Sunday, December 26, 2021

イスラム嫌悪に対抗する03

Ⅰ 序文

Ⅱ 方法論

Ⅲ 任務活動

A 不寛容な語りの流布

B 差別

C 暴力

ムスリムに対する暴力が世界中で広まっており、各国当局が暴力を煽動し、暴力予防をしない例がある。国家政策とムスリム差別の間に関連があり、イスラム嫌悪が蔓延っている。ムスリムの信仰、雇用、教育、移住が国家によって抑圧されている。暴力事件は単発ではなく、路上のヘイト・クライムは各国による偏見再生産の帰結である。

ミャンマー、中国におけるムスリム・マイノリティに対する暴力は重大な関心事項である。マリ、インド、スリランカではムスリムに対する大衆暴力や過激主義の脅威が増えている。警察も大衆暴力に加わっている。

OSCE加盟29か国で2017年、ムスリムに対するヘイト・クライムが頂点に達し、アメリカでは201419年、イスラム健保による事件が1万件を超え、件数も暴力性も悪化している。ニュージーランドのクライストチャーチ事件では51人が殺害された。モスク礼拝のムスリムに対する攻撃はカナダ、イギリス、ノルウェーにも見られる。ジョージアの学校のドアに豚の頭が吊るされるなどムスリムの動物化も起きている。スイス、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、ラトヴィア、フランス、北マケドニア、ギリシア、ノルウェー、フランス、アメリカ、スリランカ、インドでも同様である。

ムスリム女性はとりわけイスラム嫌悪ヘイト・スピーチの標的とされ、オランダでは90%、フランスでは81%が女性被害である。言葉による攻撃、侮蔑、身体傷害、殺すという脅迫がある。オーストラリアのある調査ではムスリム女性の96%が頭を覆うヴェールをかぶっている時に攻撃された。犯行者は公衆が見ていても攻撃を止めようとしない。60%の攻撃が、警察などが見ている場で行われた。スロヴァキアでは、路上で公然と、赤ん坊を抱いている女性のヴェールで首を絞めようとする事件も起きた。

イスラム嫌悪ヘイト・クライムは、テロリスト攻撃の後やその周年の際に増加する。イギリスのEU離脱投票やアメリカ大統領選挙の際にも悪化した。2015年のパリのテロリスト攻撃の後にもモスク攻撃が起きた。

 

Ⅳ イスラム嫌悪に対抗する

A 国際法枠組み

宗教の自由の権利は差別からの自由の権利その他の権利と相互に関連する。宗教の自由、信仰、その教育の権利への不当な制限は国際法における差別の禁止の中核に関連する。国際法は市民的政治的経済的社会的文化的権利を制限する差別政策は、宗教の自由の権利の侵害になるとする。本報告書で見てきた諸事例はムスリムを標的とした、宗教の自由に対する不当な制限である。宗教を選択する個人の自由は絶対的であり、国家が宗教の表明を制限できるのは、公共の安全、秩序、健康と道徳、他人の権利を保護するために必要な場合に限られる。各国はしばしば「国家の安全」や、「共生」を理由として宗教的衣装、宗教文書の配布、宗教教育を制限しようとするが、これらは正当な理由とは言えない。制限は、あらかじめ法律に明示され、その目的と効果において非差別でなければならない。

国際自由権規約26条は法の前の平等を定める。人種差別撤廃委員会は、人種差別撤廃条約が宗教的理由による差別にも適用されるという。国際自由権委員会は、ジェンダーに特有の宗教的衣装の着用禁止はジェンダーと宗教の双方に基づく交差的差別であるという。女性差別撤廃委員会は、宗教に基づく女性差別は女性差別撤廃条約のジェンダーに基づく差別であるという。

国際人権機関は各国に差別を惹き起こす諸条件を予防、撤廃する措置を講じるよう呼びかけている。宗教その他の理由に基づくステレオタイプの防止も含まれる。特別報告者は、各国にヘイト・スピーチに対処するためラバト行動計画を適用するよう促す。

B オンライン・ヘイト・スピーチに取り組む

デジタル企業・ソーシャル・メディア企業の中にはヘイト・スピーチ政策を採用している例がある。FacebookYouTubeTwitterInstagramSnapchatTikTok等は2016年以来EUの「違法なオンライン・ヘイト・スピーチ対策規則」に関与して、違法なヘイト・スピーチを削除している。これにはムスリムに対するヘイト・スピーチも含まれる。

FacebookYouTubeTwitterは、2019年には違法なヘイト・スピーチを92%削除した。Facebookは「監視委員会」を設置した。

もっとも悪質な書き込みを削除するように政策変更がなされたが、「ボーダーラインの書き込み」が増えており、ヘイト・スピーチ政策に合致するか否か判断が難しくなっている。オンラインの書き込みをスクリーニングするアルゴリズムが開発されているが、抽象的な書き込みを正確に分類することは容易でない。ソーシャル・メディア企業がオンライン・ヘイト・スピーチに対処する政策をとるようになったことを歓迎するが、その定義や意思決定過程は透明とは言えない。