Friday, March 13, 2015

ヘイト・スピーチ研究文献(10-6)「真実・正義・補償に関する特別報告書」の紹介(6)

ヘイト・スピーチ研究文献(10-6)「真実・正義・補償に関する特別報告書」の紹介(6)

6 効果的な優先戦略のための基準と制度の用意

 特別報告者は、侵害を許してしまう構造を解体することを提言しつつ、効果的な優先戦略のための基準について論じる。その際、検察官の独立性と公平性が注目される。

A 検察官の独立性

 特別報告者は検察官の役割に焦点を当てたガイドラインが重要だと言う(A/HRC/20/19)。このガイドラインは、検察官が公平に機能し、被疑者や被害者の地位を考慮しつつも差別なしに、公共の利害を保護するために職務を行うことを要求している。刑事訴追のような公共事項は、政府や政党の利益を保護することを目的としてはならないからである。検察官が政治の影響を蒙ることを避けるため、検察事務と司法省の関係は適切に調整される必要がある。制度、検察官の任命、検察内のヒエラルキー、検察官の間での事件の配分などが考慮される必要がある。検察官の外部的自律性と内部的自律性の両方が保障される必要があるという。

B 検察官の公平性と告発の代表性

 特別報告者によると、検察官の独立性を守るための措置は、公平な意思決定に役立つと言う。弁護的な訴追戦略は、一方当事者の違反が他方当事者の違反ほど重大でないという理由があっても、紛争の双方の事案を追跡する可能性を無視できない。検察捜査は信頼できる証拠によらなければならないし、訴追決定は証拠のみによらなければならない。最近のバングラデシュやエジプトの訴追例は以上のことの根拠となる。
 特別報告者は、国家の安全に対する罪、テロリズム、共謀など、国家が違反の被害者となる事例の告発が焦点化される一方で、人権法や人道法の違反が無視され、二次的なものとされがちなことに関心を有する。マリにおける現在の訴追は、その例で、性暴力やジェンダーに基づく暴力犯罪が軽視されている。

C 能力、制度、資源

 効果的な訴追戦略は、たいていの移行期国家が持つ能力を必要とする。訴追戦略に必要となるスキルが発展させられなければならないのみならず、促進されなければならない。重大な国際犯罪の訴追は複雑な要因を持つので、特別のユニットや機関が必要である。
 独立機関を有したのはドイツ、ポーランドであり、検察局内部に特別ユニットがつくられたのがアルゼンチン、チリ、コロンビア、コート・ジボアールである。
 そのためには適切な人的資源が必要である。ドイツにはナチス犯罪捜査中央事務所があり、最大時120人の職員が勤務していた。コロンビアでは、国家ユニットに50人の検察官、70人の捜査官、60人の分析官がいた。