Saturday, October 27, 2012

『未解決の戦後補償――問われる日本の過去と未来』


田中宏・中山武敏・有光健他著『未解決の戦後補償――問われる日本の過去と未来』(創史社、2012年)


 

<本書は、私たちが日本の容易ならざる過去とどう向き合い、アジアの人々との間にいかにして〝和解〟を、そして〝信頼〟を築くかを、個々の具体性の中に追求する真摯な記録であり、そこから未来を展望しようとする、真摯な願いを読み取ってほしい>(田中宏「まえがき」より)。

 

執筆者

有光健「慰安婦問題」、「シベリア抑留」 
矢野秀喜「朝鮮人強制連行」 
田中宏「中国人強制連行」
中山武敏「重慶爆撃・東京空襲」 
大山美佐子BC級戦犯」 
南典男「中国遺棄毒ガス」

小椋千鶴子「軍人・軍属」 
竹内康人「未払い金」 「日韓会談文書公開」

 

編集部による冒頭の「戦後補償・残された課題――戦後67年、戦後補償・解決への道を考える」は「戦後67年を迎えたが、日本が起こした前世紀の戦争の後始末がまだ続いている」と始まり、「70件を超えた裁判でも解決せず」として、未処理の戦争被害類型として、戦時性暴力被害、強制連行、強制労働、元軍人・軍属、元BC級戦犯、虐殺被害、731部隊被害、毒ガス被害、無差別空爆被害、サハリン残留朝鮮人、在外原爆被爆者、インドネシア被徴用者、先住民族被害などが列挙されている。日本人についても、シベリア抑留、中国残留孤児、民間空襲被害、沖縄住民虐殺、日本軍遺棄毒ガスなどが残されている。

 

裁判所は問題解決から逃げ、門戸を閉ざしてしまった。行政も無責任を決め込んでいる。立法的解決を求める運動が続いているが、国会ではまともな議論が行われない。

 

人類史に残る残虐行為を積み上げながら、いまだに頬かむりをし続ける日本。それどころか、南京大虐殺や日本軍性奴隷制(「慰安婦」)問題では事実を否定し、被害者を侮辱し、民族対立をあおる政治家発言が続いている。西欧ならば刑務所行き間違いなしの差別発言が、日本ではまかり通る。異常で無責任な発言をした政治家が公党の総裁になってしまう。

 

こうした現実を前に、戦後補償運動は日本社会に向けてさまざまのアピールを続けてきた。本書は、その2012年版と言えよう。網羅的ではないが、重要なテーマを絞り、それぞれについて背景や現状を分かりやすく解説している。戦後補償問題についてこれから学ぶ読者には最適である。