Thursday, August 08, 2019

外の前に内を騙し、統制する技法


山崎雅弘『歴史戦と思想戦――歴史問題の読み解き方』(集英社新書)


産経新聞をはじめとするいわゆる「右派」が内外で仕掛けている「歴史戦」とは何か。

『日本会議』の著者・山崎は、産経新聞や右派の著作を渉猟し、「歴史戦」の由来、目的、方法論をつぶさに明らかにする。「歴史戦」は、歴史研究とは関係がない。事実を解明することには関心がない。歴史の教訓という発想もない。あるのは、日本は正しい、日本の戦争は悪いことはしていない、という結論を先取りして、それに都合の良い素材を並べ立て、日本を擁護し、自分を擁護し、同時に他者を貶める思想運動である。

それゆえ、「歴史戦」の方法は、かつての大日本帝国が行った「思想戦」と酷似する。実体はプロパガンダだからだ。一方的に宣伝すること、押しつけること(他者にも自分自身にも押しつけ続ける)、異論を排し、抑圧すること。ここでは、議論を通じて新たな知見を獲得することは否定される。予め定めた結論を押しつけることだけが目的となる。

それゆえ、「歴史戦」は、「歴史研究」の敵対物となる。まじめな歴史研究は障害となる。

「慰安婦」問題や南京事件に限らず、あの戦争で日本が犯した戦争犯罪や人道に対する罪はことごとく否定と矮小化の対象となる。それどころか近現代日本史全てが美しき物語りでなければならず、あらゆる欺瞞が積み重ねられる。山崎は、こうした「歴史戦」の特質を如実に浮き彫りにする。

「思想戦」のことは知っていたが、「歴史戦」と「思想戦」を類比して、丁寧に説明されると、なるほどそうだったのか、と納得。ドイツでも日本でも、総動員体制の戦争遂行には、「銃後」が重視される。対外的な自己正当化の前に、内部を固めなければ戦争遂行に妨げとなってしまう。外の前に内を騙し、統制する。そのためにはまず自分を偽る。欺瞞を信じる。確信する。一切疑念を持たない。これが出発点だ。