Saturday, December 04, 2021

フェミサイドの現状02

1 なぜ、親密なパートナー又は家族メンバーによる女性・少女殺害に焦点を当てるのか?

親密なパートナー又は家族メンバーによる女性・少女殺害は、通常なら信頼を期待される人による殺害であり、ジェンダーに基づく暴力のうちもっとも極端な現象の一つである。それ以前の心理的、性的、身体的虐待などのジェンダーに基づく暴力の到達点である。

親密なパートナー又は家族メンバーによる女性殺害は、ジェンダー関連殺害の唯一の形態ではない。私的領域の外でも起きる。例えば、女性性労働者の殺害、人身売買や組織犯罪に関連する女性殺害、魔女という口実による女性殺害がある。ジェンダー関連の動機に基づいて行われるが、これらを定義し、説明する基準となるようなアプローチがまだない。統計情報は、それぞれの国の定義や法律に基づいているため、世界的レベルで比較することができない。この問題を扱うために、国連は一連の会合を設定してきた。

本報告書は親密なパートナー又は家族メンバーによる殺害の女性被害者に焦点を当てる。それがジェンダー関連殺害、又は「フェミサイド」の最大の比率を有するからである。この類型の殺害のデータは、家族領域の外で起きるジェンダー関連殺害のデータよりも、容易に入手でき、比較できる。親密なパートナー又は家族メンバーによる女性殺害の国際的に比較できるデータは寄せ集めではあるが、UNODC, International Classification of Crime for Statistical Purposes(ICCS)(ウィーン、2007年)のおかげで、十分比較できる。アフリカやアジアはまだ十分カバーしていないが、問題の規模や傾向についての有用な情報が収集されている。家族の外での殺害に関するデータはもっと限られており、十分でない。 

国連麻薬犯罪事務所と国連女性連盟が作成した「女性と少女のジェンダー関連殺害(フェミサイド)を評価するための統計枠組み」(未公刊)

フェミサイドへのアプローチや定義は各国でも国際的にもさまざまである。例えば2015年の国連事務総局報告書は、「ジェンダーを理由とする女性と少女の故意の殺害」としている。直接又は間接的にジェンダー関連動機に基づいているので他の故意殺人とは異なる。

既存の統計アプローチと調和をとるため、2019年の国連統計委員会は、国連麻薬犯罪事務所に、フェミサイドに焦点を当てて、ジェンダーに関連する犯罪の統計枠組みを作るように求めた。国連麻薬犯罪事務所と国連女性連盟は、そのために専門家協議を重ね、International Classification of Crime for Statistical Purposes(ICCS)を作成した。

一般的に言うと、女性・少女のジェンダー関連殺害は、ジェンダー動機に基づいて行われ、男性の女性に対する優越性イデオロギー、男性性に関する社会規範、男性支配や権力、ジェンダー役割の強要、容認できない女性行動と見なした場合の予防や制裁といった理由である。

フェミサイドには明らかに概念的な意味があるが、統計上の用語としてはまだ困難がある。まだ十分な基準ができたわけではなく、更に研究が必要である。

<フェミサイドの統計指標>

以前のハラスメントや暴力の記録

女性の自由の違法な剥奪

実力行使及び/又は傷害

公共領域に身体を晒す

ヘイト・クライム

以前の性暴力

性産業で働く被害者

違法な搾取を受ける被害者

これらの指標によってフェミサイドを確定できるが、まだ各国の統計に採用されていない。各国がこれらの指標を採用するようになるまで、データを集積し推測することになる。この指標自体は、被害者と加害者が親密なパートナーであることを含んでいない点でも十分ではない。被害者と加害者の関係についての統計情報も必要である。

従って、上記8つの指標に加えて、次の2つの指標が重要となる。

女性・少女が親密なパートナーに殺害された

女性・少女が家族メンバーに殺害された

これによってフェミサイドの各国の統計を取ることができ、比較分析が可能となる。例えば刑事司法過程全体を通じての分析ができる。政策形成につながる。