Thursday, August 15, 2019

ネット時代の暗黒の思想を学ぶ


木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義』(星海社新書)

サブタイトルは「現代世界を覆う<ダーク>な思想」。著者はブロガー、文筆家で、思想、インターネット文化、ポップカルチャー、アングラカルチャーが縄張り。著書に『ダークウイェブ・アンダーグラウンド――社会秩序を逸脱するネット暗部の住人たち』(イースト・プレス)があるという。

知らない出版社、知らない著者だが、書店に山積みになっていた。

「ニック・ランドを知らずして現在と未来は語れない」とある。ニック・ランド、知らない。

「あのピーター・ティールから遡るその新反動主義・加速主義」とある。ピーター・ティール、知らない。新反動主義も加速主義も知らない。

かなり遅れてる。勉強しなくては、というわけで読んでみた。

まず何よりも読みにくい本だ。文章が、ではない。装幀というか、表紙だけでなく、本文頁も真っ黒だ。真っ黒の中に白い部分があり、そこに活字が並ぶ。ページをめくってもめくっても、黒、黒、黒。なにそろ<ダーク>な思想だ。暗黒啓蒙だ。ひたすら「黒く塗れ」という本だ。思想の黒さが伝わらないと不安になって、物理的に黒くしたのだろう。読むのに忍耐がいる。名は体を現わすのか、体は名を現わすのか。
リベラルな価値観に否を突きつける新反動主義、暗黒啓蒙の旗手は、ピーター・ティール、カーティス・ヤービン、ニック・ランドだという。ネットでDark Enlightenmentで検索すると確かに出てくる。反民主主義で、反啓蒙主義で、近代にノーを突きつける。

そうした雰囲気が、哲学、思想、SF小説、音楽、映像等多様なジャンルに影響を与えているようだ。他方で、カント批判や、マルクスからの引用や、ドルーズ&ガタリ、リオタールまで登場する。日本ではこれまでまとまった紹介がなされてこなかったが、仲山ひふみ、桜井夕也などが詳しいようだ。

近代にノーというのは、歴史的にいくらでもあったと思うが、本書では、それらとの関係は解説されていない。