Friday, February 19, 2021

権利のための信仰に関するベイルート宣言の紹介

201732829日、国連人権高等弁務官事務所が主催して、ベイルート(レバノン)で信仰と人権に関する会議が開かれた。会議の成果文書として「権利のための信仰に関するベイルート宣言」及び「『権利のための信仰』に関する18のコミットメント」という2つの文書が採択された。

 

私はこの会議に参加していない。201923月に開催された国連人権理事会第40会期で、「宗教又は信仰の自由に関する特別報告者」がプレゼンテーションした際に、2つの文書に言及したので初めて知った。2つの文書は、同特別報告者の報告書に付録として掲載された(A/HRC/40 /58. 5 March 2019)。

 

ベイルート宣言に宗教的ヘイト・スピーチに関連する記述があったので、日本に紹介しようと思ってメモを作成したが、そのままになってしまい、これまで紹介してこなかった。最近、PCの中にそのデータを発見したので、若干補充をしてブログにアップすることにした。他にどなたかが紹介又は翻訳しているかもしれないが、いまのところ、それらしきものを発見できていない。

 

ベイルート宣言の中で、ヘイト・スピーチ対策についてはラバト行動計画に言及している。ラバト会議を含めて、国連人権高等弁務官事務所が開催した一連の会議である。ラバト行動計画策定後も研究を続けて、宗教に関連してベイルート宣言となった。

 

ラバト行動計画は私たちの翻訳を公表している。

http://imadr.net/wordpress/wp-content/uploads/2018/04/9c7e71e676c12fe282a592ba7dd72f34.pdf

 

歴代の「宗教又は信仰の自由に関する特別報告者」は、アンジェロ・リベイロ(ポルトガル)、アブデルファタ・アモール(チュニジア)、アスマ・ジャハンギル(パキスタン)、ハイナー・ビーレフェルト(ドイツ)だが、2016年からアーメド・シャヒード(モルディヴ)である。シャヒード特別報告者はモルディブの元外交官であり、国際人権法を担当した。「イランの人権状況に関する特別報告者」を務めた。現在、エセックス人権センター事務局次長。

 

報告書及び宣言ではbelieffaithconvictioncreed等のさまざまな言葉が用いられているが、以下では、訳し分けていない。

 

なお、「権利のための信仰Faith for Rights」は、文中では「F4R」という略語で表現されているところがある。

 

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シャヒード報告書は次の構成。

Ⅰ 2018年以後の特別報告者の活動

Ⅱ 序論――思想、良心、宗教又は信仰、意見及び表現の自由

Ⅲ 国際人権枠組

Ⅳ 表現の自由への制限及び宗教又は信仰の自由へのその影響

Ⅴ 象徴的事案

A 冒涜及び宗教の誹謗

B 公共秩序措置

C 反背教法

D 反改宗法

E 宗教的憎悪と過激主義

Ⅵ オンライン・プラットフォームの影響と関連する制限

Ⅶ 結論と勧告

付録Ⅰ 権利のための信仰に関するベイルート宣言

付録Ⅱ 「権利のための信仰」に関する18のコミットメント

 

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権利のための信仰に関するベイルート宣言

 

宣言は22のパラグラフから成る。随所に聖典(聖書、クルアーン、ハディース、ブッダ)の言葉が引用されている。21か所。

例えば、「一人の命を守る者はすべての命を守る者に等しい」(クルアーン)といった引用形式。

 

以下、パラグラフごとに要約紹介する。

 

1. 信仰者及び人権活動家が2017年3月2829日、ベイルートで国連人権高等弁務官事務所主催の一連の会合に集まった。すべての人間の尊厳と平等の価値を支持し、宗教と信仰を尊重する。人間的価値と平等の尊厳は私たちの諸文化の共通の根である。信仰と権利は相互に補強し合う。人権は、宗教又は信仰から提供される倫理的精神的基礎に根差している。

2. 宗教又は信仰が生命、思想、良心、宗教、信仰、意見及び表現の自由から、欠乏と恐怖からの自由、暴力からの自由まで不可分の権利として保護される。

3. 宗教又は信仰は人間の尊厳、すべての個人と共同体の自由がいかなる理由でも差別されないことを保護する基本的な源泉の一つである。宗教、倫理及び哲学文献は、人類の唯一性、生命権の神聖性、信仰する者の心に基礎を持つ個人と集団の義務を支持することで、国際法を促進した。

4. 私たちを一つのものとする共通の人間的価値を広めることを誓約する。神学に関する相違はあるが、相違を利用して暴力、差別、宗教的憎悪を唱導することと闘うことを引き受ける。

5. 宗教又は信仰の自由は思想及び良心の自由なしには存在しない。人は全体としてすべての信仰の基礎であり、愛、赦し、尊重を通じて成長する。

6. 私たちはここベイルートから、ともに、利己主義、自己中心、人為的分断に反対する闘い、平和的だが力強い、最も気高い闘いを始める。

7. ベイルート宣言は、団結した、平和的で尊重溢れる社会の観点で、世界のすべての地域の宗教又は信仰に属する人々に及ぶ。ベイルート宣言は、「差別、敵意又は暴力の煽動に関するラバト行動計画(2012年)」と同様に、国連人権機関の協力の下で作成された。

8. これまで信仰と権利を結び付ける努力がなされてきたが、その試みは目標達成に及ばない。宗教活動家は、国内的にも国際的にも、憎悪の煽動に反対する人間性を擁護する責任を有する。ベイルート宣言によって、私たちすべての者の間の共通の根拠をもって、信仰が権利のためにあるその道を定義するために、手と心を一つにする。

9. ベイルート宣言をつくるために、私たちは多元的な連帯を通じて信仰を実践する。権利のための信仰のグローバルな連帯によって、それぞれの領域で具体的なロードマップを描くことになる。

10.      目標を達成するため、私たちは信仰者として5つの基本原則を遵守する。

(a)     伝統的な信仰間の対話を、地方レベルで具体的な「権利のための信仰」プロジェクトに変換する。対話は重要だが、対話に終わりはない。行動を通じて具体的な目標に到達できる。

(b)     神学的教条的分断を避ける。ベイルート宣言は宗教間対話の手段ではなく、すべての人間の尊厳を擁護する共通の活動のための共同プラットフォームである。

(c)     内省は私たちが大切にする美徳である。何よりもまず私たち自身の弱点を語り、行動につなげる。

(d)     特に、暴力、差別又は平等の尊厳の侵害を煽動する憎悪の唱道に反対して、一つの声で話す。宗教的理由による憎悪、不正義、差別の煽動を非難するだけでは十分でない。救済的な共感と連帯をもってヘイト・スピーチを矯正する義務が私たちにある。矯正という言葉は、宗教の境界を超えるべきである。煽動者、排外主義者、ポピュリスト、暴力的過激主義者の自由な土地を残してはならない。

(e)     私たちは良心のみに拘束され、完全に独立して行動する。

11.平等の尊厳を擁護する一つの声で語り、人間は完全に平等に尊重される。すべての信仰者に自らの責任で正義と平等を深く育むよう励ます。

12.世界中の草の根レベルの人々のために具体的な方法で目標を達成したい。お互いに活動を支え合い、毎年1210日に多様性の中の連帯の表明として、「権利のための信仰の歩み」を行う。

13.2012年のラバト行動計画を基礎に、暗闇の力を武装解除し、恐怖と憎悪の間で揺れ動く心を解体する。宗教の名による暴力は宗教の基礎としての慈悲と共感を台無しにする。慈悲と共感のメッセージを多元的社会の連帯活動に変換する。

14.普遍的に承認された価値としての国際人権を受け入れる。すべての者が人間人格の自由で完全な発達を可能にする共同体に義務を有している。

15.宗教と現行国際法規範は宗教活動家に責任を帰する。宗教活動家を支援することは立法、制度改革、支援的公共政策の領域における活動を必要とする。国際条約はジェノサイド、難民、宗教差別、宗教の自由を法的用語で定義している。これらの概念はさまさまざまな宗教に根差している。

16.私たちは人間としてすべての人間に責任を有する。私たちは行動するべき時に適切に行動しないことについても責任を有する。

17.すべての人権の促進と保護にまず責任を有するのは国家であるが、私たちは宗教活動家として又は個人の信仰者として人間性と平等の尊厳のために立ち上がるそれぞれの責任を有する。

18.宗教共同体、その指導者及び信者には、国内法や国際法の下での公的人物とは独立にそれぞれの役割と責任がある。1981年の「宗教又は信仰に基づくすべての形態の不寛容と差別の撤廃に関する国連宣言」第21項に従って、国家、制度、集団、個人による宗教差別に従ってはならない。

19.紛争時における非国家活動家の責任について、宗教指導者にはつねに同様の法的倫理的正当性が求められる。

20.言論は個人および共同体が繁栄する基礎である。言論は人間の善と悪の両面にとって決定的なメディアである。戦争は心に隠された憎悪の唱道を呼び覚まし、燃料をつぎ込む。

積極的言論は和解と平和構築のための癒しの手段となる。言論は私たちがコミットしようとするもっとも戦略的な領域の一つである。

21.国際自由権規約第202項の下で、国家は差別、敵意又は暴力の煽動となる国民的人種的宗教的憎悪の唱道を禁止する義務がある。これには宗教の名による宗教指導者への憎悪の煽動が含まれる。発話する者の地位、文脈、その程度により、宗教指導者の発言は憎悪の煽動の導入になることがある。こうした煽動の禁止だけでは十分ではない。和解のための救済の唱道が等しく義務である。

22.この領域で最も重要なガイダンスは2012年のラバト行動計画によって提供されている。(a)宗教指導者は暴力、敵意又は差別を煽動する不寛容のメッセージや表現を用いないようにすべきである。(b)宗教指導者には不寛容、差別的ステレオタイプ、ヘイト・スピーチに確実かつ迅速に反対する発言をする重要な役割がある。(c)宗教指導者にとって、憎悪の煽動に呼応して暴力に寛容であってはならない。

 

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引用されている言葉の例

 

There are as many paths to God as there are souls on Earth. (Rumi)

Rumiはアフガニスタン出身のペルシャの詩人?

 

Whoever preserves one life, is considered by Scripture as if one has preserved the whole world.(Talmud, Sandhedrin,37,a)

 

Ye are the fruits of one tree, and the leaves of one branch. (Baha’u llah)

 

On the long journey of human life, Faith is the best of companions. Buddha