岡本裕一朗『フランス現代思想史』(中公新書、2015年)
著者は実存主義までを近代思想とし、実存主義を批判して登場した構造主義以後のフランス現代思想を対象とする。これまでにも膨大な紹介・翻訳がなされてきた分野だが、意外なことに、フランス現代思想を概観できる著作がなかったと言う。
レヴィ=ストロース、ラカン、バルト、アルチュセール、フーコー、ドゥルーズ=ガタリ、デリダへ。つまり、構造主義の登場と席巻、68年5月革命の衝撃とそれへの対応、そしてポスト構造主義。さらには管理社会論と脱構築と言う流れで、フランス思想のエッセンスをわかりやすく書いている。分かりやすくという点だが、それぞれの思想家の思想を丁寧に紹介する手法ではない。それだけで大変な分量になるのは目に見えているので、著者はそうではなく、一点突破主義で、それぞれの思想家のキーワード、語り、所作の一部を象徴的に取り上げ、そこから著者が時代にどう立ち向かおうとしたのかを示す。その意味で本書を読んでも、それぞれの思想家の基本思想を知ることは実はできない。むしろ、1960年代から現在までのフランス思想が何にこだわり、何を解決しようとし、何をめざしながら、格闘してきたのかを端的に示す本である。
著者の本は、以前、『ポストモダンの思想的根拠』(ナカニシヤ出版)を読み、引用・活用させてもらった。当時は関西の研究者と思っていたが、今は東京の玉川大学のようだ。授業では、フランス現代思想、ドイツ思想、英米の思想のそれぞれを対比しながら取り上げていると言う。