Monday, March 02, 2015

ヘイト・スピーチ研究文献(10)「真実・正義・補償に関する特別報告書」の紹介(1)

「真実・正義・補償に関する特別報告書」の紹介(1)


1 パブロ・デ・グリーフ報告書

1-1 二度目の報告書

  国連人権理事会第27会期に提出されたパブロ・デ・グリーフ報告書を紹介する。正式名称はパブロ・デ・グリーフ「真実・正義・補償・再発防止保障の促進に関する特別報告者」の報告書(A/HRC/27/56. 27 August 2014)である。

  前回の報告書、パブロ・デ・グリーフ「真実・正義・補償・再発防止保障の促進に関する特別報告者」の報告書(A/HRC/24/42)の紹介は、前田朗「真実・正義・補償に関する特別報告書(一)(二)」『統一評論』577号、『統一評論』579号参照。

  この特別報告者は二〇一一年九月二九日の人権理事会決議一八/七に従って設置された。今回の報告書が二度目の報告である。

  パブロ・デ・グリーフは、2012年5月から特別報告者として活動を始めた。パブロ・デ・グリーフは、ニューヨークの「移行期司法のための国際センター」研究事務局長である。それまではニューヨーク州立大学バファロー校准教授(倫理学、政治学)であった。主な著作に『移行期司法を理論化する』、『移行期司法の発展と現状』等がある。


1-2 目次

Ⅰ 序論
Ⅱ 特別報告者の活動
Ⅲ 包括的移行期司法政策の一部としての刑事訴追
Ⅳ 捜査し訴追する義務
Ⅴ 訴追優先戦略を通じての説明責任の強化
Ⅵ 効果的な優先戦略の諸要素
Ⅶ 効果的な優先戦略のための基準と制度の用意
Ⅷ 訴追戦略の設計における被害者参加
Ⅸ 結論と勧告

 以上の通り、今回の主要なテーマは移行期司法における刑事訴追の意義と機能である。


1-3 「慰安婦」問題への言及

 報告書は特別報告者がこの一年間に取り組んだ活動の概略を紹介しているが、その中で、日本軍「慰安婦」シンポジウムについて言及している。

 「真実委員会に関する報告書を提出したのに続いて、特別報告者は「日本軍政奴隷制」及び「真実アーカイブへのアクセス」に関するサイドイベントに参加した。また、アルゼンチン、エジプト、日本、ケニヤ、スウェーデン、チュニジア、ウガンダ、ウルグアイの代表、及びNGOメンバーと会った。」(3頁、パラグラフ7)


 これは二〇一三年九月一一日に、ジュネーヴの国連欧州本部で開催された、NGOのアムネスティ・インターナショナル(AI)主催のサイドイベント「日本軍性奴隷制の生存者に正義を」のことである。イベントを準備したのはAIと韓国挺身隊問題対策協議会。冒頭に挺対協が持参した被害者証言ビデオを上映し、続いて挺対協のユン・ミヒャンが基調報告。そして、韓国の被害生存者キム・ボクドンさんの証言。台北婦女救援基金のファン・シューリン発言。そしてパブロ・デ・グリーフ特別報告者が発言。さらにキャサリン・バラクラフ(AI東アジアキャンペーン担当)、及びジュンヨン・ジェニー・ヘオとクボタ・ハルホ(ともにカナダから来た若手活動家)が国際活動の紹介。最後に前田が、日本政府が補償を怠り、正義が実現されていないことについて発言した。グリーフ特別報告者発言との重複を避けて、九〇年前の九月に起きた関東大震災コリアン・ジェノサイドの話や、二〇〇〇年女性国際戦犯法廷、麻生太郎副首相のナチス発言に触れ、最後に、八月一四日を国際メモリアルデーにしようという運動の紹介をした。