ベルンから電車で40分ほどでゾロトゥルンの町に出る。町の中央をアーレ川が流れるが、もともとの旧市街はアーレ川の片側につくられた城壁都市だ。城壁の大半が今も残っていいて、往時をしのばせる。ルツェルンを始めとして、スイスではかつての城壁の多くが失われた町が多い。ムルテンと並んでゾロトゥルンは中世の街並みと城壁がそのまま残っている。町の中心には聖ウルゼン・カテドラルがそびえる。カテドラルの中を見学し、中央広場を歩いてから、城壁の外に出ると小さな美術館がある。
1階ホールでは、トゥロ・ペドレティTuro Pedretti展だった。第二次大戦後に活躍した表現主義の地元画家で、ジョヴァンニ・ジャコメティ、クーノ・アーミエ、エルンスト・ルドヴィヒ・キルヒナー、エドゥアルト・ムンク、アンリ・マチスらとともに活躍したと言う。100点ほどの作品をそろえた回顧展だ。前にサンモリッツのセガンティーニ美術館やクール美術館で回顧展が行われたと言う。作品の多くがスイス中部・東部の各地の風景画だが、若い時期の自画像も展示されていた。「キルヒナーへのオマージュ」という作品もなかなかのものだ。
2階は常設展。中世から近現代の絵画・彫刻作品だ。特筆すべきは2点。これだけはガラスケースに収められている。一つは、1425年頃のオーバーライン地方の画家による「ストロベリーを持ったマドンナ」。もう一つは、1522年のハンス・ホルバインの「ゾロトゥルンのマドンナ」。聖ウルゼン・カテドラルに掲げるために制作されたようで、窓の形に合わせているが、中央に赤ん坊を抱えたマドンナ、そして両脇に聖職者と騎士を配置している。マリアとキリストに比した、ゾロトゥルンのマドンナと赤ん坊である。聖職者と騎士が守り手としてえがかれる。ところが、聖職者の右手は数枚のコインを持っていて、その先に男性の顔だけが描かれている。貧しい男性に聖職者が喜捨している図だ。
他に主要な作としては、ルドルフ・ビスの「豊饒の聖家族」、フランク・ブッヒャーの「タンバリンと裸の黒人女性」、ジョヴァンニ・ジャコメティの花や裸婦像が数枚、アルベルト・ジャコメティも彫刻・女性像が一つ、ホドラー、バロットンがそれぞれ10点近く。クリムトの「金の魚」もあった。セザンヌ、ブラック、ピカソも1点。
圧巻はクーノ・アーミエが数十点だ。アダムとイヴを描いた「楽園」、「夕暮れの豊かさ」、「桜の木」、「黄色い丘」、「陽のあたる場所」、「春の景色」など、年代順にみると画風の変化が良くわかる(展示は必ずしも年代順でなかったので、2度目に年代順に見て歩いた)。最後の「リンゴ狩り」は「楽園」のリンゴとは違った、奇妙で楽しいリンゴ狩り。ホルバイン、ブッヒャー、アーミエは収穫だった。