Wednesday, August 14, 2019

ヘイト・クライム禁止法(160)パレスチナ


8月13日、CERDはパレスチナ報告書の審査を始めた。2014年にICERDを批准して、初めての報告書である。議長も委員達も口々に「歴史的瞬間」と繰り返し、パレスチナ政府を歓迎。

報告書は62頁あり、かなり充実している。日本政府の初めての報告書は80頁もあったが、条文の引用ばかりで中身がスカスカで、実に評判が悪かった。パレスチナ報告書は、スタンダードな記述方法で、水準に達している。

鄭鎮星委員がパレスチナ担当で、かなり包括的にレヴューしていた。「イスラエル/パレスチナ問題」ではなく、「パレスチナ内部の人種差別問題」だ。知らないことばかり書かれているので、担当者は大変だろう。鄭委員だって、「パレスチナ内部の人種差別問題」を以前から知っていたとは思えない。私たちの念頭にあるのは、イスラエルに抑圧され空爆され、被害を受けてきたパレスチナだ。

マイノリティとして、370人のサマリタンがいるが、3646年前からナブルスに住んでいた、12氏族の末裔だという。4世紀から住んでいたアルメニア人、及び第一次大戦後に逃げてきたアルメニア人が、最大時5000人いたが、今は500人。アフリカ系住民もイェルサレム旧市街にいる。イェルサレムとベツレヘムにシリア人が4000人。キリスト教のコプト人は1000人いて、エジプト系コプト語を話すが、文字はギリシア語らしい。各地にマグレビスも20000人、さらにロマもイェルサレムに1200、ガザに5000。以上とは別に、ベドウィン、国内避難民、難民、移住労働者がいる。こうした人々の状況が中心テーマだ。

パレスチナ政府がCERDに提出した報告書(CERD/C/SLV/18-19. 14 September 2018

パレスチナはCERD一般的勧告第35号に従っている。独立宣言で世界人権宣言を受け容れ、国際自由権規約を留保なしに批准し、基本法は表現の自由を掲げ、1995年の印刷出版法第2条が意見表現の自由を保障している。

刑法はヘイト・スピーチへの対処を行っている。西岸に適用される1960年のヨルダン刑法第130条は、国民感情を傷つける目的のプロパガンダを流布し、人種的又は信仰上の緊張を扇動した者は3年以上15年以下の刑事施設収容とする。刑法第150条は、信仰又は人種的緊張を高める目的で文書又は言説を公表し、国民の共同体や構成員の間に紛争を扇動した者は6月以上3年以下の刑事施設収容とする。

ガザ地区に適用される1936年の刑法第59条及び第60条は、パレスチナ住民の間に不和や離反を惹起し、住民の異なる諸階層に悪意や敵意の感情を助長した者は3年の刑事施設収容とする。

1995年の印刷出版法第47条は、国民統合を傷つけ、犯罪実行を扇動し、敵意を拡散し、憎悪、不和、意見の衝突の原因を作り、共同体構成員の間に信仰の政治主義化を扇動する新聞やメディアの記事を流布した者は3月以上の停職及び当該記事の没収とする。

2007年の選挙法第108条は、選挙宣伝、演説、広告、図像を用いて、性別、宗教、信仰、職業又は障害に基づいて他の候補者を扇動又は攻撃した者、又はパレスチナ人民の統合を傷つける緊張を扇動した者は6月以上の刑事施設収容及び500ドル以上の罰金とする。

2005年の地方委員会選挙法第25条は、選挙演説等において性別、宗教、信仰、職業又は障害に基づいて他の候補者を扇動又は攻撃した者、又はパレスチナ人民の統合を傷つける緊張を扇動をしないように定める。

2017年のサイバー犯罪法第24条は、人種紛争を惹起する情報を流布、回覧するためにウエブサイト、アプリケーション、電磁的アカウント、ITメディアを利用した者は、特定集団に対する人種差別目的、又は人種や信仰の理由、皮膚の色、外見、障害に基づいて、人を脅迫、中傷、攻撃した者は、一定期間の強制労働及び5000以上10000以下のヨルダン・ディナールの罰金とする。

サイバー犯罪法第25条は、ウエブサイト、アプリケーション、電磁的アカウントを制作し、インターネット又はITを手段として、国際文書に規定されたジェノサイドや人道に対する罪の行為を誤解させ又は正当化する見解を流布した者は、終身強制労働、又は10年以上の強制労働とする。

2015年のパレスチナ憲法草案第14条は、出身、人種、性別、宗教、社会的地位、意見又は障害を理由にした差別を元に扇動及び宣伝を行うことを処罰するとしている。

宗教に関しても、特にアルメニア人やシリア人住民との関係で、ヘイト・スピーチを禁止している。西岸に適用される刑法第278条、ガザ地区に適用される刑法第149条、1995年の印刷出版法第447条、2017年のサイバー犯罪法第21条などが宗教的ヘイト・スピーチを処罰する規定である。

人種差別を助長又は扇動する人種主義団体は違法であり、禁止される。西岸に適用される刑法第144条は、内戦や信仰上の紛争を刺激する意図を持った武装集団への参加を終身刑としている。西岸に適用される刑法第151条は、信仰又は人種的緊張を扇動し、又は国民の共同体や構成員の間の紛争を扇動するために設立された結社に参加した者を6月以上3年以下の刑事施設収容及び50ディナール以下の罰金とする。

ガザ地区に適用される刑法第69条は、違法な結社を定義し、第70条は16歳以上の者が違法な結社の構成員となった場合、違法な結社の内部で職責又は行為を行った場合、違法な結社の代表となった場合、違法な結社の指導下の組織や学校の教師となった場合、1年の刑事施設収容とする。

パレスチナ報告書は、以上の他、占領下パレスチナにおけるイスラエルによるヘイト・クライム/スピーチについても報告している。