Sunday, March 15, 2015

戦後日本の「核イメージ」史のスケッチ

山本昭宏『核と日本人――ヒロシマ・ゴジラ・フクシマ』(中公新書、2015)

唯一の被爆国日本で、核の軍事利用から「核の平和利用」への道がいかに敷かれたかはこれまで多くの研究が出されてきた。本書は同じ問題を、歴史社会学的にとらえ返す。報道、世論、知識人の発言だけではなく、まんが、映画などの大衆文化に着目して、日本人が核を嫌悪しながら核を歓迎する矛盾した社会意識を形成し、揺れ動いてきた歴史をたどる。

冒頭、1985年の手塚治虫漫画展で発表された風刺漫画では、原発反対運動の漁民たちが描かれ、その上空を鉄腕アトムが逃げるように飛んでいて、泣いている。足許からは放射性物質が舞い落ちている。

手塚以外に、福井英一(イガクリくん)、高野よしてる(13号発信せよ)、石森章太郎、藤子不二雄、桑田次郎(8マン)、山上たつひこ、もりたじゅん、弓月光、山岸涼子、江川達也、こうの史代、萩尾望都、雁屋哲・花咲アキラ(美味しんぼ)など多彩な漫画が取り上げられる。

著者は1984年生まれの神戸市外国語大学専任講師。戦後史における核――原爆と原発をめぐる社会意識の変容をコンパクトにうまくまとめている。あとがきの次の言葉は意外だった。

「筆者の研究の動機を遡れば、大江健三郎に行き着く。大江の小説や評論を読んでいると、作品とそれを読む自分との緊張関係のなかに、さまざまな社会問題が入り込んでくるように感じた。一人の人間の文学と思想について理解を深めれば、そこから世界全体を見渡すことができるような広い領野に行き着くかもしれない。そのように考えて、大江の作品を読むうちに、絶望的な諦観とそれを乗り越えようとする希望的とも言える強い意志とを感じるようになった。そして、その原因の一つに、広島原爆の問題があると読み、さらには原爆にとどまらず、核エネルギーと人類との関係を捉えようとする視点を知った。」


1984年生まれの著者が大江文学からこのテーマに入っていたと言う。春樹でもばななでもなく。