宮田律『アメリカはイスラム国に勝てない』(PHP新書)
1月30日に出版されたので、パリ銃撃事件や日本人殺害事件よりも前、昨年中に準備されたものだが、見事なタイミングで出た本という言になる。著者にはお目にかかったことがないが、私たちの『21世紀のグローバル・ファシズム』(耕文社)にご協力いただいた。イスラム、中東問題について多数の新書を送り出してきた。
本書の基本認識は、アメリカの対するテロ戦争がイスラム世界の「パンドラの箱」をあけてしまい、テロリスト組織がどんどん増えてしまい、中東は不安定になる一方で、世界は戦乱に見舞われているが、アメリカには対処する有効な方策がまったくない、というものだ。アメリカ外交の失敗を、繰り返し指摘している。ブッシュが後先考えずに戦争に突っ込んでいって以来、アメリカは世界各地の紛争に介入を続け、介入にいずれも失敗し、一層の紛糾を生み出し、世界各地に不信と憎悪をばらまき、数十万の人々を死に追いやっている。そのことを、イスラム国という無法で異様な組織の培養器として描き、説得的である。2001年に中東世界にこんなにたくさんのテロ組織などなかったのだから。前半はイスラム国家を中心に、イラク、シリア、サウジアラビア情勢を追いかけ、次いでユルダン、イスラエル、クルドに転じながら、あちこちで人々が軍事的対立に追い込まれ、命も暮らしも犠牲にされていることが指摘される。
なるほどアメリカの失敗が続いている。もっとも、これはアメリカの大成功ともいえる。イスラムを敵対視し、中東を不安定にすることで、常に米軍介入の口実を作り、軍事予算を確保し、民間軍需会社の仕事も確保し、テロ組織に武器を提供しては、それが対立組織に流れることで、事態が一層流動化し、それによって米軍のプレゼンスと介入は必須不可欠となり、軍需産業は儲かるばかり。儲けの大半をアメリカが独占しているのだからこんなおいしい話はない。アベが涎を垂らしながらアメリカに媚を売りすり寄るのもこのためだ。恐るべき不幸な話だ。