Friday, October 05, 2012

在特会・差別街宣に賠償命令


拡散する精神/萎縮する表現(18)

在特会・差別街宣に賠償命令

 
* 『マスコミ市民』524号(2012年19月号)
 
 

 六月二五日、奈良地裁は、水平社博物館に対して異常な差別街宣を行った被告・在特会元副会長Kに対して、名誉毀損の成立を認め、一五〇万円の損害賠償を命じる判決を言い渡した。判決は次のように判断した。

 「前記第2の2(4)で判示したとおり、被告は、原告が開設する水平社博物館前の道路上において、ハンドマイクを使用して、『穢多』及び『非人』などの文言を含む演説をし、上記演説の状況を自己の動画サイトに投稿し、広く市民が視聴できる状態においている。そして、上記文言が不当な差別用語であることは公知の事実であり、原告の設立目的及び活動状況、被告の言動の時期及び場所等に鑑みれば、被告の上記言動が原告に対する名誉毀損に当たると認めるのが相当である。」

 右の引用の冒頭に「前記第2の2(4)」とあるのは、「第2 事案の概要」「2 判断の前提となる事実」の「(4)被告の言動」のことであり、次のように述べられている。

 「被告は、平成二三年一月二二日午後一時過ぎから、水平社博物館前の道路上において、ハンドマイクを使用して、次の通りの演説をした。そして、被告は、上演説の状況を自己の動画サイトに投稿し、広く市民が視聴できる状態においている。

 『なぜここでこうやってマイクを持って叫んでいるかといいますと、この目の前にある穢多博物館ですか、非人博物館ですか、水平社博物館ですか、なんかねえ、よく分からんこの博物館』『強制連行された女性の中には、慰安婦イコール性奴隷として軍隊に従属させられ、性的奉仕を強いられた人もいましたと、こういったことも書かれておりますねえ』『慰安婦イコール性奴隷と言ってるんですよ、こいつらはバカタレ。文句あったら出てこい、穢多ども。慰安婦。性奴隷。これねえ、すごい人権侵害ですよ、これ。性風俗産業ね。自分が性風俗産業で働くのが大好きだと、これが天職だと、喜んで働いている女性に対して人権侵害なんですよ、これ』『この水平社博物館、ド穢多どもはですねえ、慰安婦イコーウ性奴隷だと、こういったこと言ってるんですよ。文句あったら出てこいよ、穢多ども。ね、ここなんですか、ド穢多の発祥の地、なんかそういう聖地らしいですね。』・・・省略・・・『いい加減出てきたらどうだ、穢多ども。ねえ、穢多、非人、非人。非人とは、人間じゃないと書くんですよ。おまえら人間なのかほんとうに』『穢多とは穢れが多いと書きます。穢れた、穢れた、卑しい連中、文句あったらねえ、いつでも来い。』」

 これに対して、被害者・原告(当時は財団法人水平社博物館)は「これは、前代未聞の差別事件であり、穢れ多き人々、人間外の人々が邪な目的を持って原告を設立し、原告が邪な社会的活動を行っている、そして、そのような邪な目的の下で『コリアと日本――韓国併合から一〇〇年』の企画展示をなしていると主張して、公然と事実を摘示し、基本的人権を普及し、啓発を旨とする原告の名誉を著しく毀損する言動を被告が行ったものである」と提訴した。一方、被告Kは、原告の主張を否認し、「穢多及び非人は蔑称ではなく、これを述べた被告が不当な差別をしているものではない」「被告は挑発的な言動をしたことはない」と主張した。

 「直接行動」と称して差別と排外主義をまき散らしてきた在特会(在日特権を許さない市民の会)は、京都朝鮮学校・徳島県教祖襲撃事件で、京都地裁において威力業務妨害罪などにつき有罪判決を言い渡された(一部は確定。一部は控訴したが大阪高裁で棄却されて確定)。しかし、その後も何ら反省することなく、各地で組織的に差別と暴力を繰り返している。本件では、水平社博物館に対して異様な差別発言を繰り返したが、刑事事件として立件されることはなかった。日本には人種差別禁止法もヘイト・クライム禁止法もないので、こうした悪質な憎悪犯罪が放置されている。日本政府は「日本には深刻な差別は存在しないから人種差別禁止法は必要ない」と嘯いている。被害者は民事名誉毀損訴訟を闘わなくてはならないし、賠償額は低く、再発防止につながらない。