Wednesday, February 10, 2021

<被害者中心アプローチ>をめぐって(7)

ここ数年、在日本朝鮮人人権協会の年2回発行の機関誌『人権と生活』に「差別とヘイトのない社会をめざして」という連載をさせてもらっている。

 

その8回目に「差別と闘う教育・文化・情報――人種差別撤廃条約第七条の解釈」という文章を書いた。その構成は次の通り。

一 はじめに――国連人権理事会発言

二 人種差別撤廃条約第七条

三 欧州諸国における実践

四 おわりに

 

「一 はじめに――国連人権理事会発言」では、国連人権理事会で日本におけるヘイト・スピーチの状況を報告したことを書いた。東京メトロポリタン放送による辛淑玉さんへの差別、及び李信恵さんの反ヘイト裁判のことを取り上げた。

 

「二 人種差別撤廃条約第七条」では、元人種差別撤廃委員のイオン・ディアコヌの著書『人種差別』Ion Diaconu, Racial Discrimination, Eleven International, 2011.の条約第7条に関する記述を紹介した。

 

条約第6条が要請する個別の被害者の救済に加えて、条約第7条は、被害を受けやすい集団への差別を抑止するための教育や文化政策を要請している。

 

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 人種差別撤廃委員を務めたイオン・ディアコヌは、人種差別の克服には実行者に制裁を科す法や制度だけでは不十分であるという(ディアコヌ『人種差別』イレブン国際出版、二○一一年)。全住民に包括的な教育を行い、人種偏見と闘い、異なる人々や民族的出身者への寛容と理解を形成する必要がある。そのためにはすべての段階の学校、生涯教育、美術的創作、文化的創作のあらゆる段階、及び古典的な印刷(報道・出版)、ラジオ、テレビから、インターネットその他の技術に及ぶ広範な措置が含まれる必要がある。

 ディアコヌによると、条約第七条の目的のために、人種差別撤廃委員会は各国の状況を分析し、勧告をまとめてきた。教育、文化、情報の分野でなすべきことを各国に提案してきた。例えば次のような勧告である。

①社会全体に条約の諸規定を教育するキャンペーンを組織すること。

②民族的マイノリティに対する偏見と闘う教育と啓発の強化。

③人々に反ユダヤ主義に関する問題に敏感になるようにすること。

④すべての住民に人権の精神を教育すること。

⑤マイノリティに対する否定的態度や偏見と闘うこと。

⑥人種主義や排外主義を生み出すすべての傾向を監視すること。

⑦すべての者に多文化教育を行うこと。

⑧すべての段階の教科書に多様性と多文化主義を導入すること。

⑨民族的集団が調和の内に生きることができるように措置を講じること。

⑩世俗的学校や多宗教学校の普及。

⑪現行法の枠組みを差別が起きないように修正すること。

⑫カースト差別や人種的偏見の社会的容認を根絶する努力の強化。

⑬多文化的寛容、理解、尊重を促進する努力の継続。

⑭マイノリティ、外国人、難民申請者に対する敵意の予防努力。

⑮反人種主義キャンペーンの継続と強化。

⑯民族的マイノリティ、移住者、難民申請者の積極的イメージの促進。

またディアコヌによると、人種差別撤廃委員会は、メディアにおけるマイノリティ、先住民族、非市民に対する人種主義、排外主義、不寛容の現象に関心を表明してきた。各国には、メディアが人種的偏見やステレオタイプと闘うのを支援し、異なる集団の間の理解と共存の雰囲気を促進することが求められる。メディア倫理綱領の採択、条約に合致するインターネット規制法の制定が求められる。欧州諸国にはサイバー犯罪欧州委員会条約の批准が推奨された。人種差別を克服するため国連人権高等弁務官事務所との協力が助言された。