Thursday, April 22, 2021

ヘイト・スピーチ研究文献(172)川崎市条例

石橋学「全国初、罰則付きルールによって、ようやく差別と向き合い始めた行政」『住民と自治』第690号(2020年)

神原元「『川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例』の意義と課題」『住民と自治』第690号(2020年)

「桜本の在日コリアンは、娯楽のように差別を楽しむレイシストと、ヘイトデモの舞台を整えることで差別に加担する行政によって二重三重に絶望を刻み付けられてきたのでした」というジャーナリスト石橋は、川崎市条例にたどりつくまでの被害者と市民の歩みを振り返る。

弁護士の神原は、川崎市条例が3段階の手順で処罰を定めたことについて「表現の自由とのバランスをとったといえます」とし、煽動の処罰については「本条例はヘイトスピーチ全てを規制しようというのではなく、拡声器や看板、ビラの配布等、特に悪質なものをくくりだして規制するものですから、明確性の原則に照らしても、批判に耐えうる内容になっていると考えます」と結論付ける。

神原の認識を図式的に示すと次のようになるだろうか。

1)刑法の教唆=A(教唆者の教唆)+B(実行者の犯罪による被害)=処罰

2)破壊活動防止法の煽動=A(煽動者の煽動)+B(ここに該当するものがない)=処罰

3)ヘイト・スピーチ=A(差別の煽動)+B(差別煽動による被害)=被害

従来、破壊活動防止法の煽動の処罰については、Bの被害(具体的法益侵害やその危険性)が存在しないのに、煽動行為だけで処罰されるため、違憲ではないかとする学説が多かった。ヘイト・スピーチも同じだという批判があるが、神原によれば両者は異なる。ヘイト・スピーチの本質は差別煽動であり、被差別者の被害は「世間一般に対する差別煽動が行われた時点で発生する」ため、決定的に違う。それゆえ神原によればヘイト・スピーチの処罰は表現の自由に照らしても明確性の原則に照らしても十分合理的であるということになる。

石橋と神原の見解は私と同じである。国際人権法に照らして正当である。