Friday, January 01, 2021

世界を手探りする意外な対談

池上彰・的場昭弘『いまこそ「社会主義」』(朝日新書)

https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=22423

<池上彰がマルクス経済学の専門家と対談。資本主義や社会主義の歴史を振り返り、世界経済の現在・過去・未来をわかりやすく解説。混迷の時代を生き抜くために我々は何をすべきか? アメリカ大統領選挙後の動向も見据えつつ、未来への指針を提示。>

意外な組み合わせの対談だ。間を取っての折衷説を披歴するマンネリ・ニュース解説者の池上が、マルクス学の第一人者の的場を対談相手に選んだのは、不思議にも思うが、むしろ池上のアンテナの感度が良好なためなのだろう。意外な組み合わせと思うのは、偏見のためかもしれない。俗流ニュース解説は、多くの視聴者が聞きたがる意見を伝えるが、それがただちにポピュリズムになるわけではない。時代の転換点を池上なりに突いているのだろう。

1章 資本主義の限界――格差拡大という難題

2章 社会主義の挫折――なぜ格差を解消できなかったのか

3章 国家主義の台頭――自国ファーストが招く危機

4章 そして、未来へ――われわれは何を選ぶのか

「社会主義」と括弧がついているように、本書では社会主義が多様な意味で用いられている。19世紀の思想としての社会主義、マルクス・レーニン主義、ソ連東欧社会主義、自主管理社会主義、そして中国、キューバ等々。

的場はマルクス学の第一人者であり、プルードン研究者であり、ユートピア研究者であるから、多様な社会主義の全体をカバーしつつ、現代世界を分析する視角として活用する。資本主義を乗り越える思想としての社会主義の歴史的意義を踏まえつつ、破綻した現実の社会主義の問題点を検証し、現代世界を把握し、乗り越えるための視座をいかに獲得するかが課題である。

池上も、新型コロナ禍の現実を見据えながら、資本主義、ネオリベ、グローバリゼーションの限界を意識しながら、参照軸としての社会主義に関心を寄せる。

上からの社会主義と下からの社会主義、西欧社会主義と非西欧社会主義、官僚制、開発独裁、帝国と国民国家・・・

池上が宇沢弘文の「社会的共通資本」を引き合いに出し、評価しているのは意外だった。そこから本書の着地点が明確になることも。

池上は、新型コロナ禍のもとでの医療崩壊に関連して、ネオリベによる保健所や医療施設の廃止、解体が進められたこの問題性を繰り返し指摘している。

この点は斎藤貴男・前田朗『新にっぽん診断』でも重要視したことだ。新型コロナによって医療崩壊が生じたというのは、政府やマスコミによるフェイクである。実際には安倍政権下のネオリベ政策推進による保健所や医療施設の統廃合によって保健医療システムが崩壊したところに、新型コロナが到来した。多くの論者は因果関係を逆転させたが、池上は的確に指摘している。

ソ連型社会主義や国家主義的社会主義とは異なる未来を展望する的場は、気候変動問題や人種民族対立などの克服のため公共的な課題を解決するため、「NGOのような活動的組織が資本主義社会の企業の資本をゆっくりと取り込み、地域集団が所有する公共的な資本へと変えていく(社会化していく)のではないか」と言う。

新型コロナのために余儀なくされた「価値観の変容」の内実が問われることになる。

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