Sunday, August 04, 2019

日本の空は誰のものか


吉田敏浩『横田空域』(角川新書)


「首都圏を広く高く覆う空の壁、急上昇や迂回を強いられる民間機」

「羽田や成田を使用する民間機は、常に急上昇や迂回を強いられている。米軍のための巨大な空域を避けるためだ。主権国家の空を外国に制限されるのはなぜなのか。密室で決められる知られざる法体系を明らかにする。」

戦争協力拒否のルポや日米合同委員会の研究で知られるジャーナリストが、横田空域の歴史と現在を追う。横田基地を中心とする膨大な広域をアメリカ軍が航空管制している。日本の空で蟻、しかも首都東京のすぐ近くであるのに、日本側には権限がない。そればかりか、自衛隊用の訓練空域も米軍がほぼ自由に使用している。

このため現実に被害が起きている。民間機は不自由な空域を飛ぶために常に事故の危険性に晒されている。人口密集地の上空を米軍機が低空飛行で攻撃訓練をしているため、爆音の被害も大きい。アメリカでは人口密集地の上空を飛ばないオスプレイが日本ではどこでも構わず飛んでいる。そこに「人間」が住んでいないからだろう。危険物の落下もある。

横田空域や岩国空域は、しかし日米安保条約にも地位協定にも書かれていない。密室で取り決められた「他の取極」に書いてるらしい。秘密にされているため確認できない。つまり、日本の空は米軍制服組と日本側の官僚が密室で決めているのだ。

ドイツやイタリアの駐留米軍については、このような情況にはなっていない。担当者から「ここはドイツなので、ドイツの法律に管轄権がある」という当たり前の答えが返ってくるという。外国軍が勝手気ままに空を使っているのは、日本だけのようだ(韓国の状況は本書には出てこない)。

著者は横田空域がどのように使われているか、その実態を明らかにした上で、歴史をさかのぼり、いつ、どのようにして現状が形成されたかを調べ、各地の被害実態を紹介する。横田空域の現状を示す図版や、事故記録の一覧表も重要である。

著者は住民の生命と人権を守るために「米軍に対していかに規制をかけるか」として、航空法特例法の改定・廃止、国内法の米軍への適用、国際法原則の遵守、機密文書の公開、地位協定の改定、日米合同委員会という秘密システムの廃止などを提案する。

日本はアメリカの「属国」だということはよく指摘されてきたが、本書を読めば、「日本は果たして人間が住んでいる属国なのか。人間が住んでいない属領として扱われているのではないか」という疑問が生じてくるだろう。