Thursday, January 28, 2021

刑罰権イデオロギー批判のために(2)

宮本弘典『刑罰権イデオロギーの位相と古層』(社会評論社)

第2章「プレ・モダンの刑法――暴力行為等処罰法第一条「数人共同シテ」の意義」、及び第3章「暴力行為等処罰法の来歴――「血なまぐさい歴史を持った法律」」は、暴力行為等処罰法の歴史に光を当てる。宮本は、法政大学事件刑事裁判で東京地裁に提出した意見書において「血なまぐさい歴史を持った法律」の由来と形成過程を辿り直し、「暴力行為等処罰法は、一般刑法の外装を纏った治安刑法の雛形ともいえようか。この法律が命脈を絶たれるどころかいまなお活用されている現実こそが、ニホンの刑事司法と刑事法制に巣喰う権威主義的性格を物語っている」と診断を下す。

第4章「ニホン刑事司法への歴史の警告」、及び第5章「ニホン型自白裁判の桎梏――裁判員裁判と戦時体制下の刑事司法」において、宮本は、ファシズムとの訣別の上に制定された日本国憲法と現行刑訴法にも「プレ・モダン」は生きていると指摘する。無罪推定や「疑わしきは被告人の利益に」原則は単なるスローガンに矮小化され、人権保障の当事者主義は実現を阻まれている。弁護権も自白法則も日本的変質を被り、戦時刑事特別法の「流儀」が継承される。松尾浩也のようなデュープロセス論の唱導者すら現実に拝跪し、理念を投げ捨てた。1990年代以後の「刑事立法のラッシュ」はあらゆる口実をもとに治安管理を強化し、プレ・モダンとポスト・モダンのアマルガムを創り出している。

1に近代国家の刑事司法そのものの暴力性、第2に大日本帝国が作り上げた極度に抑圧的な狂気の刑事司法の暴力性、第3に日本国憲法による民主的司法改革にもかかわらず、大日本帝国から引き継がれたプレ・モダンの特異性、そして第4に戦後刑事司法が織りなしてきた70年余の歴史における治安主義と弾圧の法理――これらすべてが日本刑事司法の骨格を形作っていることを、宮本は突き付ける。