Wednesday, March 04, 2015

大阪市ヘイト・スピーチ審議会答申を読む(6)

大阪市ヘイト・スピーチ審議会答申を読む(6)

*前回は、次の2点を述べた。

1)ヘイト団体の公共施設利用問題について、大阪市答申は泉佐市民会館事件・最高裁判決を引用しているが、これは事案が異なり、先例と言えないのではないか。

2)ヘイト団体の公共施設利用問題について、大阪市答申は憲法第21条の表現の自由だけを議論しているが、これは正当とは言えず、少なくとも憲法第13条、14条、25条などを同時に検討しなければならないのではないか。そうであれば、「ヘイト団体に公共施設利用を拒否できるか」という問題設定は不適切であって、「自治体はヘイト団体に公共施設を利用させることができるか」を問うべきではないか。


2-3 「大阪市独自の措置」について(承前)

第3に、人種差別撤廃条約である(そのほかの国際人権条約も含めて総合的検討が必要だが、ここでは人種差別撤廃条約に絞る)。

(1)条約は地方政府に何を求めているか。

 人種差別撤廃条約第2条第1項は「締約国は、人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なくとることを約束する」としたうえで、(a)(d)で次のように述べている。
「(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動するよう確保することを約束する」。
「(d)各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させる」。

 以上のことから、(直接的には締約国だが、間接的には)地方政府に次のことが求められている。
  人種差別を非難すること。
  人種差別撤廃政策をとること。
  人種差別の行為又は慣行に従事しないこと。
  地方のすべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動すること。
  いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させること。
従って、人種差別撤廃条約に照らして、地方自治体が人種差別の一つであるヘイト・スピーチに対して何をなすべきであるかを考える必要がある。

(2)大阪市がとるべき措置をどのように検討するべきか

1)大阪市は、人種差別、ヘイト・スピーチを非難するべきではないだろうか。

答申は「ヘイト・スピーチと認定した事案について、差別の拡散につながらないよう十分に留意しながら、ヘイト・スピーチであるという認識及びその事案の概要と講じた措置を公表することが適当である」とするが、「ヘイト・スピーチを非難する」としない。「ヘイト・スピーチであるという認識」を公表することに非難の趣旨が含まれるということであろうか。それとも、「講じた措置を公表する」の中に含まれるのであろうか。「講じた措置」とあるが、いかなる措置を講じるかについて、具体的に述べられていないが、今後、具体化するのであれば、「ヘイト・スピーチを非難する」と明記するべきではないだろうか。

2)大阪市は、人種差別撤廃政策をとること、それゆえヘイト・スピーチ撤廃政策をとることを定める必要があるのではないだろうか。

 答申は人種差別撤廃政策について何も述べていない。なぜだろうか。大阪市人権尊重の社会づくり条例前文の趣旨を活かし、同2条の内容を拡充して、人種差別撤廃の基本政策を策定するべきではないだろうか。その中にヘイト・スピーチ対策が含まれるべきではないだろうか。

3)大阪市は、人種差別の行為又は慣行に従事しないことを明示するべきではないだろうか。

答申はこの点について何も述べていないが、なぜであろうか。大阪市が積極的に人種差別行為を行うことがないとしても、大阪市の行為が結果として人種差別となるとか、人種差別を助長することになってしまうことがないとは言えない。

4)大阪市は、すべての公の当局及び機関がこの義務に従って行動することを明記するべきではないだろうか。

ここには市役所のみならず、教育委員会、公立学校なども含まれる。大阪市の行政から人種差別やヘイト・スピーチを一掃することを謳うことには大きな意味がある。

5)大阪市は、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させることを明記するべきではないだろうか。

 ここは極めて重要である。大阪市がヘイト・スピーチをしてはならないのは当然であり、それを定めることはさほど重要なことにはならないかもしれない。他方、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させることにはヘイト・スピーチを禁止し、終了させることが含まれる。

以上は人種差別撤廃条約第2条に基づいた議論である。これ以外に、人種差別撤廃条約第4条柱書及び同じ条(c)に基づく検討が必要である。さらに、人種差別撤廃条約第5条及び第7条に照らした検討も不可欠である。ここでは省略する。

本項の結論をまとめよう。

(1)  大阪市は、人種差別撤廃条約第2条に基づいて、人種差別を非難し、人種差別撤廃政策をとるべきである。とくにいかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁止し、終了させることが求められる。
(2)  それゆえ、大阪市は、ヘイト・スピーチを非難し、ヘイト・スピーチ手パイ政策を取り、ヘイト団体によるヘイト・スピーチを禁止し、終了させるべきである。
(3)  この解釈は、先に述べた日本国憲法第13条、14条、第25条の要請にも合致する。この解釈は、最高裁判例に抵触しない。

(4)  それゆえ、大阪市は、ヘイト団体がヘイト集会を開催するために、公共施設を利用させてはならない。特に、ヘイト集会の宣伝をインターネット上で行う様な場合、大阪市はこれを非難すべきであり、人種差別を終了させるべきであり、公共施設を利用させてはならない。