Wednesday, February 23, 2022

サイバー警察局・サイバー特別捜査隊の創設に反対する学者・弁護士共同声明

  128日、岸田政権は警察法「改正」案を閣議決定し、直ちに国会に上程、いま内閣委員会で審議が行われている。しかしこの警察法「改正」案は、戦後警察の骨格であった自治体警察を中央集権的な国家警察に変えるものであり、絶対に許されない。ましてや、国家公安委員会・警察庁は同法案の骨格をなすサイバー警察局を41日に発足させるとし、予算関連法案として拙速審議しているが、あまりにも乱暴であり、十分に審議を尽くすべきである。

1.警察法「改正」は、国家警察を復活させる。

法案は、国家公安委員会の任務及び所掌事務として「重大サイバー事案」を規定し(544号)、同項16号で「重大サイバー事案に係る犯罪の捜査その他の重大サイバー事案に対処するための警察の活動に関すること」と規定、国家公安委員会の任務・所掌事務として犯罪捜査を認めている。さらに警察庁の内部部局として、サイバー警察局を設置し(19条)、その所掌事務を「サイバー事案に関する警察に関すること」(25条)とし、その「警察活動」を関東管区警察局に分掌させ(30条の2)、しかも関東管区警察局の管轄区域を全国とし、一元管理させるという。更に、重大サイバー事案での警察庁と各都道府県警察の共同処理を認め、警察庁長官が任命した者に、その指揮を委ねている(61条の3)。

しかし、国家公安委員会及び警察庁はこれまで、自らが犯罪捜査を行うことを認められていなかった(事務を行う行政機関、都道府県警の総合調整機能のみ)。これは、特高警察の幾多の人権侵害に象徴される戦前型の中央集権的な国家警察が否定され、戦後改革によって地方警察が警察活動を行うこととしたことに由来している。

 ところが、今回の「改正」で、54項16号を設け、犯罪捜査を認めている。これは、戦後改革で否定された国家警察の復活以外でないと思われるが、それについての納得できる説明はなされていない。生活安全局も同様な規定を持っているが、それは、捜査指揮等に限られているのであり、逮捕など具体的な捜査権は持っていない。

また関東管区警察局にサイバー警察局の所掌事務の一部を分掌させ、逮捕や捜査権を付与しているが、それは、管区警察局の本質を根本的に変更するものである。このような規定ぶりを許してしまえば、今後、他の警備公安・交通など警察庁の所掌事務についても警察活動を認めることになりかねない。市民に開かれた慎重な審議が必要になる。

 

2.国家警察にする立法理由がない。

立法理由は、「最近におけるサイバーセキュリティに対する脅威の深刻化に鑑み、国家公安委員会及び警察庁の所掌事務に重大サイバー事案に対処するための警察の活動に関する事務等を追加するともに、警察庁が当該活動を行う場合における広域組織犯罪等に対処するための措置に関する規定を整備する」とされている。しかしこれは理由になっていない。

「サイバーセキュリティに対する脅威の深刻化」などというが、2013年以来、既に14都道府県警察(北海道、宮城、警視庁、茨城、埼玉、神奈川、千葉、愛知、京都、大阪、兵庫、広島、香川、福岡)で活動しているサイバー攻撃特別捜査隊にその任務を委ねれば十分ではないか。今回新設されるサイバー特別捜査隊には、全国的規模での捜査権が与えられているが、その法的・現実的根拠はどこにあるのか?サイバー特別捜査隊とサイバー攻撃特別捜査隊との任務分担が不明瞭である。

いまサイバー犯罪増加と共にその検挙率は急激に上がっており、むしろサイバー攻撃特別捜査隊の活動の総括・点検が問われている。盗聴法「改正」によってどのような警察盗聴が行われているのか闇に包まれてしまったが、その公開も含め、サイバー社会・ネット監視のあり方が深刻に点検される必要がある。

もう一つ大きな立法理由とされているものは、国際連携の必要性である。昨年12月に公表されたサイバーセキュリティ政策会議の報告書では、サイバー隊の国際共同オペレーションへの参加が強調されている。国家間での協力を推進し、共同捜査を行うためには、国を代表する捜査機関が必要であり、サイバー隊を設けるのである。

国際連携は、何も警察庁に警察活動を認めなくてもできることであり、立法理由にはならない。国際協力を改正理由の一つとしているが、それと全国的捜査権とは別問題である。既に共謀罪創設に関わる国際的組織犯罪条約やサイバー犯罪条約、日米刑事共助条約など国際的な組織犯罪への取組みについて、警察庁は国際協力しているが、それについての警察活動は認められていない。

 

3.警察活動に係る規定は厳格でなければならず、警察権力の自己増殖は許されない。

そもそも提出法案の各種の規定ぶりが曖昧すぎる。たとえば警察法改正法案とその法案概要では、「重大サイバー事案」などの規定ぶりが異なっている。法案の規定ぶりによれば、海外からのサイバー事案はすべて含まれることになる(国外に所在する者であってサイバー事案を生じさせる不正な活動を行うものが関与する事案)が、「概要」では、サイバー攻撃集団に適用範囲を限定し、世論受けのするものに書き換えている、などである。

 警察庁によれば、2021年の刑法犯認知件数は568000件、19年連続で戦後最少を記録する一方、検挙率は46.6%と上昇し続けている。そのうちサイバー犯罪の検挙件数は過去最多だが12275件に過ぎない。なぜいまサイバー犯罪のみをことさら取り上げ、捜査体制の拡大・強化を図るのか説明がなされていない。コロナ禍での生活・生命危機など市民の不安に便乗することは許されない。

 我々は、このような多くの問題を抱え、警察制度を根源的に改悪しようとする警察法の改正には強く反対する。

20223

 

呼びかけ人

学者・研究者

足立 昌勝(関東学院大学名誉教授・刑法)

飯島 滋明(名古屋学院大学教授・憲法)

石塚 伸一(龍谷大学教授・刑事学)

岡田 正則(早稲田大学教授・行政法)

岡田 行雄(熊本大学教授・刑法)

清末 愛砂(室蘭工業大学大学院教授・憲法)

佐々木光明(神戸学院大学教授・刑事学)

清水 雅彦(日本体育大学教授・憲法)

新屋 達之(福岡大学教授・刑事訴訟法)

豊崎 七絵(九州大学教授・刑事訴訟法)

福島 至(龍谷大学名誉教授・刑事法)

前田 朗 (東京造形大学名誉教授・人権論)

宮本 弘典(関東学院大学教授・刑法)

村井 敏邦(一橋大学名誉教授・刑法)

 

弁護士

五十嵐二葉(東京弁護士会)

岩村 智文(神奈川県弁護士会)

海渡 雄一(第二東京弁護士会)

藤井 光男(沖縄弁護士会)

 

世話人代表 足立 昌勝    adamasa@fg7.so-net.ne.jp