃委員会CERD第81会期が始まった。実際には6日に始まっていたが、6日は一日中、秘密会のためNGOは傍聴できない。7日から公開審議となり、NGOも傍聴できる。7日午後はエクアドル政府報告書の審査であった。エクアドルには、18の先住民族indigenous peoples(トマベラ、カランキ、ナタブエラ、オタヴァロなど)、14の先住国民indigenous nationalities(アワ、チャチ、エペラ、ツチラなど)、アフリカ系エクアドル人のほかに、モントビオスMontubiosと呼ばれる人々がいるという。委員からは、先住民族と先住国民の違いは何かよくわからない。また、先住民族でも先住国民でもないモントビオスとは何か、質問が繰り返しなされていた。結局よくわからない。



8日、ACは「食糧の権利right to food」を審議した。チョン・ジンソン委員(韓国)作成の「都会の貧困者の人権の促進」報告書と、モナ・ズルフィカー委員(エジプト、弁護士)作成の「田舎の女性と食糧の権利」報告書が対象である。「都会の貧困者」では、食糧、雇用、教育、家屋・住居、保健衛生、政治参加などにも射程を広げた報告がなされた。「田舎の女性」については、初めての報告で、国際人権規範の概要を確認したうえで、田舎の女性に対する差別について、土地や水へのアクセス、生産・市場・労働、教育・保険・社会的安全の差別、などが分析されていた。



大道寺将司『棺一基――大道寺将司全句集』(太田出版、2012年)を読み始めた。前に出版された『友へ』『鴉の目』収録句の含めての「全句集」である。『年報・死刑廃止』の「死刑関係文献案内」で紹介してきたが、今回も取り上げなくてはならない。『年報・死刑廃止』は1996年版から出ているが、大道寺が最初の句を詠んだのも1996年で、しかもこの年の句は一つだけである。



友が病む獄舎の冬の安けしを



ここから16年の歳月に大道寺が読んだ数百の句が166頁にわたって収められている。作家・辺見庸による序文と跋文が全部で50頁。はたして必要なのだろうか。句集には不要の頁だ。もっとも、辺見庸が大道寺に向き合い、その作品を世に送り出すために、長期にわたる努力を積み重ねてきたことも事実だ。弁護士・内田雅敏は、大道寺と辺見の懸命の生きざまを高く評価しつつも、それでもなお「大道寺将司はいい人であってはならない」と危惧を表明している。大道寺、辺見、内田の鋭ぎすまされた意識がスパークする様を、どのように評したらよいのか。悩む時間は十分にある。